フルニトラゼパム(サイレース)の効果と副作用

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フルニトラゼパム(サイレース)とは?

フルニトラゼパム(サイレース)の効果と副作用を精神科医が詳しく解説します。

フルニトラゼパム(商品名:サイレース)は、ベンゾジアゼピン系に分類される睡眠薬になります。

フルニトラゼパムの効果は非常に強く、切り札ともいうべき睡眠薬になります。

その強力さゆえ、犯罪に使われてしまうこともあるくらいです。

しかしながら副作用や依存性についても注意が必要で、安易に使うべきお薬ではありません。

ほかの睡眠薬でも効果が不十分な場合に、最後の選択肢のひとつとして考慮していきます。

このためフルニトラゼパムは、

  • 入眠障害
  • 中途覚醒
  • 早朝覚醒

など、さまざまな睡眠障害で効果が期待できます。

このお薬は2社で開発されていたという経緯があり、それぞれの会社からサイレース錠とロヒプノール錠というお薬として発売されました

どちらも同じ先発品で、同一成分になります。しかしながらロヒプノール錠は発売中止となり、サイレース錠に一本化されています。

サイレースは発売からしばらくたっており、ジェネリック医薬品としてフルニトラゼパム錠が発売となっています。

※以下では「サイレース」として、フルニトラゼパムの効果や副作用をお伝えしていきます。

サイレースの睡眠薬での位置づけ

サイレースの睡眠薬の中での位置づけをみていきましょう。

睡眠薬は、その作用メカニズムの違いから2つに分けることができます。

  • 脳の機能を低下させる睡眠薬
  • 自然な眠気を強くする睡眠薬

サイレースは、脳の機能を低下させる睡眠薬になります。

覚醒に働いている神経活動を抑えることで、眠気を促していきます。

「疲れきって眠ってしまうとき」に近い状態を作り出し、強引さのある効き方になります。

一方で、自然な眠気を強くする睡眠薬も発売されています。

私たちの睡眠・覚醒の周期に関係する生理的な物質の働きを調整し、睡眠状態に仕向けていくお薬です。本来の眠気を強める形ですので、効果が人によっても異なります。

サイレースなどの脳の機能を低下させるタイプのお薬は、ある程度の効果や副作用が計算できるというメリットがあります。このため、

  • 作用時間
  • 強さ

から睡眠薬を選んでいきます。

サイレースは作用時間は中間型なので、入眠から起床にわたって効果は持続します。

お薬が完全に体から抜けるには時間がかかりますが、飲み初めに多くの成分が体から抜けていきます。事実上、短時間型の睡眠薬のような効果が期待できます。

そしてサイレースの効果は、非常に強いです。サイレースと同程度の作用時間である睡眠薬としては、以下のようなものがあります。

  • デパス(一般名:エチゾラム)
  • レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)
  • エバミール/ロラメット(一般名:ロルメタゼパム)
  • リスミー(一般名:塩酸リルマザホン)

サイレースの特徴

<メリット>
  • 即効性が期待でき、効果が強力
  • 入眠障害に有効
  • 中途覚醒や早朝覚醒にも有効
  • ジェネリックが発売されている(薬価がリーズナブル)
  • 注射剤が発売されている(興奮が激しい入院患者さんに使われる)
<デメリット>
  • 眠気(翌朝への持ち越し)の副作用に注意が必要
  • ふらつきの副作用に注意が必要
  • 筋弛緩作用から睡眠時無呼吸が悪化することがある
  • 依存性に気を付ける必要がある
  • 高齢者でせん妄を生じることがある
  • 海外旅行で注意が必要(持ち込み禁止の国がある)

それではサイレースの特徴を、

  1. 効果
  2. 副作用
  3. 剤形と薬価

に分けてみていきましょう。

サイレースの効果

サイレースは、脳の機能を低下させることで睡眠を促す睡眠薬<>になります。このような睡眠薬は、

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  • ある程度効果が計算できる
  • 依存性に気をつける必要がある

