メンタル不調なのに受診しない!家族や同僚・部下に受診につなげる方法とは?

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はじめに

メンタル不調のある方を受診させる方法について、精神科医が解説します。

心の病気は、相談することに勇気がいる方が少なくありません。

近年はそのハードルは下がりましたが、それでも心の病気を相談するには勇気が必要な方が多いです。「周囲からどう思われるのか」「自分が弱いとは思いたくない」といった様々な想いを持たれるかと思います。

心の病気に対するスティグマは依然として社会に根深く、心の病気で苦しんでいる本人さえも支配されてしまうことも多いのです。

ですから家族や職場の同僚・上司からみて明らかに心身の調子が悪く、受診をすすめたとしても、拒絶されてしまうことが少なくありません。関係が悪化してしまって、周囲も本人も苦しんでしまうことすらあります。そういったことを恐れて、「どのように声をかければよいかがわからない」という周囲の方からの相談もよくいただきます。

また、時には本人でさえも正しく病状がわからなくなってしまうこともあります。このような状態になると説得することは難しく、強制的な治療につなげるほうが良い場合もあります。

ここでは受診に抵抗をしめされそうなメンタル不調の方に、家庭や職場で周囲の方がどのように受診につなげればよいのか、その方法についてお伝えしていきます。

心の病気に抵抗が強い方へ

まずは自身の病状については、ある程度正しく認識できてそうな方で、心の病気に対しての抵抗が強い方に対してのアプローチを考えていきましょう。

受診につなげていくための方法としては、以下の3つの方法があげられます。

  • 身体に対する症状をきっかけにする
  • 「私」を主語にしてお伝えする
  • 本人に選択肢を与えて選ばせる

順番にみていきましょう。

身体に対する症状をきっかけにする

心のことを触れられることは抵抗が強くても、身体のことであれば比較的にスムーズに受け止めてくれることもあります。

本人も苦しみがあり、どこかで救いや理由を求めていることも多いです。身体の相談をするという理由から、心の病気の相談につながることもあります。

多いのが、

  • 睡眠
  • 食事

になります。

昔は「4当5落」という言葉が作られるほど、眠れていないことは美徳と考えられてきました。このため睡眠がとれていないことはそこまで抵抗がないことが多く、正直に答えてくださる方が多いです。

また食欲なども日々の生活で目に見えてわかることですので、周囲の方も心配を伝えやすい部分になります。

「私」を主語にしてお伝えする

主語を私にしてアサーティブなコミュニケーションを精神科医が解説します。

「私」を主語にした伝え方と、「あなた」を主語にした伝え方はニュアンスが大きく変わります。
いわゆる「I message」と「You message」になりますが、「I」の方が事実がそのままつたわり、「You」は批判的になってしまいます。
  • 「私が心配だから、受診してほしい」
  • 「あなたは調子が悪いから、受診したほうが良い」
この2つを比べれば、そのニュアンスの違いが伝わるかと思います。このように「私」を主語にすることで、相手にネガティブな感情を和らげて伝えることができます。

本人に選択肢を与えて選ばせる

もう一つの方法が、本人が自分で選ぶように仕向けることです。

「病院に受診したほうが良い」とストレートに伝えると、正しい事実であっても「相手に言われた」というだけで否定的な感情となってしまい、拒絶してしまうことがあります。

日常生活でも大なり小なり、起こっていることかと思います。後から考えたらどうして否定してしまったのかと後悔することもありますよね。

ですから2つの選択肢をあたえて、本人に選ばせてみてください。

「私はすぐに病院に行ったほうが良いと思う。抵抗があるなら、1週間くらい生活を整えても良くならなければ、私は病院で相談したほうが良いと思うけど、どうかな?」

といった具合です。あえて「私は」というフレーズを使ってみましたが、このようにあわせて意識すると、本人の抵抗感は和らぎます。

明らかに正しい判断ができない場合は、家族が病院に相談を

明らかに正しい判断ができなくなってしまうような時もあります。

具体的には、

  • うつ病の微小妄想がひどくなって、現実を正しく認識できない状態
    「私の家は貧乏だから病院に行くお金なんてない」
  • 希死念慮が強い場合
    「どのように死のうか考えている」
  • 幻聴や妄想に支配されてしまっている状態
    「監視されていて外にはでれない」

このような状態のときには、周囲から説得をしようとしても難しいことが多いです。妄想に支配されていれば、周りの人が何を言っても信じてもらえませんので説得はあきらめたほうが良いです。また希死念慮があまりにも強い場合は、本人も治ろうという意思をもてずにいます。

このような場合は、強制的な治療につなげることも選択肢の一つになります。

その場合は、入院加療ができる医療機関でなければ対応できないため、病院に家族が相談してください。ご家族から状況を伺い、入院が可能な体制を用意して本人に来院いただきます。

その際は、

  • なんらかの口実をつくる(家族の病院につきそう)
  • 民間救急を利用する

などがあります。本人を精神保健指定医の資格を持った医師が診察し、医師と家族の両者が入院での治療が適切と判断した場合は、医療保護入院という強制入院につなげることができます。

退院後の関係性などを恐れるかもしれませんが、多くの場合は治療をして本来の状態を取り戻すと、理解をしていくことが多いです。

危険な場合は警察に

状態が急に悪くなってしまうこともあります。そのような場合は、以下の2つのリスクで対応を考えます。

  • 自分を傷つける恐れがある
  • 他人を傷つける恐れがある

このどちらかがある場合は、すぐに警察に連絡をしてください。いわゆる「自傷他害の恐れあり」というケースですが、このような場合は精神保健福祉法の23条に、以下のように規定されています。

第23条 警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

このようなケースの場合は、公的に入院の必要性を判断していきます。いわゆる措置入院(緊急措置入院)と呼ばれる形ですが、その日の救急当番にあたっている地域の病院に警察が連れていき、強制的な入院治療が必要かの判断を精神保健指定医が行います。

もしも自傷他害の恐れまではないけれども、自宅ではとても見ておくことができない場合は、精神科ソフト救急にご相談ください。多くの場合が地域の精神保健福祉センターが案内していただけますが、救急当番病院が紹介されます。

さいごに

心の病気は、その病状や切迫状況によっては、直ちに強制的な治療につなげることもあります。

心理的な抵抗が強い場合も、場合によっては病気の症状の一つであることもあります。治療の最初は抵抗が強かった方も、症状が良くなるにつれて安心してくださる方も少なくありません。

周囲の方は大変かと思いますが、ぜひこのコラムを参考にいただいて医療につなげていただければ幸いです。医療にバトンが渡れば、そこからは私たち医療者の仕事です。

そして良くなって本来の姿をとりもどしたら、ぜひ変わらない接し方をお願いします。心の病気は誰にでも起こる可能性があり、それはストレス耐性が低いからというわけでもありません。

社会の意識が少しずつ変わるにつれて、受診のしにくさは薄れていくようにも思います。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:コラム  投稿日:2020年10月25日

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