【専門家が解説】自立支援医療(精神通院医療)
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自立支援医療とは?
心療内科や精神科といった心の病気は、しっかり治療をするためには継続して通院を行う必要があることが多いです。
症状が重い人の方が診察をこまめに行っていく必要がありますが、通院の回数が多くなると診察代がかさみますし、それに加えて薬局でのお薬代などの費用も大きくなりがちです。
症状により社会生活に支障が出てしまって仕事が続けられなくなるなど、収入に影響が出てくることもあります。このように継続的な治療が必要な方に対して、金銭的な負担を少しでも抑えて治療に専念していただくための制度として、自立支援医療制度があります。
自立支援医療を利用すると医療費が1割になり、収入によって月の上限額が設けられます。
自立支援医療の対象疾患
まずは自立支援医療の対象疾患についてみていきましょう。
自立支援医療の対象疾患は、心の病気全般になります。法律で規定されている病名を、まずは列挙してみます。
- 病状性を含む器質性精神障害
- 精神作用物質使用による精神及び行動の障害
- 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
- 気分障害
- てんかん
- 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害
- 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群
- 成人の人格及び行動の障害
- 精神遅滞
- 心理的発達の障害
- 小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害
これらの病気をみていただくと、ほとんどすべての心の病気が当てはまります。つまり自立支援医療制度は、すべての心の病気が対象といえます。
しかしながら、一定レベル以上の病状でなければ、年収制限などがついてしまいます。法律上では、一定レベル以上の病状を「重度かつ継続」と表現しています。
それではその一定レベル以上とは、どのように判断しているのでしょうか?実は2つの判断基準があります
- しっかりと治療する必要がある特定の病気(病名から)
- 3年以上の精神医療の経験ある医師が診断書を作成
重度かつ継続に当てはまるかどうかは、医師の記載する診断書で判断されます。自身の病態が自立支援の適応に該当しそうか、まずは主治医の先生に相談してみることが大切です。
重度かつ継続にあたる病状とは?
重度かつ継続でなければ、住民税が235,000円以上の場合は対象外となってしまいます。年収500~600万ほどになるかと思います。それでは、「重度かつ継続」の判断基準を詳しくみてみましょう。
まずは病名から判断されます。以下の5つの病気であれば、重度かつ継続として年収は関係なく自立支援医療が適応になります。
- 病状性を含む器質性精神障害
- 精神作用物質使用による精神及び行動の障害
- 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
- 気分障害
- てんかん
具体的には、
それ以外の病名に関しては、3年以上の精神医療の経験を有する医師が診断書によって判断することで重度かつ継続と判断されます。
以下のような症状があって、計画的で集中的な通院医療を継続的に要すると診断した場合になります。
- 情動及び行動の障害
- 不安及び不穏状態
基本的には、主治医が診断書で判断することとなっています。平成25年以前から適応されている方で新たに重度かつ継続に該当する方は、改めて意見書の提出が求められることがあります。
自立支援医療の診断書について
自立支援の診断書についてみていきましょう。
- 病名
- 病歴
- 病状に〇をつけてコメント記載
- 治療内容(お薬と精神療法、訪問看護)
- 今後の治療方針
- 障害福祉サービスの利用状況
- 備考
- 重度かつ継続の判断
このようになります。
けっこう記載する内容は多いため、当日に記載することは難しいことが多いです。診断書の料金は医療機関によって様々ですが、3000円+税ほどが一般的かと思います。(当院の料金設定です)
診断書の内容を心配される方もいらっしゃいますが、私は申請が却下されたことは経験していません。書類の不備があれば、訂正して再提出を求められることはあります。
診断書の様式は、都道府県および政令指定都市ごとに異なった様式となっています。しかしながらその内容は、大きくは変わりません。当院のある神奈川県であれば、
- 川崎市
- 横浜市
- 相模原市
- 神奈川県
の様式があります。当院ではエクセル形式で電子化して、近隣エリアの書式を用意しています。
自立支援医療が適応される医療費
