バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の症状・診断・治療
バセドウ病とは
バセドウ病は甲状腺の機能が亢進し、代謝が活発になりすぎてしまう病気です。
代謝が活発になることで、全身にさまざまな症状を引き起こします。
また、男性よりも女性の方が罹患数が多いのも特徴です。
男女比は1:3~5ぐらいの割合となっており、男女共に30~40代で好発します。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が甲状腺に働きかけることで甲状腺ホルモンを分泌しますが、バセドウ病ではTSH受容体に自己抗体(TSH受容体抗体=TRAb)が作られてしまいます。
バセドウ病はTRAbが受容体と結合した状態が慢性化し、甲状腺ホルモンが分泌され続けるという病態です。
バセドウ病の症状
バセドウ病は甲状腺の機能が亢進することで、甲状腺ホルモンを過剰に分泌し、代謝が活発になりすぎてしまう病気です。
甲状腺ホルモンの分泌が多くなることで引き起こされる症状を甲状腺中毒症といいます。
甲状腺中毒症により、現れる症状は以下の通りです。
- 動悸・息切れ
- 全身の倦怠感
- 収縮期高血圧の上昇(拡張期血圧は低下)
- 食欲亢進
- 体重減少
- 排便回数の増加
- 軟便・下痢
- 筋力低下
- 発汗・暑がり
- 手の震え
- イライラ感・落ち着きがない
- 集中力の低下
- 不眠
- 月経不順・無月経
イライラしたり、体が火照って汗をかきやすくなったり、疲れやすさなどを感じると更年期障害だと思って病院を受診せずに悪化してしまうケースも少なくありません。
更年期障害の治療効果があまり感じられない場合は、甲状腺の機能に異常がないか医療機関で検査を受けてみましょう。
甲状腺中毒症以外にバセドウ病の特徴的な症状があるため、次項からそれぞれを解説していきます。
メセルブルグの3徴
メルゼブルグの3徴はバセドウ病を罹患した際に現れる以下の症状のことをいいます。
- 甲状腺腫(甲状腺が腫れる)
- 眼球突出(眼を大きく見開いて眼球が押し出されている状態)
- 頻脈(脈拍が速くなる)
メルゼブルグの3徴はバセドウ病の代表的所見ではありますが、必ずしも現れるというわけではありません。
また、高齢の方は臨床症状が乏しかったり、甲状腺腫が明瞭でないことも多いので注意が必要です。
バセドウ眼症
次のようなバセドウ病特有の眼症状が出現します。
- 上眼瞼後退
- 眼球突出・複視
- 眼瞼浮腫
- 角結膜障害
甲状腺中毒によって交感神経が過緊張となり、ミュラー筋という瞼の開閉をサポートする役割を果たしている筋肉が異常収縮します。
さらに、眼球の後ろにある脂肪細胞や眼球を動かす外眼筋にはTSH受容体があり、自己受容体と結合することで炎症が起こり、バセドウ眼症の症状が現れます。
限局性粘液水腫
バセドウ病では「前脛骨粘液水腫」という特徴的な皮膚病変が認められます。
前脛骨粘液水腫とは圧迫しても痕が残らない浮腫で、下肢の前脛~足背(足の甲)と限局的に現れます。
バセドウ病の診断
バセドウ病は血液検査と症状をもとに診断します。
バセドウ病の診断ガイドラインでは、確定診断をする際の基準を以下のように定めています。
上記の図表に記載されている「放射性ヨード甲状腺シンチグラフィー検査」とは、甲状腺に取り込まれるヨウ素の量を調べる検査です。
バセドウ病の治療
バセドウ病の主な治療は以下の3つです。
- 薬物治療(抗甲状腺薬)
- 放射性ヨウ素内用(アイソトープ)療法
- 手術療法(甲状腺摘出術)
それぞれの治療法をデメリットも含め解説していきましょう。
薬物治療(抗甲状腺薬)
バセドウ病の第一選択療法として行うのが薬物治療です。
甲状腺ホルモンの合成を阻害する抗甲状腺薬を内服し、甲状腺ホルモンの分泌を抑制します。
- メルカゾール(一般名:MMIチアマゾール)
- チウラジール/プロパジール(一般名:PTUプロピルチオウラシル)
薬物療法の開始から約1カ月で効果が現れ、症状も改善していきます。
薬物療法はほとんどの患者さんが適応する治療法で、不可逆的な機能低下症にもなりません。
しかし、以下のようなデメリットがあります。
- 副作用の頻度が高い
- 無顆粒球症や肝機能障害などの副作用が出現すると投薬を中止しなければならない
- 投薬を中止すると甲状腺中毒の症状が再発する
抗甲状腺薬を2年ほど内服した結果、血液検査値や甲状腺の機能が正常に維持できていれば、経過観察をしながら投薬中止の相談も可能です。
その一方で、2年以上服薬しても効果が得られない場合は他の治療法を検討します。
また、交感神経が優位となることで出現する動悸や振戦などの甲状腺中毒症状には、βブロッカーなどを用いて対症療法を行います。
放射性ヨウ素内用(アイソトープ)療法
微量の放射能をもつヨウ素の内服によって甲状腺を破壊し、過剰になった甲状腺ホルモンの合成を抑制する方法です。
放射性ヨウ素内用療法は以下の患者さんに適応が可能です。
- 抗甲状腺薬が服用できない
- 抗甲状腺薬で寛解しない
- 術後に再発した
その一方で、禁忌となっている患者さんや制限がある患者さんは以下の通りです。
- 禁忌:幼児や妊婦・授乳婦
- 慎重投与:若年者
薬物療法に比べて効果が早く安全で確実性がある治療法ですが、甲状腺を破壊するため甲状腺機能低下症の発症やバセドウ眼症が悪化する恐れがあります。
甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの内服で改善が可能です。
手術療法(甲状腺摘出術)
甲状腺組織を3gほど残して切除し、甲状腺ホルモンの分泌を抑制させる方法です。
手術療法は以下の患者さんが適応となります。
- 薬物療法で効果が得られない
- 放射性ヨウ素内用療法を希望しない
こちらも放射性ヨウ素内用療法と同じく確実で効果が早いですが、入院が必要となる治療法です。
甲状腺と一緒に副甲状腺も摘出するため、副甲状腺機能低下症を発症したり、手術操作時の反回神経麻痺によって声がかすれることがあります。
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