摂食障害の症状・診断・治療
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摂食障害とは?
『摂食』とは食べることです。
食べること。それは、睡眠・排泄と並び、生物にとって欠かしては生きていけないもっとも基本の生理的な行為の1つです。
人間にとっては、コミュニケーションのツールとしての役割や、精神的な満足を与えてくれるものでもあります。
しかしながら、その『食べること』が当たりまえにできなくなってしまう病気があります。それが摂食障害です。
食べ過ぎる、食べる内容や量・時間帯がコントロールできない、太るのが怖くて食べられなくなる、食べると吐かずにはいられない、下剤を乱用してしまうなど、状態は人によって様々です。
この病気はダイエット願望の強い若い女の子特有のものと思われがちですが、摂食障害には様々なタイプがあります。
体型にこだわりがなく過食だけが症状の人や、中高年や男性にも患者さんはいて、一見普通の体型で普通の生活をおくっている人たちの中に、苦しんでいる人がたくさんいるのです。
摂食障害は、誰にでもおこる可能性のある身近な病気です。
そして重要なこととして、神経性食思不振症(AN)とよばれる拒食症では、命の危険も及ぶことのある病気です。
あまりにも体重が低下している場合は命の危険もあるので、専門的な医療機関での治療が必要になります。
※当院では残念ながら、摂食障害に関する専門的な治療は行う体制が整っていないため、一定以上の摂食障害の方は専門病院への通院をお願いしています。
摂食障害の主な種類
摂食障害の種類を大きく区別すると、
- 食べ物への依存が中心
- 体型・体重に過度にとらわれている(過度なやせ願望や肥満恐怖がある)
この2つの病態に分かれます。夜間のみの過食、肥満恐怖のない拒食、異食など特殊な病態もあります。
代表的な摂食障害は、
- 過食性障害(むちゃ食い障害)
・食べ物への依存が中心
・体型・体重への過度なとらわれはない
・過食衝動が主な症状 - 神経性大食症(神経性過食症/BN)
・体型・体重への過度なとらわれがある
・過食衝動もある
・過食する代わりに嘔吐や下剤乱用などでカロリー吸収に抵抗する
・カロリー抵抗は徹底せず、それなりの体型にとどまっている - 神経性やせ症(拒食症/AN)
・体型・体重への過度なとらわれがある
・カロリー摂取して太ることを過度に拒否する
・過食衝動はあるときと無いときがある
・過食衝動があるときは、嘔吐や下剤乱用などのカロリー代償行為を徹底して行う
・明らかにやせた体型を維持している
この3つです。
これらには目安として診断基準がありますが、そこに該当しないとしても似た傾向があるときは、初期段階や特定不能の摂食障害と考えられます。
夜間や就寝時のみ過食がおこる「夜間摂食異常症候群」、過食はせずに食べ物を噛んで吐き出すだけのチューイング、氷などを食べる異食症など特殊なタイプもあります。
また、摂食障害と言えるほどの段階には達していなくても、過食傾向や食べ方に異常がおこっているときは心や脳に負担がかかっているサインの可能性もあります。
他の精神的な病気や発達障害などに合併して食行動の変化がおこる場合もあります。
摂食障害は人によって状態に大きな差があるため、一般的な心療内科や精神科の外来で対応できるのは軽度~中程度の人に限られます。
明らかな痩せ状態の拒食症の人や、身体に深刻な影響が及ぶほど過食・過食嘔吐などが重症の人、自傷行為やアルコール依存などを合併している人は専門の病院への受診が必要です。
(※このページで書かれていることは、あくまで一般論です。摂食障害は個々による状態や心理背景が大きく異なり、かならずしもすべての人に当てはまるわけではないので注意してください)
摂食障害の症状をチェック
どのような状態になっていると摂食障害の疑いがあるのでしょうか?
