適応障害
適応障害とは、新しい生活や人間関係の変化にうまく対応することができず、不安や抑うつ、イライラ、集中力の低下などの症状が現れ、社会生活に支障をきたす病気です。
適応障害には様々な要因がありますが、特に、進学や就職・転職、結婚・離婚、引っ越し、退職後などの生活環境が大きく変化したときに起こりやすい症状です。
生活が上手くいかないような強いストレスを抱えた状態が続くと、うつ病など、別の病気を発症する可能性もあります。
また、周囲から「甘えているだけ」「本人の性格の問題」とされてしまう場合も多く、治療に繋がらないケースも多数存在します。
ですが、生活に支障が出るレベルのストレスを抱えているため、医療機関で適切に治療することが望ましいです。
適応障害の原因
適応障害は、ストレスの原因がハッキリしていることが特徴です。
ライフスタイルの変化
- 会社の部署異動や転職
- 学校の入学や進学
- 結婚や出産
- 一人暮らしのスタート
意外かもしれませんが、結婚や昇進など周囲からすれば喜ばしい出来事でも、ご本人にとってはストレスの原因となり得ます。
人間関係の悩み
- 会社の上司や同僚と気が合わない
- 同居している家族とのトラブル
- 交際しているパートナーとの別れ
それまでの環境と大きく変わらないとしても、人との関わりの中でストレスを感じた結果、心身に影響が出てくることは珍しくありません。
適応障害の症状
適応障害の症状は、一言でまとめると「ストレスで引き起こされる症状すべて」です。ストレスによる心身の不調は人によってさまざまで、一概にまとめることはできません。
すべての方に共通するものではありませんが、適応障害と診断された方の症状としては、以下が多くみられます。
精神症状(こころの不調)
- 気分が落ち込む
- 不安感が強まる
- 意欲が低下する
- 集中力がなくなる
身体症状(からだの不調)
- 眠れない、または寝過ぎてしまう
- 食欲が低下する、または過食になる
- 胸がドキドキする
- 吐き気、めまい、ふるえ
行動に異常が起こる場合も
- お酒やタバコの量が増える
- 浪費行動が抑えられない
- 周囲とのトラブルが増える
適応障害の診断基準
適応障害は、以下4つの基準を参考に診断されます。
- ストレスの原因が明確で、ストレスを感じてから3か月以内に症状が出ている
- ストレスにより強い苦痛を感じている、または生活に支障が出ている
- その他の精神疾患や、死別反応(大切な人を亡くした喪失感)ではない
- ストレスの原因がなくなると改善して、6カ月以内に症状が回復する
適応障害は、ストレスの原因が明確で、原因から離れると回復するのが特徴です。そのため「原因はわからないけど、体や心がしんどい」という方は、適応障害ではなく別の病気が隠れている可能性が高いでしょう。
適応障害の治療法
当院での適応障害の治療は、主に以下の2つを重要視しています。
(1)環境を調整する
適応障害は、ストレスの原因が明確です。そのため、まずはストレスの除去を目指して、患者さまとの対話を重ねていくことが多いです。
- 自分が置かれている状況を確認して、ストレスの原因を見つける
- 現状で改善できそうなことを探して、環境を調整する
仮にストレスの原因が職場にある場合は、休職を取ることで、数日〜数週間で心身の回復が期待できます。
とはいえ、ストレスの原因から簡単に離れられる方ばかりではありません。
当院では、患者さまのお話を丁寧に伺いながら、どのように環境を調整するかを一緒に検討しています。
(2)ご本人の適応力を育てる
ストレスの原因を取り除けたとしても、その後の人生の中で、新たなストレスと対面することもあるでしょう。環境の調整だけでは難しい部分は、ご本人の適応力を高めて、ストレスに対応していく必要があります。
適応力を高める方法として、当院では主に以下の方法をご提案しています。
- 症状を和らげて環境に適応しやすくするために、薬物療法を行う
- 認知行動療法などの精神療法で、適応力の高め方を探る
どのような方法が合うかは、人によって異なります。ご自身が置かれている環境や性格と向き合って、自分に合った解決策を探っていくことが大切と言えるでしょう。
「適応障害」と「うつ病」の違い
「不安感が強まる」「睡眠や食欲に影響が出る」などの症状は、適応障害のみならず、うつ病の症状としても当てはまります。そのため「適応障害だと思っていたら、うつ病だった」という方の存在も否定できません。
適応障害とうつ病の違いは、主に以下の通りです。
適応障害
- ストレスの原因がハッキリしている
- ストレスが除去されると、症状は回復する
うつ病
- ストレスが積み重なって、症状が悪化する
- ストレスが除去されても、すぐに回復しないことが多い
うつ病の治療法とは?
ご本人が適応障害だと思っていたものが、仮にうつ病だった場合、治療法は大きく変わります。現在の日本では、うつ病に対する一般的な治療として「休息」・「薬物療法」で症状を安定させて、再発予防として「精神療法」を取り入れる方法を用いることが多いです。
うつ病の詳しい治療法については、以下の記事を参考にしてください。
適応障害の治療をお考えの方へ
本記事では、適応障害の症状や治療法について解説しました。
適応障害は、ストレスの原因を見つけて、居心地のいい環境に調整していくことが回復への第一歩です。
また、ストレスに上手に対処するには、適応力を高めることも必要です。
ストレスの原因と向き合うのは、簡単な作業ではありません。当院では、こころの臨床経験が豊富な精神科医が患者さまのお話を丁寧に伺い、治療方針をご提案しています。ストレスと向き合うお手伝いが必要な場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
適応障害について、さらに詳しく知りたい方は、以下をご参照ください。
【こころみ医学】適応障害について執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了