なぜ抗うつ剤は太りやすいの?体重増加の原因とは?
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
抗うつ剤は太りやすい?
精神科のお薬は太りやすいものも多く、抗うつ剤も例外ではありません。
種類によって違いはありますが、多くの抗うつ剤が太りやすい方向に働きます。
なぜ、抗うつ剤で太りやすくなってしまうのでしょうか?
※抗うつ剤について概要を知りたい方は、『抗うつ剤(抗うつ薬)とは?』をお読みください。
※抗うつ剤の副作用全体について知りたい方は、『抗うつ剤によくある副作用と対策とは?』をお読みください。
なぜ抗うつ剤で太りやすくなるの?
抗うつ剤が太りやすい理由は、体重増加にかかわる様々な物質に作用してしまうからです。
主に、3つの作用が関係しています。
- 抗ヒスタミン作用による食欲増加
- 抗5HT₂C作用による食欲増加
- セロトニンによる代謝抑制作用
反対に、
- ノルアドレナリンの代謝亢進作用
は、痩せやすい方向に働きます。これら4つの作用のバランスにより、抗うつ剤の太りやすさが違ってくるのです。
※抗うつ剤ごとの太りやすさを知りたい方は、『太りやすい抗うつ剤は?体重増加の比較』をお読みください。
①抗ヒスタミン作用による食欲増加
ヒスタミンは視床下部にある満腹中枢を刺激する物質です。
抗うつ剤にはヒスタミンをブロックするものが多く、満腹中枢の刺激をとめてしまうので満腹感が得にくくなります。
さらに、ヒスタミンがブロックされると、グレリンというホルモンが増加します。
このホルモンは摂食中枢を刺激し、食欲を増加させる働きがあります。
②抗5HT₂C作用による食欲増加
セロトニンにはさまざまな受容体があります。
抗うつ剤はそれらの受容体をブロックすることで脳内のセロトニンを増やす働きがあります。
その中で、5HT₂C受容体は、視床下部の満腹中枢にあり、これが刺激されるとお腹がいっぱいになります。
ですので、5HT₂C受容体をブロックする働きが強いお薬は、満腹感を感じにくくさせて食欲を増加させてしまうのです。
③セロトニンによる代謝抑制作用
抗うつ剤が増やすセロトニンは精神を安定させ、リラックス状態をつ くっていきます。
すると、身体はエネルギーの消費を抑えるようになり、代謝量が少なくなって太りやすくなります。
一方、同じく抗うつ剤が増やすノルアドレナリンには意欲や気力を高めたりする働きがあり、交感神経が優位に働くので代謝が亢進してエネルギーが消費されやすくなります。
そのため、セロトニンとともにノルアドレナリンを増やす作用が強く、他の物質にはあまり影響しないSNRIなどは太りにくいものが多いのです。
抗うつ剤だけでない太る理由とは?
食欲はこころの影響も大きく受けるため、治療中におこる体重増加は、抗うつ剤の副作用のせいだけとは限りません。
- 回復の過程
- 精神状態やストレスの影響
などの要素も考えられます。
①回復の過程
典型的なうつ病の患者さんでは、意欲が減るので活動量が減りますが、食欲も無くなるので多くの場合は体重が減ります。
そのような方が抗うつ剤で回復していくと、意欲より先に食欲が戻ってくることもあります。
食欲は戻っても意欲が追いつかずに活動できない状態にあれば、以前より太ってしまうことも考えられます。
ですから病気の回復の過程で、治療の初めは副作用の胃腸障害も重なり体重が減っていきますが、回復とともに体重が増えていくことが多いです。
②精神状態やストレスの影響
回復とは反対に、精神状態が不安定になって過食気味になってしまうこともあります。
まれに抗うつ剤(とくにパキシル)が発作的な過食を誘発することもあるのですが、精神状態の悪化は摂食行動に変化をもたらします。
そのときは、日常生活の中でストレスがたまっていないか、他の症状に変化がないかなど、総合的にみて判断する必要があります。
精神状態から過食がおこっている場合、抗うつ剤の作用が過食を軽減してくれることもあるのです。
まとめ
抗うつ剤は、
- 抗ヒスタミン作用による食欲増加
- 抗5HT₂C作用による食欲増加
- セロトニンによる代謝抑制作用
などの原因で太りやすい傾向のお薬が多くなります。気になる方は主治医へそのことを伝えておきましょう。
けれど、太りやすい傾向の抗うつ剤も糖代謝に異常をおこしたりするわけではないため、食生活などに注意していけば体重増加は防いでいくことができます。
また、食欲は精神状態の影響も大きく受けます。抗うつ剤のせいとばかりに決めつけず、原因を考えながら対策をしていきましょう。
※抗うつ剤を飲みながらの体重管理については、『抗うつ剤は太る?体重増加と5つの対策』をお読みください。
【お願い】
「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
(医)こころみ採用HP取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:抗うつ剤(抗うつ薬) 投稿日:2023年3月24日
関連記事
高齢者のうつ病の症状とは?家族の対応4つをわかりやすく解説します
「親の表情がくらい」「親がふさぎこんでいる」このような悩みはありませんか? これは高齢者のうつ病かもしれません。 仕事の退職や大切な人との死別などのライフステージの変化により、うつ病を発症するリスクが高まります。 高齢者… 続きを読む 高齢者のうつ病の症状とは?家族の対応4つをわかりやすく解説します
投稿日:
人気記事
デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用
デエビゴ(レンボレキサント)とは? デエビゴ(一般名:レンボレキサント)は、覚醒の維持に重要な物質であるオレキシンの働きをブロックすることで、睡眠状態を促す新しいお薬です。 オレキシン受容体拮抗薬に分類され、脳と体の覚醒… 続きを読む デエビゴ(レンボレキサント)の効果と副作用
投稿日: