デパケンの妊娠への影響とは?
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デパケンを使用中・お薬の妊娠への影響が気になる方へ
デパケンは、抗てんかん薬や気分安定薬として優れた作用があります。
片頭痛の予防薬としても使われ、副作用もそこまで目立たず、比較的使いやすいお薬です。
ですが、妊娠への影響には気を付けなければいけません。
デパケンは妊娠へどのように影響するのでしょうか?
デパケンを服用しながら妊娠が判明した場合、どのようにすればよいのでしょうか?
ここではデパケンの妊娠への影響と、継続して妊娠を進めていく場合の対策をお伝えしていきます。
デパケンの妊娠への影響は?
デパケンには、催奇形性(赤ちゃんの奇形を生じやすくすること)が報告されています。
妊娠初期の時期にデパケンを服用すると、赤ちゃんの器官形成に影響を与える可能性があります。
具体的には、二分脊椎(にぶんせきつい)、心奇形、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)、尿道奇形、多指症、顔面奇形などが発生するリスクを高めてしまうのです。
その中でもとくに二分脊椎のリスクが高く、飲まない人に比べ、そのリスクが20.6倍に上がると言われています。
また、デパケンは胎児の認知機能にも影響すると考えられています。
1日1,000mgを超えて服用している場合、赤ちゃんの知能指数(IQ)が低くなったり、自閉症スペクトラム障害の発症率が高くなるという報告もあります。
デパケンが影響しやすい妊娠の時期は?
デパケンがもっとも影響しやすいのは、赤ちゃんの器官が一気につくられる妊娠初期(とくに4週~7週)です。
ですので、デパケン使用中の方は妊娠を計画的にしていただき、妊娠希望があるときは必ず主治医へ伝えてください。
妊娠前にお薬の切り替えや減量を検討していきます。
けれど、デパケン以外ではどうしても病状がコントロールできない患者さんもいらっしゃいますので、そのときはできるだけリスクを低くする工夫をしながら、処方を続けることもあります。
また、デパケン服用中に予想外の妊娠をしてしまった…ということもあるかもしれません。
そのときは過度に心配せず、まずは主治医へ相談してください。
リスクがあると言われるお薬を飲んでの妊娠・出産には不安があるとは思いますが、まったくお薬を飲まない健康な女性であっても、奇形の発生率は3~4%は認められます。
デパケンを服用すると、それが平均で11.1%になると報告されており、可能性を高めてしまうのはたしかですが、見方をかえれば、90%の方には奇形が確認されていません。
もちろん、避けられるリスクは避けた方が望ましいのですが、無理な中止で病状が不安定になってしまうリスクの方が高い場合もあります。
止むを得ず処方するときは、できる限り奇形を予防するための対策もありますので、まずは主治医とよく相談するようにしましょう。
妊娠中にデパケンを使うときの注意点は?
上でお伝えした通り、デパケンを抜くことでの病状悪化のリスクが高い方の場合、デパケンを継続していくことも検討されます。
そのときは、できるだけデパケンの影響を少なくするため、以下のようなことに注意して使います。
- できるだけデパケン単剤にする
- 徐放製剤のデパケンR錠を使う
- 用量は1日1000mg以下にする
- 血中濃度70μg/ml以下にする
- 葉酸を1日0.6mg補充する
- 妊娠早期で検査を行う
できるだけデパケン単剤にする
デパケンとテグレトールを併用すると、奇形率が上がるという報告もあるため、デパケンは単剤にした方がリスクが低くなります。
徐放製剤のデパケンR錠を使う
デパケンには、ゆっくりと作用し、血中濃度が安定しやすいデパケンR錠があります。
こちらの方が赤ちゃんへの影響が減らせると考えられています。
用量は1日1000mg以下にする
デパケンの1日量が1,000mgを超えると奇形率は29.8%にまで達し、胎児への認知機能の影響も報告されています。
600mg以下では奇形率がぐんと下がりますので、1日1000mg以下に抑えます。
血中濃度70μg/ml以下にする
血中濃度は70μg/ml以下を目安にします。
葉酸を1日0.6mg補充する
葉酸(ビタミンBの一種)が不足すると、普通の状態でも奇形のリスクが高まると言われています。
とくにデパケンを飲むと葉酸量が低下しやすいので、葉酸を補充することでリスクを下げることができます。
妊娠早期で検査を行う
妊娠16週で血清αフェトプロテイン・18週で超音波検査を行い、状態を確認していきます。
なぜデパケンは妊娠へ影響しやすいの?
デパケンで奇形が起こりやすくなるのはなぜでしょうか?その原因としては、大きく4つの仮説があります。
- DNAへの影響
- 赤ちゃんの体内に蓄積しやすい
- 酸化ストレス
- 葉酸欠乏
現在、もっとも有力視されているのは、DNAへの影響です。
DNAへの影響
デパケンは、細胞が合成されていくときのDNAに必要な「ヒストン脱アセチル化酵素(HDCA)」という酵素を阻害してしまいます。
この作用により、赤ちゃんの器官形成に影響を及ぼしやすくなると考えられています。
赤ちゃんの体内に蓄積しやすい
お母さんが飲んだお薬は胎盤を通して一部が赤ちゃんに伝わりますが、移行のしやすさはお薬によって異なります。
デパケンは移行しやすい性質で、血液量の少ない赤ちゃんの体内では血中濃度が母体の3倍に濃縮されることが分かっています。
酸化ストレス
デパケンによって活性酸素が過剰になり、タンパク質や脂質、DNAを損傷してしまう可能性も考えられています。
葉酸欠乏
ビタミンBの1つである葉酸は、DNA合成には大切な栄養素です。
デパケンは葉酸量を低下させやすく、それが奇形率を高めると考えられていましたが、現在ではその影響は少ないと言われるようになっています。
まとめ
デパケンは、妊娠初期の服用で赤ちゃんの奇形リスクを高めることがわかっています。
原則としては妊娠前に他のお薬へ変更しますので、服用中の方は計画的な妊娠を心がけ、妊娠希望・可能性のある方は必ず主治医へ伝えておきましょう。
けれど、お薬のリスクより、デパケンを中止することで病状が悪化するリスクの方が高い患者さんもいらっしゃいます。
そのときは、できるだけ影響を小さくする注意をしながら、デパケンを続けることもあります。
もちろん、避けられるリスクはできるだけ避けることが望ましいのですが、お薬を飲まない方でも妊娠へのリスクはついてまわります。
デパケンはリスクとお薬の必要性の両面を考え、慎重に使うことが大切なお薬です。不安のあるときは主治医とよく相談し、対策をしていきましょう。
※お薬全般の赤ちゃんへの影響について詳しくは、『妊娠へのお薬の影響とは?よくある7つの疑問』をお読みください。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:デパケン(バルプロ酸) 投稿日:2023年3月23日
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