抗うつ剤で眠気が生じる原因は?
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抗うつ剤を飲み始めたら眠気が…
心療内科や精神科で使うお薬には「眠気」を生じるものが多いですが、抗うつ剤も例外ではありません。
ただ、抗うつ剤の場合は、お薬の特徴によって眠気の強さも差が大きいです。
また、お薬の副作用ばかりが眠気の原因とも限りません。
抗うつ剤を飲み始めたら眠気が出てしまった…。その原因にはどのようなことが考えられるのでしょうか?
※抗うつ剤について概要を知りたい方は、『抗うつ剤(抗うつ薬)とは?』をお読みください。
※抗うつ剤の副作用全体について知りたい方は、『抗うつ剤によくある副作用と対策とは?』をお読みください。
睡眠・覚醒にかかわる物質と抗うつ剤による眠気
睡眠と覚醒には、様々な物質が関係しています。
抗うつ剤の副作用として眠気が出る場合、それらの物質にお薬がどのように影響するかを考えると、眠気が出やすいかどうかを推定することができます。
少々堅苦しい話になりますが、まずは、睡眠と覚醒に関係している物質にはどのようなものがあるのかを整理してみましょう。
眠気にはいろいろな脳内物質が関係しています。
《睡眠に働く物質》
- GABA
《覚醒に働く物質》
- セロトニン
- ノルアドレナリン
- ヒスタミン
- アセチルコリン
- ドパミン
抗うつ剤は、上のような覚醒物質に大きく影響を与えるものが多いです。その作用の違いにより、眠気が出やすいかどうかが異なります。
※抗うつ剤ごとの眠気の比較を知りたい方は、『眠くなりやすい抗うつ剤はどれ?眠気の副作用比較』をお読みください。
抗うつ剤のセロトニン作用と眠気
抗うつ剤の多くは、セロトニンの働きを強めます。
セロトニンは不足すると抑うつ・不安・緊張などの症状が現れるため、この働きを強めることで、うつや不安の辛い症状を緩和させてくれます。
抑うつや不安が楽になることで、結果的に不眠を改善する効果も期待されますが、反対に、セロトニンは覚醒を促す物質でもあります。
とくに、セロトニン5HT2という受容体を刺激すると神経が興奮し、不眠の原因となってしまうことがあります。
抗うつ剤のなかには、5HT2受容体をブロックする性質を持つものがあります。
それらの抗うつ剤(NaSSAのリフレックス・レメロンなど)は『鎮静系抗うつ剤』とも呼ばれ、強い眠気を生じやすく、不眠で困っているときにはその副作用が治療の助けになることがあります。
抗うつ剤のノルアドレナリン作用と眠気
ノルアドレナリンは意欲を高める作用の強い物質です。
意欲の減退が目立つときには、セロトニン・ノルアドレナリンの両方に作用するSNRIなどの抗うつ剤が効果を発揮します。
ノルアドレナリンを高める性質の抗うつ剤は眠気が少ないですが、α1という受容体をブロックする抗α1作用のある抗うつ剤では、眠気を生じやすくなります。
抗うつ剤の抗ヒスタミン作用と眠気
抗うつ剤にはヒスタミンをブロックする働きのあるお薬も多いです。
抗ヒスタミン作用の強いお薬は、抗うつ剤に限らず、かなり強い眠気が出やすくなります。
抗うつ剤の抗コリン作用と眠気
アセチルコリンという物質をブロックする抗コリン作用があるお薬でも、眠気は生じやすいです。
古いタイプの抗うつ剤では抗コリン作用があるお薬が多いため、そのようなお薬では副作用の眠気もおこりやすいのです。
抗うつ剤で眠気が生じる原因
上でご説明した通り、抗うつ剤の覚醒物質への作用によって眠気が生じることがあります。
しかし、単純にそればかりではなく、抗うつ剤による眠気には3つの要素があると考えられます。
- 覚醒物質の抑制
- 夜間睡眠の悪化
- 抗うつ剤に慣れるまでの理論では説明できない眠気
①覚醒物質の抑制
これは上でご説明した通りです。
ヒスタミンやアドレナリン、アセチルコリンやセロトニンは覚醒させる物質です。
ですから、これらを抑え込むような作用があると、眠気がでてきてしまいます。抗うつ剤は、
- 抗ヒスタミン作用
が強いものが多いです。その他にも、
- 抗α1作用
- 抗コリン作用
- 抗セロトニン(5HT2)作用
などがあります。これらの作用が強いお薬は、眠気が強く出てきてしまいます。
②夜間睡眠の悪化
覚醒物質を増やす作用が強い抗うつ剤では、その影響で夜間の睡眠が浅くなってしまい、結果的に日中の眠気を感じるようになってしまうこともあります。
③抗うつ剤に慣れるまでの理論では説明できない眠気
お薬の作用には個人差もあり、さまざまな要因も関わるため、なかには理屈では説明のつかない眠気もあります。
お薬の飲みはじめに現れることがほとんどですが、理論上は眠くならないはずのお薬でも、身体に慣れてくるまで眠気が出てきてしまうことがあるのです。
抗うつ剤だけでない眠気が起きる理由
眠気がでてくる原因は、抗うつ剤の影響以外にも4つほど考える必要があります。
- 精神症状
- 睡眠の質
- 生活リズム
- 女性ホルモン
①精神症状
精神症状によっても眠気や倦怠感がでてくる場合もあります。
症状としての眠気や倦怠感が強くなる方は、きっかけがあることもあれば、とくに心当たりがないこともあります。
このため、病歴や病状などから総合的に判断していきます。
②睡眠の質
抗うつ剤の影響で夜間睡眠の質が低下することもありますが、他の原因も考えてみましょう。
睡眠時間は十分にとれていますか?朝に眠気はないですか?夜間にイビキなどはないですか?
たとえば、睡眠時無呼吸症候群が隠れていることもあります。思い当たることがあれば、そちらの改善も大切です。
③生活リズム
また、生活リズムが崩れてしまっていることが眠気の原因の場合もあります。
体内時計のリズムが崩れると、睡眠時間は十分であっても睡眠の質が低下し、日中の眠気や倦怠感となることがあります。
いわゆる『時差ボケ』はこの状態ですが、昼過ぎまで寝てしまって、身体がだるい経験をされた方も多いと思います。
起床・睡眠のタイミングはできるだけ一定にすることを心がけていきましょう。
④女性ホルモン
女性の方の場合は、女性ホルモンが自律神経に影響します。
生理周期と関係して眠気が認められる場合や、女性ホルモンが減少していく更年期でも眠気やだるさが生じることがあります。
まとめ
抗うつ剤による眠気は、主に
- 抗ヒスタミン作用
- 抗α1作用
- 抗コリン作用
- 抗セロトニン5HT2作用
などでおこります。しかしそればかりではなく、
- 不眠の結果
- 理論では説明のつかない眠気
や、お薬以外の
- 精神症状
- 睡眠の質
- 生活リズム
- 女性ホルモン
などが影響していることもあります。
その眠気の原因が何かを考え、対処していくことが大切です。
※抗うつ剤による眠気の対策を知りたい方は、『抗うつ剤の眠気と7つの対策』をお読みください。
※それぞれの抗うつ剤による眠気の違いを知りたい方は、『眠くなりやすい抗うつ剤はどれ?眠気の副作用比較』をお読みください。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:抗うつ剤(抗うつ薬) 投稿日:2023年3月24日
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