抗うつ剤で不眠が生じる原因
抗うつ薬は、セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミンといった脳内の物質を増やすことで効果がでてきます。
ですが、お薬はさまざまな物質に作用し、睡眠に関係する物質にも影響をあたえます。
ここではまず、睡眠と覚醒に影響を及ぼす脳内物質に関してみていきましょう。

眠気にはいろいろな脳内物質が関係しています。
睡眠に働く物質:GABA
覚醒に働く物質:セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン・ヒスタミン・アセチルコリン
これらの物質にどのように薬が影響するかを考えると、副作用として不眠が出やすいかがわかります。
抗うつ剤がターゲットとするモノアミン(セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン)はいずれも、覚醒方向に働く物質になります。
ですから覚醒しやすくなってしまい、不眠の副作用が生じてしまうことがあります。
ノルアドレナリンやドパミンは、覚醒させるイメージが理解しやすいかと思います。
セロトニンに関しては、セロトニン2A受容体が刺激されると、睡眠が浅くなってしまうことがわかっています。
抗うつ剤による不眠の8つの対策
抗うつ剤による不眠の副作用が認められた時には、以下のような対処方法があります。
- 様子を見る
- 睡眠習慣を意識する
- 自律訓練法
- 増量のペースを緩める
- 薬の飲み方を変える
- 眠りが深くなる抗うつ薬を併用
- 睡眠薬の併用
- 他の抗うつ薬に変更する
具体的にお伝えしていきます。
様子を見る
身体は少しずつお薬に慣れていきます。ですから、生活に支障が少なく、何とかなる眠気でしたらガマンして様子をみていくのも方法です。
抗うつ剤を飲み始めてすぐの不眠でしたら、多くの方が1~2週間するうちに慣れていきます。
ガマンする選択をされた方は、薬を使わないアプローチをできるだけやってみましょう。
睡眠習慣を意識して、自律訓練法などのリラックス法を行っていきましょう。
睡眠習慣を意識する
不眠の原因はお薬の作用だけではありません。なかには薬を飲んでいるという不安から、不眠になってしまう方もいらっしゃいます。
お薬は身体に少しずつ慣れていきますので、まずは睡眠習慣を整えることからはじめましょう。
睡眠の質を高めていくには、大きく3つのポイントがあります。「リズム・体温・自信」の3つです。これを意識した睡眠習慣を心がけることで、睡眠が安定します。
人間には体内時計のリズムがあります。このリズムを大事にして眠ることで、より質のよい睡眠がとれます。
体温に関しては、深部体温が高いところから下がる時、もっとも眠りにつきやすいといわれています。
ですから、寝る前に体温を高め、眠りについてから熱を逃がしてあげるよう工夫しましょう。
自信も大事です。眠りに不安をもつと、ますます寝付けなくなってしまいます。ですから、寝ることに自信をもつようにしましょう。
※睡眠について詳しく知りたい方は、『不眠症(睡眠障害)の症状・診断・治療』をお読みください。
自律訓練法
リラックス状態を自分で作っていく方法に、自律訓練法があります。「今日もまた眠れないかもしれない」といった不安が強い方には、この方法をやってみてください。
呼吸を整えて、その後にリラックス状態をイメージしながら身体にしみこませていきます。
次第にリラックス状態ができていきますので、そのまま寝落ちしてしまいましょう。
副作用も特にありません。不安や不眠で悩まれている方だけでなく、日頃のストレスを和らげるためにもとても有効です。
※詳しく知りたい方は、『自分でできる!自律訓練法の効果』をお読みください。
増量のペースを緩める
増量のペースが早いことが不眠の原因と考えられる場合は、増やすペースを遅らせるのもひとつの方法です。
身体が慣れていく時間を作っていきます。
お薬の量を減らして、少しずつ増量してみましょう。
薬の飲み方を変える
お薬の飲み方の工夫することで、軽減することもあります。
ただ、抗うつ剤は作用時間が極めて長いことが多いです。このため、飲み方の工夫をしても変化がないこともあります。
夕方や夜に薬を飲むことで不眠につながっていると感じる場合は、朝に服用するようにしてもよいかも知れません。
眠りが深くなる抗うつ薬を併用
抗うつ剤で不眠が生じる原因として、セロトニン2A受容体の刺激作用があります。
このセロトニン2A受容体をブロックしてくれるお薬があれば、副作用は軽減して眠りが深くなるはずです。
また、セロトニン2A受容体に作用できないセロトニンが、抗うつ効果が期待されるセロトニン1A受容体にくっつきます。このため、抗うつ剤の効果増強も期待できます。
もう少し抗うつ剤の効果も期待したいような時には、セロトニン2A受容体をブロックするお薬を併用していくことが理に適っています。
四環系抗うつ薬のテトラミドやデジレル/レスリン、新しい抗うつ薬のNaSSAのリフレックス/レメロンがこのタイプになります。
これらの薬は睡眠を深くするので、鎮静系抗うつ薬と呼ばています。
睡眠薬を併用する
どうしても不眠を改善できないときは、睡眠薬を併用することもあります。
その際は、できるだけ少ない量から使うようにします。できるならば頓服から使っていきます。
睡眠薬は、現在はさまざまな種類が発売されています。不眠の状態によって、適切な睡眠薬を選んでいきます。
※詳しく知りたい方は、『睡眠薬(睡眠導入剤)の効果と副作用』をお読みください。
他の抗うつ薬に変更する
どうしても抗うつ剤があわずに不眠が強くなってしまう時は、他の抗うつ薬への変更も検討します。
鎮静系抗うつ薬に変更すれば睡眠状態は改善されることが多いです。
ですが、日中に眠気やふらつきが出てしまうことも多く、生活に支障がある方はリスクを考えていかなければいけません。
同じタイプの抗うつ剤に変更しても意味がないように思うかもしれませんが、どのお薬が身体に合うかは相性もあります。
理論だけでは説明できないことも多く、例えば同じSSRIでも不眠よりも眠気が強くなることもあります。
抗うつ剤と不眠の副作用
不眠になる原因としては、セロトニン以外にもノルアドレナリンが関係しています。ノルアドレナリンは交感神経に働く物質ですので、覚醒作用があります。
このため、セロトニンとノルアドレナリンを増やすお薬は、睡眠が浅くなるという形で不眠になります。
レクサプロなどのSSRIは、セロトニンを増やす効果が大きい薬です。
サインバルタなどのSNRIはセロトニンに加えてノルアドレナリンを増やす薬です。どちらも不眠の副作用が認められることがあります。
昔からある三環系抗うつ薬では、SSRIやSNRIと比べると不眠の副作用は少ないです。
いろいろな受容体に作用するために、抗ヒスタミン作用などによって深い眠りになります。
三環系抗うつ薬の中では、アモキサンやノリトレンはノルアドレナリンを増やす効果が強く、不眠が比較的多いです。
アナフラニールやトフラニールも、眠気が強くでる傾向にありますが、まれに不眠が認められることがあります。
抗うつ薬のなかには、セロトニンは増やすけれどもセロトニン2A受容体だけをブロックするお薬があります。
- 四環系抗うつ薬のテトラミド
- デジレル/レスリン
- NaSSAのリフレックス/レメロン
がこのタイプになります。これらの薬は睡眠が深くなるので、「鎮静系抗うつ薬」と呼ばれています。