症状の出方は様々ですが、以下のような傾向が1つでもあれば、摂食障害の1種またはその初期症状かもしれません。
『摂食障害』という名前はつかなくても、脳や心に何らかの負担がかかっているサインの可能性があります。
過食依存型
- これまでの自分に比べて明らかに食べ過ぎることが増えた
- お腹が苦しくなっても食べるのを止められない
- 食べる内容や量や時間帯やスピードがコントロールできないときがある
- 衝動的に食べた後に自分を責めたり無気力になったりする
- 食べたくないものでもあれば口にしてしまう
- 常に食べ物を口にしていないと落ち着かない
- 食べ物のことばかり考えてしまう
- 異常に食べ過ぎているのではと悩んでいる
- 過食するのが怖くて人と食事をとれなくなった
- 食事は1人前で抑えても後で過食してしまう
- 生理的な空腹や満腹がわからない
- 空腹や食事時間にかかわらず食べたくなる
- 食べ物がなければ買いに走ってでも食べようとする
- 人のものなどを我慢できず食べてしまうことがある
- 衝動にかられ、味わいもせず一気に食べてしまうことがある
- 吐くまで食べても満足できず、過食と嘔吐をくり返してしまう
- 夜間無意識に食べてしまう
- 過食をしないと眠れない
- 食べ物にお金を使い過ぎてしまう
- 大切な仕事や約束より食べることを優先させてしまう
などになります。
「過食依存型」の症状は、食べることが1種の依存物質になってしまっている状態です。
これらの状態が見られる人は、過食性障害(むちゃ食い障害)という摂食障害の可能性があります。
その診断基準には当てはまらないにしても、食べ方・量・内容・スピードなどにコントロールを失い、精神的・肉体的に強い苦痛を感じていたり、生活に支障が出ているときは、病気として対応が必要です。
※詳しくは、『過食性障害(むちゃ食い障害)』の項目をごらんください。
体型・体重依存型/過食+不適切なカロリー消費
- やせたいと強く思っているのに衝動的に過食をしてしまう
- 過食した後に嘔吐、下剤乱用、無茶な運動などをしてしまう
- 嘔吐などはするものの思うようにやせられずイライラする
- いつも体型や体重や食べ物のことが気になる
- 常に体重をはかっている
- 食べる内容やカロリーに強くこだわる
- 過食衝動がおこると食事内容や量をコントロールできない
- やせることや食べ物のことで頭がいっぱいになっている
- 食事をしていても吐くことを考えてしまい集中できない
- 過食嘔吐がしたくて仕事や約束をキャンセルしてしまう
- 太った自分には価値がないと感じる
- 人前では普通の量でおさえ、後で過食嘔吐をしている
- 過食や嘔吐などが思うようにできないと激しくイライラする
- 過食衝動がくると金銭感覚も常識も吹っ飛ぶ
- 過食嘔吐はダイエット法だと思い込んでいる
などになります。
「体型・体重依存型/拒食または過食+不適切なカロリー消費」の症状では、神経性大食症(神経性過食症・BN)という過食症の可能性があります。
過度なやせ願望・体重へのこだわりと、過食衝動が結びついてしまった状態です。
過食衝動がありながら強いやせへの追及もあるため、過食によるカロリー摂取を穴埋めしようと、嘔吐、下剤乱用、無茶な運動、絶食など不適切なカロリー消費も見られます。
このなかには限りなく拒食症に近い人、食べ物への依存性の要素が強い人、不適切なダイエットから抜けられなくなった人など様々なタイプがあります。
拒食症とこのタイプの過食症をくり返す人もいます。
※詳しくは、『神経性過食症(神経性大食症・BN)』の項目をごらんください
体型・体重依存型/拒食
- 糖質・脂質・タンパク質などを極端に制限する
- 自分で決めた1部の食品しか口にしない
- 刻み食や流動食など独自の食べ方にこだわる
- 異常に厳密なカロリー計算を常にしている
- 常に体重やウエストなどをはかり、1g・1㎜でも増えたら不安になる
- 周囲が「やせすぎだ」と言っても自分はまだまだ太っていると感じる
- やせていると前向きで、体重が増えるとうつ状態になる
- 体型や食事内容のことばかり考えている
- 普段は極端な制限食をするが、過食衝動がおこればコントロールを失う