という特徴があります。

その中でもサイレースの特徴は、

  • ベンゾジアゼピン系であること
  • 作用時間が睡眠時間全体をカバーしていること
  • 効果が非常に強力なこと

があげられます。

サイレースは催眠作用だけでなく、筋弛緩作用や抗不安作用が認められます。

そして催眠作用も非常に強力なため、しっかりとした睡眠をもたらしてくれます。

作用時間としても睡眠時間全体にわたってカバーしているため、入眠障害だけでなく中途覚醒や早朝覚醒にも効果が期待できます。

このような睡眠薬ですので、どうしても不眠が改善しない場合の最後の切り札ともいえます。

その強さゆえに、性犯罪に使われてしまうこと(レイプドラック)もありました。

このため海外では規制対象となっている国があり、海外旅行では気を付ける必要があります。

具体的には、アメリカやカナダでは所持が禁止されており持ち込むことができません。

その他の国でも持ち込む場合は、医師による処方証明書が必要になることが多いです。(規制が変わる可能性があるので、渡航前にご確認ください)

効果が非常に強い睡眠薬なので依存性も強いです。薬を減らそうとすると、イライラや不安などの離脱症状や不眠がよけいに悪化する反跳性不眠などがみられることもあります。

サイレースよりも効果が強い睡眠薬としては、

  • ラボナ(一般名:ラボナール)

などのバルビツール系睡眠薬がありますが、安全性や依存性の観点から使われることは極めて稀になっています。

こういった睡眠薬は、当院では原則として処方していません。

サイレースの副作用

サイレースの副作用としては、「眠気の持ち越し」と「ふらつき」に注意する必要があります。

サイレースは作用時間のピークは睡眠時間全体にわたっているのですが、お薬が完全に抜けていくには時間がかかります。

このため、睡眠作用が翌朝に続いてしまって眠気が残ってしまったり、日中に眠気が出てしまうことがあります。

またサイレースには、筋弛緩作用があります。このため高齢者では、夜中に目が覚めた時にふらついて転倒してしまうことなどに注意が必要です。

また、睡眠中にのどの筋肉が弛緩して空気の通り道である気道を狭めてしまい、睡眠時無呼吸が悪化してしまうこともあります。

また高齢者では、せん妄を生じやすくしてしまうことがわかっています。

せん妄とは、一時的に意識が混濁して興奮してしまい、異常行動などをとってしまう状態です。

昼夜リズムが乱れたり、睡眠障害もせん妄の原因となりますが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬はせん妄を悪化・誘発することがわかっています。

またサイレースは、長期にわたって服用していると依存してしまうことがあります。

常用量依存といって量が増えていくことは少ないですが、減らそうとすると不眠になってやめられず、漫然と服用が続いてしまうことが少なくありません。

サイレースの副作用頻度は、

  • ふらつき(1.89%)
  • 眠気(1.81%)
  • 倦怠感(1.27%)
  • 頭痛(0.51%)
  • めまい(0.35%)

となっています。(再審査終了時の調査症例13,205例)

サイレースの剤形と薬価

サイレースのお薬としての特徴についてみていきましょう。

サイレースの先発品としては、

  • 1mg錠
  • 2mg錠
  • 2mg静注

が発売されています。

サイレースは後発品であるジェネリック医薬品も発売されています。

  • 錠(1mg・2mg)

注射剤は使われる機会が少ないため、ジェネリックは発売されていません。

それぞれの薬価をみていきましょう。

  • 1mg錠:9.5円(ジェネリック:5.7円)
  • 2mg錠:10.9円(ジェネリック:5.9円)
  • 2mg静注:134.0円
    ※2023年4月現在の薬価になります。

