デパスがついに処方制限!なぜデパスが乱用されてきたのか
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はじめに
デパスは日本で最も処方されている抗不安薬です。その名前は広く知られていて、精神科や心療内科だけでなく、内科や整形外科などでもよく処方されています。むしろ精神科以外では、抗不安薬といえばデパスというイメージが強いのではないでしょうか。
たしかにデパスはよく効きます。抗不安効果だけでなく、催眠作用も期待できます。筋弛緩作用もあるので、肩こりなど緊張が強い時にも有効です。
しかしながらデパスは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の中でも依存性の高いお薬です。「デパスをなかなか止められない」という患者さんはとても多いです。そして依存性の高さから、デパスを乱用してしまう方もいらっしゃいます。
そういったことをうけ、ついに2016年9月に、デパスが向精神薬指定となりました。それをうけて、1回の処方箋についき30日分までしか処方できなくなりました。
ここでは、どうしてデパスが乱用されるようになったのか、時代の流れも踏まえてお伝えしていきます。
※デパスの効果について詳しく知りたい方は、「デパス(エチゾラム)の効果と副作用」をお読みください。
向精神薬とは?
向精神薬とは、簡単にいってしまうと脳に作用するお薬のことです。精神科のお薬は、基本的には脳に作用することで気分や思考などを整えていきます。代表的なものとしては、
- 抗うつ剤
- 抗精神病薬
- 気分安定薬・抗てんかん薬
- 睡眠薬・抗不安薬
- 精神刺激薬
などが含まれます。このような向精神薬では、乱用や依存の問題があります。健忘や多幸感といった副次的な作用を期待して、乱用されることもあります。また、薬の作用に身体がなれてしまい、薬に依存してやめられなくなってしまうことがあります。
しかしながら医療としては非常に重要なお薬で、向精神薬によって多くの方が救われているのも事実です。悪しき側面を少しでもなくそうと、世界レベルでの規制がかけられています。
向精神薬はどのような決まりになっているのか
向精神薬に関しては、世界的には向精神薬に関する条約が1971年に採択されています。しかしながら日本では、ベンゾジアゼピン系やバルビツール系に対する規制の厳しさから批准が遅れ、1990年に加盟しました。
これに伴って日本では麻薬取締法の改正が行われ、同年に麻薬及び向精神薬取締法となりました。この際に向精神薬への指定がされたお薬が、現在でも向精神薬の規制をうけています。
日本ではそれまで、薬事法によって「習慣性医薬品」が指定されていて、処方には医師の処方箋を必要とするように規制はされていましたが、処方数などには制限がつけられていませんでした。現在では、向精神薬に指定されたお薬は、14日か30日の処方制限がかけられています。
※ただしベンザリンやリボトリールなど、てんかん治療に使われる薬剤は90日まで処方できます。
デパスは向精神薬指定されていなかった
この向精神薬の制度が、残念ながらデパス乱用のきっかけの一因となりました。当時、どのお薬を向精神薬にするのかという判断がおこなわれました。その際に、WHOの薬物依存に関わるエキスパート委員会での討論が判断材料になったと思われます。
その討論では、デパス・レンドルミン・ドラールの3剤が議論されました。当時デパスは、日本と韓国のみで販売されていましたが、その依存性の強さは認識されていました。しかしながら世界的にみたときに、規制をかけるほど普及している薬ではないとされました。このため、1988年に採択された「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」には、これらの薬は対象から除外されました。
日本で向精神薬の指定をする際、レンドルミンとドラールは向精神薬に指定されたのですが、なぜかデパスだけは向精神薬からはずされました。同様の形で、リスミーとアモバンも向精神薬から外れています。
いずれの薬も立派な向精神薬です。この中でもデパスは効果も強く、依存性が高いです。処方する医者側としては、処方日数の制限がないことが使いやすさにつながり、とくに内科を中心に安易な処方がなされてしまいました。このため、抗不安薬や睡眠薬としてデパスが処方されることが多くなったのです。
2016年9月に改正され、10月よりデパスとアモバンが向精神薬に指定されるようになりました。ようやく矛盾が解消されるようになったのです。
どうしてデパスを乱用してしまうのか
なぜデパスで乱用してしまうのでしょうか?それには、向精神薬の規制がないという社会的背景に加えて、デパスという薬のもつ特性にあります。
デパスは効果としてみると、非常に効果のよいお薬です。効果の実感も強いので、患者さんにも大変喜ばれるお薬になります。しかしながらその効果の強さから、依存性が問題となってしまいます。
依存性は、厳密に分けると身体依存と精神依存の2つがあります。身体依存とは、薬が身体からなくなることでバランスが崩れて調子が悪くなる状態です。精神依存とは、薬がないと気持ちが落ち着かなくなってしまう状態です。
さらにデパスは、慣れると効きが悪くなってしまいます。このことを耐性といいます。
デパスは効果の実感が強いので精神依存につながりやすく、作用時間が短いので血中濃度の変化が大きく、身体依存につながりやすいです。そして耐性が形成されてきて、少しずつ薬の効きが悪くなってしまいます。
このように身体依存と精神依存と耐性、この3つが重なってしまうと、デパスの量が増えてしまうことがあります。増えないまでも、常用量依存といって、減らすことができずにデパスなしには生活できなくなってしまうのです。
デパスの依存を防ぐために
それでは、デパスに依存しないためにはどのようにすればよいでしょうか?
その方法としては、以下の8つがあげられます。
- 睡眠薬はベンゾジアゼピン系以外を使う
- 適切な強さの抗不安薬を使う
- 作用時間(半減期)が長い抗不安薬を使う
- 長期に使う場合はSSRIなどの抗うつ剤と併用する
- なるべくデパスの服薬期間を短くする
- デパスの量はなるべく少なくする
- アルコールと一緒に飲まない
- 薬に頼らない努力をする
まとめ
向精神薬に指定されたお薬は、薬によって14日か30日までしか処方できません。
デパスは向精神薬に指定されていないので、処方制限がありませんでした。2016年9月より向精神薬指定され、30日の処方制限がついています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:コラム 投稿日:2020年9月21日
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