せん妄とは?認知症との違い・原因・対応方法・薬物治療について
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認知症の方が入院すると、認知症が悪化したようにみえることがあります。
その際に興奮したり、妄想をいだいたりするのですが、これは認知症の症状ではなく、せん妄という意識レベルの低下によるものです。
この記事では、せん妄の意味、認知症との違い、原因、対応方法、薬物治療について解説します。
これを読めばせん妄の概略を理解できるでしょう。
認知症の方を介護する際に役立ててみてください。
せん妄とは?
せん妄とは、急性かつ一過性に起こり、意識レベルの低下を背景に、さまざまな精神症状を示す症候群です。
脳疾患、脳の機能を低下させる身体疾患がある方、とくに認知症の方が起こしやすく、集中治療室などの環境要因が加わって、せん妄が発症します。
またベンゾジアゼピン系薬剤などの副作用も関係します。
軽度から中等度の意識レベルの低下が生じ、幻視・妄想・不安などの精神症状がみられるのが特徴です。
適切に対応すれば数日から数週間で改善します。
しかし対応が遅れると脳障害をおこし死亡することもあるため、注意が必要です。
せん妄と認知症の違い
せん妄と認知症は、同じような症状をおこすことがあり、混同されがちです。
しかしせん妄の主体は意識障害であり、認知症の主体は認知機能の低下です。
認知症は不可逆性・進行性の状態ですが、せん妄は治療すれば改善します。
したがって両者を区別することが重要です。
せん妄を疑う症状は以下のとおりです。
- 急激にADLが低下
- 急激に認知症の周辺症状BPSDが増悪
- 突然に集中力が落ちる
- 注意を他へ向けることが困難になる
- 幻視がみられることが多い
- 時間帯によって症状が変動する
せん妄の原因
よくみられるせん妄の原因を示します。
- 薬剤:抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系の向精神薬・オピオイドなど多数
- 脱水
- 感染症:肺炎・尿路感染症など
- 環境の変化
その他、以下のような原因もみられます。
- 脳血管疾患:脳出血・脳梗塞・一過性脳虚血発作
- 片頭痛
- けいれん性疾患:てんかんなど
- 外傷:硬膜下血腫など
- 腫瘍:原発性または転移性脳腫瘍
- 内分泌性疾患:副腎機能不全・甲状腺機能亢進症など
- 代謝性疾患:酸塩基平衡障害・電解質バランスの異常・高血糖・低血糖など
いろいろな原因がありますが、症状からせん妄を疑い、何か原因となる疾患がないか検索し、治療することが必要です。
せん妄の対応方法
せん妄は環境・心理的社会的要因・コントロール不良な症状が原因となることが多く、誘因を見つけ出し、対応します。
よくみられる誘引がないか検討する
- 入院、転居
- なじみのない空間や人との交わり
- 日光の当たらない部屋
- 身体拘束
- 騒音
- 不眠、痛み、かゆみ、便秘などの症状
- 不安、恐怖、ストレス
具体的なケア方法
せん妄を改善する、あるいは予防するためには、睡眠・覚醒のリズムを整える、日中に太陽の光を浴びる、苦痛症状を和らげることが必要です。
睡眠・覚醒のリズムを整える
- 入院前の睡眠パターンを把握
- 朝日が入るようにカーテンを開ける
- 起坐になる、離床を促す
- 更衣を行う
- 運動・ゲームなどの活動をとりいれる
- 夜間はカーテンを閉め、部屋の明るさを落とす
日中に太陽の光を浴びる
睡眠・覚醒のリズムには睡眠ホルモンの一種であるメラトニンが関係しています。
メラトニンは、夜に暗くなると分泌され、副交感神経を活発にします。
すると脈拍・血圧が低くなり、末梢血管が広がって深部体温が下がり、自然に眠くなります。
朝、太陽の光を浴びると、メラトニンの分泌が抑えられ、覚醒します。
ですから日中に太陽の光を浴びることが重要です。
苦痛症状を和らげる
- 痛み・かゆみを和らげる
- 尿意・便意への対応
- 身体拘束の解除
- 空腹感への対応
せん妄の薬物治療
薬剤がせん妄の原因なら、できるだけ減量あるいは中止してください。
そのうえで適切な薬物治療を開始します。
高齢者のせん妄に対する薬物治療の概要は以下のとおりです。
興奮が目立ち、内服できない場合
- ハロペリドールの静注
- 1.が無効の場合は、フルニトラゼパムあるいはミダゾラムの点滴静注
内服ができ興奮が目立つ場合
- リスペリドン(商品名:リスパダール)
- ペロスピロン(ルーラン)
- クエチアピン(セロクエル)
- オランザピン(シプレキサ)
内服ができ興奮が軽度もしくはみられない場合
- チアプリド(チアプリド)
- トラゾドン(レスリン)
- ミアンセリン(テトラミド)
まとめ
せん妄とは、急性かつ一過性に起こり、意識レベルの低下を背景に、さまざまな精神症状を示す症候群です。
せん妄は認知症の悪化ではなく、適切に治療すれば改善します。
せん妄の原因は、環境の変化・薬物・脱水・感染など多彩です。
まず原因を見つけ出し、対応することが重要です。
そのうえで薬物治療を開始します。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2024年3月28日
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