これに自己負担割合(1~3割)をかけた金額が、患者さんの自己負担になります。薬局では、これにお薬の管理料などが加えられて請求されています。

【参考】サイレースの注射剤

サイレースには、静脈注射用の注射剤が発売されています。この注射剤ですが、睡眠目的に使われることはありません。

入院患者さんで興奮が著しい時に、鎮静目的で使われることが多いです。

飲み薬を患者さんが服用してくれたり、筋肉注射ができる状況であれば使われることはありません。

暴れてしまって手がつけられないような状況で、多くの場合は医療スタッフで患者さんをおさえながら注射をしていくような形になります。

サイレース2mgのはいった1Aを20mlの生理食塩水に溶かして、ゆっくりと静脈注射を行っていきます。その際には、

  • パルスオキシメーター
  • 拮抗薬のアネキセート(一般名:フルマゼニル)

を用意しながら行います。

急激に作用してしまうと呼吸抑制が起こってしまうので、呼吸によって酸素化がしっかりとできているか、パルスオキシメーター(指にはめて、SpO2酸素飽和度を測定する機器)を確認しながら注入していきます。

もしもの時に備えて、サイレースの効果を打ち消す拮抗剤アネキセートを用意しておきます。

ベンゾジアゼピン受容体に結合することで、サイレースのジャマをするお薬になります。

用量としては、

  • 体重1kgあたり0.01~0.03mg
  • 必要に応じて初回量の半量ないし同量を追加投与

となっています。つまり体重50kgの方では、0.5mg~1.5mgを投与して、効果が不十分であれば3mgまでは使えます。

サイレースの注射剤は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬を使っていない方であれば、すぐに効果が出てきます。

しかしながら長年にわたって服用している方では、最大量を投与しても効果が認められないことも少なくありません。

これは耐性(お薬に慣れてしまって、効果が薄れてしまうこと)ができてしまっているからで、ベンゾジアゼピン系を漫然と使っていると耐性形成されてしまうことが実感させられます。

その場合は、バルビツール系のラボナの静注を行いますが、拮抗薬がないために呼吸抑制に最大限の注意が必要になります。

サイレースの用法と作用時間

サイレースの用法は、以下のようになっています。

  • 開始用量:0.5mg~2mg
  • 用法:1日1回就寝前
  • 最高用量:2mg 高齢者には1mgまで

サイレースは0.5mg~1mgから開始していくことが一般的です。

添付文章には、「年齢・症状により適宜増減する」とは記載されていますが、最大でも2mgを超えて処方は推奨できません

当院では、2mgを超えて処方することはありません。2mgでも睡眠が不安定な場合は、他のアプローチを考えるべきです。

サイレースは、基本的には空腹時で効果を発揮するように作られているお薬になります。

サイレースには健忘の副作用があるため、就寝直前に服用するようにしてください。

サイレースは即効性が期待でき、「服用まもなく効果が期待でき、気づいたら朝になっていた」というような効き目になります。

作用時間としては睡眠全体をカバーしてくれるため、入眠障害だけでなく中途覚醒や早朝覚醒にも効果が期待できます。

【参考】サイレースの半減期

お薬の効き方を見ていくにあたっては、

  • 半減期:血中濃度が半分になるまでの時間
  • 最高血中濃度到達時間:血中濃度がピークになるまでの時間

が重要になってきます。

サイレースは、

  • 半減期(T1/2):21.2時間
  • 最高血中濃度到達時間(Tmax):0.75時間

となっています。

このように半減期は比較的長いので、中間型のベンゾジアゼピン系睡眠薬に分類されます。

しかしながらその血中濃度の変化は特徴的で、はじめのうちに一気に血中濃度が低下して、その後にじわじわと抜けていく形をとります。

このように、サイレースの血中濃度の変化は二段階になっています。睡眠中に一気に薬が体から抜けていき、半減期は実質的に7時間ほどになります。そのあとはゆっくりと体から抜けていきます。