- 過食後は、過食前の体重に戻るまでてっていてきに嘔吐・下剤乱用・運動などをする
- 普通の内容・量の食事でも吐く
- 食べ物を噛むだけで吐き出す行為を繰り返している
- 吐く目的で過食をする
- 普通の食事はとれず、過食嘔吐か極端な制限食しかできない
- 自分は食べないのに大量の料理をつくって人にすすめる
などになります。
「体型・体重依存型/拒食」の症状は、いわゆる『拒食症』の症状です。医学的には神経性やせ症(神経性無食欲症・AN)と呼ばれます。
極端なカロリー制限だけではなく、多くの場合は過食+徹底した嘔吐や下剤乱用で、明らかにやせた体型をキープします。
食べ方の異常以外に体型への認識が歪み、周囲から見ると明らかにやせ過ぎになっても「まだまだやせなければ」「太っている」などと感じてしまいます。
過食衝動をともなうケースは神経性大食症とよく似ており、神経性やせ症と神経大食症をくり返す人もいます。
医学上の基準はBMI【体重kg÷(身長m×身長m)】が17以下になったときに神経性やせ症と判断されます。
BMIが18以上あれば神経性大食症となりますが、拒食症の傾向を強く持っているときは拒食症としての対応が望まれます。
※詳しくは、『神経性やせ症(神経性無食欲症・AN)』の項目をごらんください
不明型
- なぜか突然食事量が増えた
- 痩せたいと思っていないのに食べるのが怖くなった
- 食事ではなく甘い物ばかりが欲しくなる
などになります。
「不明型」は、薬の副作用や低血糖症などがかかわっている可能性があります。
または、心理的に何か問題があるものの本人が無自覚でのケースもあるようです。
摂食障害の診断基準
代表的な3つの摂食障害の診断基準(アメリカ精神医学会DSM-5による)を、簡潔にまとめてみたいと思います。
この基準は診断の際には目安の1つとなりますが、病態は様々です。
すべてに該当しなくても似た傾向が見られるときは、特定不能な摂食障害の1種、または初期段階と考えられます。
詳しい診断基準は、各病気の項目をご覧ください。
過食性障害(むちゃ食い障害)の診断基準
以下の項目を満たすこと
- 普段の食事以外で明らかに多すぎる量の食べ物を衝動的に食べる
- 過食衝動があるときは食べるスピード・量・内容・場所・時間帯などをコントロールできない
- 過食行為には以下のような特徴が3つ以上見られる
1.普通よりずっと速いスピードで食べる
2.お腹が苦しくなるまで食べる
3.空腹を感じていないときに大量のものを食べる
4.自分の食べる量が多すぎると悩み、人目を避けて食べてしまう
5.食べた後、自分を責めたり抑うつ状態におちいってしまう - 過食の行為によって明らかな精神的ダメージを受けている
- 過食行為は3カ月以上の期間、平均して週1回以上生じる
- 過食行為にはカロリー抵抗のための嘔吐、下剤乱用、過剰な運動、絶食などがともなわない
- 過食行為は拒食症の反動によってのみおこっているわけではない
神経性大食症(神経性過食症・BN)の診断基準
以下の項目に該当すること
- むちゃ食い障害同様の衝動的な過食行為がある
- 過食による体重増加に抵抗しようと不適切なカロリー抵抗行為(代償行為)に走る
・自らの意志で嘔吐する
・下剤・浣腸・利尿剤・やせサプリなどの乱
・過剰な運動
・長時間のサウナなど無理な発汗
・絶食 - 過食行為と代償行為はともに3カ月以上の期間、平均して週1回以上みられる
- やせることに過度の価値基準が置かれている
- 神経性やせ症(拒食症)の基準を満たしていない期間に生じている
神経性やせ症(拒食症/AN)の診断基準
以下に該当すること
- その人の年齢・性別・体型からして少なすぎるカロリーしかとらず、年齢的に最低限必要とされる体重を下回っている
- 明らかにやせ過ぎにもかかわらず、本人は体重が増えることを怖がり、カロリー摂取に激しく抵抗する
- やせることに絶対的な価値観が置かれ、病的にやせることが身体的に深刻な状況という危機感がない
摂食障害の治療
病院での摂食障害の治療は、個別性が非常に大きくなります。
病態が非常に幅広く、薬物の効果が期待できないため、クリニックの外来だけでの治療はかなり難しいのが現状です。