外来での医療費とお薬代に自立支援医療が適応されます。診療に必要な血液検査や心理検査なども適応となります。
適応とならない医療費としては、以下のようなものがあります。
- 入院での医療費
- 精神疾患と関係がないお薬代(風邪薬や便秘薬など)
- 保険適用でない治療や投薬
- 文章料
また、自立支援医療申請の際に登録をした医療機関と薬局でしか利用ができないので注意が必要です。
通常は医療機関にかかった際に7割が保険の負担となり、3割が自己負担分となります。自立支援医療制度を利用した場合、この自己負担分が1割となります。
また世帯の所得により、1カ月単位での自立支援医療における自己負担上限額を設けられています。この場合の世帯は、家庭内で同じ健康保険に加入している人を同じ世帯と考えます。
同居していたとしても、異なる健康保険に加入していれば別世帯になります。(例:自身は会社の健康保険に加入しているが、家族は国民健康保険の場合など)また18歳未満の方が申請する際は、保護者の収入で判断されます。
月額自己負担上限額について
世帯収入によって、月額自己負担上限額が異なります。
【上限額が5,000円の場合】
月に3日通院で1回の通院にかかる外来医療費とお薬代の1割負担合計額が1,500円とすると、月に6,000円の支払いが必要になります。しかし上限額が5,000円ならば、支払いが5,000円に達した時点でその月はそれ以上の支払いは必要なくなり、1,000円は支払い不要となります。
世帯収入は、いわゆる住民税の金額で判断していきます。それによって月額上限額が変わってきます。
※一定所得以上世帯での上限額20000円は平成30年3月31日までの経過措置なので、それ以降は変更となる可能性があります。
当院のある川崎市では、独自の制度として一定所得以上の世帯の範囲が拡大されています。
- 市民税額23万5千円以上39万円未満:月額上限額が40,200円
となります。
自立支援の申請から利用までの流れ
- 主治医に自立支援医療診断書の作成を依頼をする。
自立支援医療の指定医療機関の申請を行っていないこともあります。そもそも自立支援医療を行っていく病状かどうか、主治医に相談してみましょう。
申請をすることになった場合、診断書フォーマットを医療機関で用意してある場合とそうでない場合があります。医療機関にない場合は、役所で診断書原本を貰って持参することとなります。
- その他の必要書類をそろえる。
以下のものが必要ですが、お住いの地域によって異なる場合もございます。事前に役所に連絡をして確認することをお勧めします。役所の担当窓口は、障害担当の窓口となります。(障害支援課や障害福祉課など)
- 印鑑
→シャチハタは使えませんが認印は大丈夫です。 - 保険証の写し
→国民健康保険の場合は家族全員分の写し、それ以外の場合は自立支援申請者とその健康保険の被保険者の写しが必要になります。 - 登録したい医療機関と薬局の所在地と名称が分かるもの
→医療機関については診察券など、薬局についてはお薬手帳などで大丈夫です。医療機関は1機関、薬局は2機関まで登録できます。 - 身元確認ができる書類
→写真付きの書類なら1枚(自動車運転免許証、個人番号カード、パスポート、精神障害者保健福祉手帳等の写しなど)、顔写真なしの書類なら2枚(健康保険証、生活保護受給者証、国民年金手帳等の写しなど) - マイナンバー個人番号確認書類
→個人番号カード、番号通知カード、住民票の写しなど - 世帯の市民税額を証明する書類
→市民税非課税の方は年収が分かるもの - 課税(非課税)証明書
→1年以内に引っ越しをして住民票が異なると必要になる場合があります。
- 診断書とその他必要な書類を役所の障害担当の窓口に提出
申請すると、自立支援受給者証が1カ月~1カ月半で届きます。また、申請の際に申請書の控えがもらえます。
受給者証が届くまではこの控えを代わりに使うことで、自立支援医療の適応を受けることができる医療機関とそうでない医療機関があります。事前にどのような扱いになるか、医療機関に確認をしていただくことをお勧めします。
ただし、自立支援医療が適応になるのは申請以降の診察からになります。申請前の診察時の医療費に遡って適応することはできませんのでご注意ください。
- 受給者証もしくは控えを、受診時に医療機関や薬局の受付へ提出する。
お会計が変わってしまうため、会計時ではなく来院時に提出してください。受給者証が届いた以降は、控えではなく受給者証を来院時に提出してください。自己負担金額を書き込んで上限金額の管理をしていますので、忘れないようにしてください。
自立支援医療費の払い戻し
申請書の控えを代わりに使うことができない医療機関の場合、受給者証が届くまでは3割負担での会計となり、受給者証が届いた後に医療機関で払い戻しの形になります。
しかし、払い戻しの対応をどのような形で行っているかは医療機関によって異なります。どのような形で払い戻しの対応をしているかの確認を、事前に医療機関にして頂くことをお勧めいたします。