このようになるのは、サイレースが脂に溶けやすいお薬であるからです。サイレースを服用すると、体の脂に取り込まれていきます。

その成分がじわじわと、あとから血中に戻ってきて体から抜けていきます。このためトータルの半減期は、21.2時間と長くなります。

サイレースを連日服用していると、3~5日で定常状態(お薬の有効成分が安定する状態)になります。

その状態では、1回での服用の1.3倍ほどの最高血中濃度になります。

ですからサイレースを服用するとお薬の成分がたまり、0.3倍くらいの濃度で常に作用している状態となるといえます。

【参考】サイレースとアルコール(お酒)

サイレースの添付文章では、

中枢神経抑制作用が増強されるおそれがある。>アルコールとの併用は避けることが望ましい。

となっています。禁忌というわけではありませんが、できれば控えるべきとされています。

アルコールとサイレースは、どちらも中枢神経を抑制する作用があります。併用することにより、脳の機能を落としすぎてしまいます。

このためサイレースとアルコールを併用すると、

  • 薬やお酒が効きやすくなる
  • 効果が不安定になる

といったことに気をつける必要があります。

サイレースもアルコールも、どちらも肝臓で分解されます。

このためお薬の効果が翌朝までのこってしまったり、意識が中途半端になることでの健忘やせん妄が起こりやすくなることがあります。また、アルコールに酔いやすくなることにも注意が必要です。

そして飲酒習慣があると、肝臓の機能が変化していきます。このためお薬の血中濃度が不安定になり、効果も不安定になります。

そしてサイレースとアルコールを併用することでの最大の問題は、

  • 双方に依存しやすくなってしまう

という点になります。

睡眠薬のサイレースとアルコールは、近しい作用があります。このため、サイレースもアルコールもすぐに身体に慣れてしまい、効果が悪くなってしまいます。

このことを耐性といい、同じ量では効かなくなってしまいます。

体からお薬やアルコールが抜けると心身の不調が認められて、精神的にも依存してしまいます。

このように、心身に依存が形成されてしまいます。

ですから、サイレースを服用しながらの習慣的な飲酒はできるだけ避けるべきです。

飲み会などの機会飲酒であれば、時間を空ければサイレースを使うことはできます。

サイレースと他剤の作用時間と強さの比較

サイレースは、脳の機能を低下させることで催眠作用をもたらします。

このようなタイプのお薬の効果は、作用時間によって考えることができます。

作用時間によって、大きく4つのタイプに分けられています。

  • 超短時間型:効果のピークは1時間未満、作用時間は2~4時間
  • 短時間型:効果のピークは1~3時間、作用時間は6~10時間
  • 中間型:効果のピークは1~3時間、作用時間は20~24時間
  • 長時間型:効果のピークは3~5時間、作用時間は24時間~

もう少し詳しくみていくと、以下の表のようになります。

睡眠薬の作用時間と最高用量についてまとめました。

作用時間の違いごとに睡眠薬としての強さの違いを、最高用量で比較してみましょう。

  • 超短時間型:効果のピークは1時間未満、作用時間は2~4時間
    (ハルシオン>アモバン>マイスリー≧ルネスタ)
  • 短時間型:効果のピークは1~3時間、作用時間は6~10時間
    (レンドルミン≧デパス≒エバミール/ロラメット>リスミー)
  • 中間型:効果のピークは1~3時間、作用時間は20~24時間
    (サイレース/ロヒプノール>ベンザリン/ネルボン>ユーロジン)
  • 長時間型:効果のピークは3~5時間、作用時間は24時間~
    (ドラール>ベノジール/ダルメート≒ソメリン)

ベンゾジアゼピン系の中でのサイレースの位置づけ

サイレースはベンゾジアゼピン系の中で、中間型に分類されます。

しかしながら、前半に一気に作用するため、短時間型に近い働き方をします。

ですからベンゾジアゼピン系のうち、サイレースに近い睡眠薬としては、

  • デパス(一般名:エチゾラム)
  • エバミール/ロラメット(一般名:ロルメタゼパム)
  • リスミー(一般名:塩酸リルマザホン)
  • レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)