そのため、厚生労働省は、摂食障害(中枢性摂食障害)を難病に指定しています。
しかしながら、絶対に治らない病気かというと、そういうわけではありません。実際に摂食障害を克服し、社会復帰した人はたくさんいます。
軽度の場合は、精神科・心療内科で可能な範囲の心理アプローチを行い、改善していくこともあります。
診療の中で他の病気やかくれている発達障害の方が明らかになり、そちらの治療をすることで症状が治まることもあります。
けれど、中等度以上になり、とくに過食嘔吐や下剤乱用などが進行している場合は、
- 患者さんへのカウンセリング
- 患者さんの家族が摂食障害について理解していくこと
- 身体的な合併症にも対応すること
が必要になるため、専門に診られる病院や心理的な治療が必要となってきます。
そのため、厚生労働省では、精神科・心療内科を有する救急医療体制が整った総合病院のうち、全国5か所を『摂食障害治療支援センター』に指定しています。
急性期の患者さんへの対応、専門的な相談、他の医療機関や自治体との連携、患者さんの家族の支援をはかる他、摂食障害の治療や相談支援などに医師などに対し、助言や指導・情報の提供などを行っています。
緊急性のない人の場合は、精神科や心療内科の外来にかかりながら、自助グループや摂食障害の克服者が中心となった団体などにかかわり、心理的なサポートを得ながらそれぞれに応じた治療法を探していくことが中心です。
摂食障害は、家族などにもなかなか理解してもらいづらい病気です。
なったことのない人には感覚的にわかりにくい病気の代表なので、摂食障害を専門とした所となんらかのつながりを持ち、情報を得ていくことが勧められます。
摂食障害は誰にでも可能性のある病気
摂食障害の中で目立つのは、食べ方の異常とともに、やせ体型や体重について過度なこだわりを見せる神経性大食症や神経性やせ症です。
そのため、「摂食障害=やせたがる若い女の子特有の病気」と認識されることも少なくはないのですが、そうではありません。
食べることにはある種の快楽もともなうため、体型へのこだわりとは関係なく過食が安定剤やアルコールのような依存物質の働きをすることもあります。
最近は、食べ物依存型の過食症(むちゃ食い障害)の割合も増えてきています。
そちらのケースでは、年齢・性別・体型へのこだわりに問わず、誰にでも発症する可能性があるのです。
なかには、痩せ体型にむしろコンプレックスを抱き、太りたいと食べ始めたところから胃腸に無理がいって嘔吐が始まり、過食嘔吐に依存していくようなケースもあり、その症状や心理背景には非常に大きな個人差があります。
医学上は診断基準を病気判別の1つの目安にしていますが、摂食障害ではそれらの基準に当てはまるかどうか以上に、
- 食べることに関して異常を感じて苦しんでいる
- そのことで生活や精神状態に支障が出ている
または、
- 周囲の人が本人の食行動によって困っている
かどうかが重要なことです。
そのようなことで苦しい状態にあるのなら、診断基準にかかわらず心療内科や精神科での相談も検討してみましょう。
食行動の異常は、うつ病や躁うつ病、不安障害、発達障害、パーソナリティ障害の合併症としておこっている場合もあります。
過食・過食嘔吐・拒食などは、放置すれば多くの場合進行していき、健康や生活に大きな影響をおよぼすようになってしまいます。
ただし、激しいやせをともなう拒食症や、嘔吐・下剤乱用などが重度になっている人、危険な身体合併症のある人、自傷行為や衝動性、自殺未遂などをともなうなど深刻なケースでは、総合的な摂食障害管理の行える専門病院を受診してください。
病院などの情報は、お住まいの地域の精神保健センターや保健所でも相談にのってくれます。
全国精神保健センター一覧(全国精神保健センターのホームページ)
全国保健所一覧(厚生労働省のホームページ)
また、こちらには厚生労働省のつくった摂食障害に関する情報がまとめられています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:摂食障害 投稿日:2023年3月23日
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