医療機関での払い戻しができない場合は、役所で払い戻しの手続きをしていただくこととなります。
- 払い戻し申請書(役所の窓口でもらえます)
- 医療機関が発行した領収書
- 上限額の管理表
などが必要になりますが、役所によって必要書類は異なる場合もありますので、こちらも役所へ事前確認することをお勧めいたします。
※市や区によっては、上記のような払い戻しを実施していないところもあります。
自立支援医療の更新
自立支援医療の有効期間は1年間で、毎年の更新が必要です。2年に1回、更新の際に診断書の提出が必要になります。
受給者証に有効期限は記載されていますし、診断書が必要かどうかも記載されています。更新は有効期限の3カ月前から可能です。
【診断書がいらない年】
→市役所の障害担当窓口で更新を行います。必要な書類などは役所の窓口で直接受けとれますが、念のため更新時も必要物を事前に確認することを勧めます。
【診断書が必要な年】
→まずは医療機関の主治医に自立支援医療の更新にあたり診断書が必要な旨を伝えて、診断書の作成をしてもらいます。少し余裕をもって依頼したほうが良い課と思います。それ以降の手順は、診断書がいらない年と一緒です。
その他に必要となる手続き
その他に、
- 転居をした際
- 氏名が変わった際
- 加入している健康保険が変更になった際
- 登録医療機関か薬局を変更する際
などに役所の障害担当の窓口で手続きが必要です。事前に役所に必要物を確認してから手続きに行くようにしましょう。
特に、現在通院中の医療機関から転院を検討される際は、登録医療機関や薬局を変更しないと転院先で自立支援医療が適応になりません。まずは希望の医療機関が自立支援医療に対応しているかを確認した上で、役所で変更手続きを行うようにしましょう。
よくある質問
自立支援医療についてよく頂くご質問を、こちらでまとめていきたいと思います。
風邪薬などをもらった場合は自立支援医療の適応になるのでしょうか?
自立支援の適応範囲は、精神障害あるいはその障害に起因して生じた病態に対する医療行為と投薬になります。このため精神科や心療内科で処方されたとしても、風邪薬などの心の病気と関係のないお薬は適応外になります。
便秘薬などは扱いが難しいところになります。心の病気の治療薬の副作用として便秘となった場合は、自立支援医療の適応と考えることもあります。主治医によっても見解が異なりますし、状況によっても判断が異なってきます。
自立支援は申請すれば必ず適応になるのでしょうか?
診断書の内容を見て、各地域の精神保健福祉センターという機関が審査を行います。基準の病状に該当しないと判断された際は申請が通らないこともあり得ます。
しかしながら私が診断書を提出していて、これまで申請が却下されたことはありません。自立支援医療の診断書は、そこまで厳格な審査をされてはいない印象があるので、過度に心配する必要はありません。
申請する前の医療費を適応することはできますか?
申請日以降からの適応になりますので、遡っての自立支援医療の適応はできません。
また登録医療機関を変更する場合も、変更申請をした以降でないと新しい医療機関では自立支援医療の適応になりません。
自分の限度額がいくらになるのか、またいつ更新が必要になるのかが分かりません
申請後の控えには、詳しくは書いてないかと思います。受給者証が届くのを待ってください。
受給者証に自身の限度額と重度かつ継続に該当しているか、自身の自立支援の有効期限が記載されています。
自立支援受給者証の有効期限が切れるとどうなりますか?
有効期限が切れてしまうと、再申請をするまで自立支援医療の適応ができなくなってしまいます。
続けて適応を希望の方は、必ず有効期限内で更新を行うようにしてください。また続けての適応を希望しない方は、更新をしなければ自立支援はそのまま無効となります。
診断書のお願いしたら主治医に嫌がられませんか?
自立支援医療の診断書を主治医に頼みにくいとお悩みの方もいらっしゃるかと思います。
自立支援医療の診断書を嫌がる医師は、そこまで多くないと思います。確かに記載する内容は多いのですが、そこまで厳密にみられる書類ではありません。慣れると時間もそこまでかからず、診断書を作成することができます。
通院をこまめに行いやすくなるので、むしろ医師側から積極的にすすめることもあります。私としても患者さんの自己負担が少なくなれば、こまめな治療を提案しやすくなります。毎週の治療等が必要になるような方で自律支援制度の適応になる方には、私からも積極的にすすめています。
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:制度・サービス 投稿日:2019年5月11日
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