この4種類が挙げられます。

強さで序列をつけると、

  • サイレース/ロヒプノール>レンドルミン≧デパス≒エバミール/ロラメット>リスミー

このような印象です。

サイレースは、現在発売されている睡眠薬の中でも、最も効果が強い睡眠薬といっても過言ではありません。

デパスは安定剤や肩こりの治療薬として使われることも多く、抗不安作用と筋弛緩作用が強いです。

エバミール/ロラメットは肝臓への負担が非常に少なく、高齢者や肝機能障害の方に使いやすいお薬です。

レンドルミンは標準的な睡眠薬になります。リスミーは、効果のマイルドな睡眠薬になります。

サイレースの副作用の対処法

睡眠薬では、作用時間によって注意すべき副作用が異なります。

  • 作用時間が長い睡眠薬・・・眠気・ふらつき
  • 作用時間が短い睡眠薬・・・健忘・依存性

作用時間が長いということは、薬が身体に少しずつたまっていくことにつながります。

睡眠薬の眠気が翌朝に残ってしまったり、筋弛緩作用が日中に働いてしまうことがあります。

それに対して作用時間が短い睡眠薬は、薬が急激に作用するということになります。

このため中途半端な覚醒状態となってしまって健忘(物忘れ)が認められたり、お薬の急激な変化に体が慣れようとしてしまうことで、依存が成立してしまうことがあります。

サイレースは作用が強い睡眠薬で、飲み始めに急激に作用します。このため、健忘や依存性に注意が必要です。

それだけでなく、翌朝に眠気を持ち越してしまったり、ふらつきの副作用も注意が必要です。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

サイレースと眠気

睡眠薬は、効果が翌朝に残ってしまうことがあります。作用時間が長いお薬ほど、眠気や倦怠感が残りやすくなってしまいます。

サイレースは中間型に分類される睡眠薬で、作用時間はそれなりに長いです。

ですが始めのほうに一気に作用し、ゆっくりと体から抜けていきます。

このため、翌朝に眠気が残ってしまうこともあります。

睡眠がしっかりとれていても眠気が残るようであれば、サイレースによる眠気の翌朝への持ち越しの可能性が高いです。その場合の対処法としては、

  • お薬の量を減らす
  • 他の睡眠薬に変える

があります。

サイレースと健忘

睡眠薬を服用した後に、記憶がなくなってしまうという副作用が生じることがあります。

記憶はなくなっているというと怖いかと思いますが、周囲からみると普通にいつも通りのあなたの行動をとっています。

友達に電話していたり、お菓子を食べ散らかしていたりといったことで、翌朝になってその痕跡をみつけてビックリします。

このような「物忘れ」を、「前向性健忘」といいます。睡眠薬を服用して、それ以降(前向き)の記憶を忘れてしまうのです。

このような状態になるのは、睡眠薬が中途半端な覚醒状態にしてしまうことで、海馬を中心とした記憶に関する脳の機能が低下してしまうためと考えられています。

ですから前向性健忘は、睡眠薬が急激に作用する時に起こりやすい副作用になります。

サイレースは実質的な作用は短く、そしてその作用はとても強いです。このためサイレースは、健忘の副作用が起こりやすいです。

健忘の対策としては、

  • 寝る直前に睡眠薬を服用すること
  • 絶対にアルコールと一緒に睡眠薬を飲まない

になります。

それでも認められる場合は、

  • 薬の量を減らす
  • 作用時間の長い睡眠薬に変更する

このようにしていきます。

サイレースと依存性

睡眠薬は、長期間服用していると体に慣れてしまいます。

そして睡眠薬をやめてしまうと不眠が悪化して、やめられなくなってしまうことがあります。

サイレースは実質的な作用時間は比較的短く、効果の実感のあるお薬になります。

このため、漫然と服用していると依存してしまうことが少なくありません。

サイレースは常用量依存と呼ばれる状態になることが多く、サイレースがないと睡眠が不安定になってしまうため、同じ量のサイレースがやめられなくなってしまいます。

ですから、漫然とした長期的に使用は避けなければいけません。

依存性の対策としては、

  • 睡眠に良い生活習慣を意識する
  • できるだけ少量・短期間で使う
  • アルコールと一緒に服用しない

ことがあります。

サイレースは依存性が高いお薬ですので、睡眠薬の用法と用量を守って服用する必要があります。

サイレースの反跳性不眠(離脱症状)と減薬方法

サイレースは長期間にわたって使っていると、お薬があることに身体に慣れてしまいます。

その結果、お薬としての効果は薄れているのに、薬を減らすと不眠が強まってしまうことがあります。

このような状態を反跳性不眠といいます。睡眠薬の離脱症状とも言えます。

「睡眠薬がないと眠れない」と勘違いしてしまうことが多いのですが、薬がやめられないのは反跳性不眠が原因であることも少なくありません。

このような状態になると、睡眠薬の量は増えないけれどもやめられなくなってしまいます。

このことを、常用量依存といったりします。

サイレースは中間型の睡眠薬になりますが、実質的には作用時間は短い睡眠薬になります。そして作用も強力ですので、サイレースでは反跳性不眠が起こりやすいです。

以下の図のように、以前にもまして不眠が強まってしまうので、サイレースをなかなかやめられなくなってしまいます。

睡眠薬の離脱症状である反跳性不眠について、概念をまとめました。

このためサイレースは、いきなり中止することは困難です。まずは、

  • 少しずつ減量していく

が基本となります。0.5mgずつ減量していくことが多いです。

自信を失わないことが大切ですので、サイレースを減量して寝付けない場合はベッドで粘ってはいけません。

すぐにあきらめて、元の量になるようにお薬を追加で服用して就寝してください。眠れるタイミングをみて、少しずつ減量していきます。

減量が困難なときは、

  • 作用時間が長い睡眠薬に変更していく

ことを考えていきます。併用しながら少しずつシフトしていきます。

作用時間が長い睡眠薬は身体からゆっくりお薬の成分が抜けていくので、離脱症状が少なくなります。

睡眠によい生活習慣を心がけることが大切

サイレースを使っていくにあたっては、睡眠習慣を見直すことも重要です。睡眠習慣と合わせて取り組むことで、睡眠薬だけに依存することなく不眠の改善を行っていきましょう。

ここでは特に、睡眠薬の使い方に関係する部分についてお伝えします。不眠で寝付けないとき、多くの方が間違った対処法を行っています。

  • お酒に頼る
  • なるべく早く寝る

この2つは不眠を悪化させてしまいます。お酒は寝つきを一時的に良くしてくれますが、睡眠の質を落としてしまいます。

また、なるべく早く寝てベッドで粘っている方もいらっしゃいます。

ベッドでゴロゴロして眠れない時間をすごすことは、「なかなか眠れない」という失敗した認知を強めてしまいます。

むしろ睡眠時間は、ギリギリまで絞ってしまったほうがよいです。

そして眠れないときは、粘らずに睡眠薬を使ってしまったほうが不眠はよくなります。

睡眠時間を5~6時間にしぼってデッドラインを設定し、その時間までは自然な眠気が生じたらベッドに入るようにしていきます。

その際にお薬を使っていただき、それでも眠れなければ頓服をすぐに使ってください。

このようにして、ベッドに入れば眠れるという認知を作っていくことが大切です。

その他にも、睡眠に良い生活習慣があります。睡眠に関する正しい知識を理解して、生活で取り入れられることは意識していくことが大切です。

詳しく知りたい方は、不眠症(睡眠障害)のページをお読みください。

サイレースの運転への影響

睡眠薬は、原則的にすべてのお薬が運転や危険作業が禁止となっています。

これは眠気やふらつきなどの副作用が生じる可能性があるためです。

そういったリスクがある以上は、製薬会社も「運転禁止」とせざるを得ませんでした。

サイレースの添付文章でも同様に、

本剤の影響が翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転等の危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること。

という表現となっています。

しかしながら、不眠のままで運転する方が悪影響があるかもしれませんし、薬を服用したら運転禁止とするべきかは悩ましいところです。

運転できないことが、社会生活の妨げになってしまうこともあります。

自己責任にはなりますが、お薬を服用しながら運転されている方もいるのが実情です。ただし、

  • はじめて使ったとき
  • 他のお薬からの切り替えをしたとき
  • 量を増減させているとき
  • 体調不良を自覚したとき

は無理をせず、運転は控えていただいたほうがよいです。

サイレースによって眠気が翌朝に残るようであれば運転は行わず、主治医と相談して作用時間の短い睡眠薬への変更を検討してください。

サイレースの妊娠・授乳への影響

サイレースの妊娠への影響を見ていきましょう。サイレースのお薬の添付文章には、

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、投与しないことが望ましい。

このように記載されています。

妊娠への影響を考えていくにあたっては、

  • 奇形をおこしやすいか(催奇形性)
  • 薬の成分が胎児に届くことによる影響

を考えていく必要があります。

サイレースなどの睡眠薬はこれまで、口唇口蓋裂のリスクが高くなるといわれていました。

しかしながら因果関係がないとする報告もなされており、奇形を引き起こすリスクは低いと考えられています。

ですがサイレースでは、動物実験で奇形の報告があります。

とはいっても50mg/kgという莫大な量になりますので、サイレースを服用していて妊娠が判明した方も、過度に心配する必要はありません。

サイレースは出産後に気を付ける必要があり、出生直後に赤ちゃんに離脱症状が生じてしまうことがあります。

また、赤ちゃんに鎮静作用が強くでてしまい、生まれた後に元気がないこともあります。産科の先生にお伝えしておけば、過度に心配しなくても大丈夫です。

次に、サイレースの授乳への影響をみていきましょう。サイレースのお薬の添付文章には、

授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせること。

このように記載されています。

授乳については、海外の基準ではやや厳しい評価になっています。これはサイレースの睡眠薬としての強さを懸念してかと思います。

母乳を通して赤ちゃんにサイレースの成分(フルニトラゼパム)が伝わってしまうことが確認されていて、赤ちゃんがサイレースをわずかに服用しているのと同じになります。

これによって眠気が強まり、哺乳が不十分になることがあります。

しかしながら母乳で育てることは、赤ちゃんにも非常に良い影響があるといわれています。生後まもなくは頻繁に授乳することになるので、睡眠薬は使わない方が多いです。

落ち着いてきたら、ご自身の判断で服薬を再開される方も

悩ましいところではありますが、サイレースの影響を少しでも減らすためには、服用してからの授乳間隔をあけていただく方が良いです。

具体的には、服用の直前に母乳を与えてください。

海外の妊娠と授乳に関する基準

海外の妊娠と授乳に関する基準をご紹介します。

妊娠への影響:FDA(アメリカ食品医薬品局)薬剤胎児危険度基準
  • A:ヒト対象試験で、危険性がみいだされない
  • B:ヒトでの危険性の証拠はない
  • C:危険性を否定することができない
  • D:危険性を示す確かな証拠がある
  • ×:妊娠中は禁忌
授乳への影響:Hale授乳危険度分類
  • L1:最も安全
  • L2:比較的安全
  • L3:おそらく安全・新薬・情報不足
  • L4:おそらく危険
  • L5:危険

睡眠薬の妊娠・授乳への影響をまとめました。

サイレースは、FDA基準で「D」、Hale分類で「L4」となっています。サイレースは作用が強いため、妊娠でも授乳でも、評価はやや厳しめになっています。

サイレース錠のジェネリック医薬品(フルニトラゼパム錠)

サイレース錠はフルニトラゼパム錠とともに、1984年に発売されたお薬になります。

お薬の開発には莫大なお金が必要となるため、発売から10年ほどは成分特許が製薬会社に認められて、独占的に販売することができます。これが先発品になります。

そしてサイレースのジェネリックは、この特許が切れた後に発売となりました。このため、後発品と呼ばれます。

ジェネリック医薬品の名称は、以前は製薬会社ごとに様々でしたが、近年は薬の一般名がつけられます。

ですからサイレース錠のジェネリックとしては、フルニトラゼパム錠として統一されています。

かつては会社ごとの商品名で、

  • ビビットエース錠
  • フルトラース錠

などが発売されていましたが、今では名称がかわっています。また先発品のうち、ロヒプノール錠は販売終了となっています。

ジェネリック医薬品になると、様々な製薬会社が製造を行います。これらのお薬は有効成分は同じですが、それぞれが微妙に異なります。

というのも、お薬の製造方法や製剤工夫が会社によって異なるためです。

ですがジェネリック医薬品は、先発品と同じように効果を示すための試験をクリアしていて、血中濃度の変化がほぼ同等になるように作られています。

サイレースは即効性を期待するお薬なので、理論的には大きな差がないとしても、効果に違いを感じる方もいらっしゃいます。その場合はもちろん、先発品を使っていくことも可能です。

【参考】サイレースの作用機序

それではサイレースはどのようにして効果を発揮するのでしょうか。その作用メカニズムを詳しくお伝えしたいと思います。

サイレースは、ベンゾジアゼピン系に分類されるお薬です。

睡眠薬として現在よく使われているのは、非ベンゾジアゼピン系とベンゾジアゼピン系がありますが、この両者はどちらも基本的には同じメカニズムによって睡眠効果が期待できます。

どちらもGABA-A受容体(ベンゾジアゼピン結合部位)に作用します。

それによってGABAの働きが強まり、脳の活動を抑えることで催眠作用をもたらします。

ベンゾジアゼピン結合部位には3つのサブタイプがあり、脳などの中枢神経にはω1とω2の2つが中心に分布しています。それらのサブタイプに対して、

  • ベンゾジアゼピン系:ω1+ω2
  • 非ベンゾジアゼピン系:ω1

として作用するという違いがあります。それぞれのサブタイプは、

  • ω1:催眠作用
  • ω2:筋弛緩作用・抗不安作用

が期待できます。このためサイレースなどのベンゾジアゼピン系は広く作用し、筋弛緩作用や抗不安作用があります。

そしてベンゾジアゼピン系のほうが耐性ができやすく(薬が同じ量で効かなくなる)、依存性に注意する必要があります。

【参考】GABAの作用機序と効果

睡眠薬は、GABAの働きを強めることで効果をもたらします。

GABAはリラックスさせる物質として、GABA入りのチョコレートなど食品でもアピールされたりしています。

食品やサプリメントとして摂取しての効果はエビデンスは乏しいですが、脳内ではGABAは重要な役割を果たしています。

GABAは神経伝達物質として、脳内での情報の受け渡しをしています。

神経細胞の活動を抑える方向に働く、抑制性の伝達物質になります。

GABA-A受容体には、Cl-の通り道(イオンチャネル)があります。GABAはこのCl-
チャネルを開き、それによって神経細胞の中にCl-が入ってきます。マイナスのイオンが入ってくるので、細胞の中が電気的にマイナスになります。

神経細胞は、細胞の中が電気的にプラスになることによって興奮して活発になります。

このため電気的にマイナスになるということは、神経細胞が興奮しにくくなるということになります。

ですからGABAは、Cl-チャネルを開いて神経細胞の興奮を鎮める作用が期待できます。

なお、睡眠と覚醒に関わる物質を整理すると、以下のようになります。

睡眠に関係する脳内物質の関係をまとめました。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:サイレース(フルニトラゼパム)  投稿日:2023年3月23日

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