精神疾患があっても運転免許の取得・更新はできる?
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運転免許について心配な方へ
「精神疾患があっても運転免許は取れますか?」という質問をよく受けます。「免許の更新に運転免許センターに行ったら、診断書を持ってきてくださいと言われました」という患者さんも少なくありません。
精神疾患は、運転免許の取得や更新にどう影響するのでしょうか?具体的な方法もふくめてお伝えしていきます。
精神疾患があっても運転免許は取れる?
- 薬物・アルコール依存、日常生活に支障をきたすレベルの認知症以外の方は、治療で症状がコントロールできていれば免許取得ができます。
運転免許の取得で問題になる病気に関しては、具体的な病名が『道路交通法施行令』第33のニの三に規定されています。
- 統合失調症(自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く。)
- てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)
- 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう。)
- 無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節することができるものを除く。)
- そううつ病(そう病及びうつ病を含み、自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く。)
- 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
- その他自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気
()内に書かれてあるように、これらの病気の方でも、運転に支障がある症状が無ければ、とくべつな制限はありません。反対に、上記以外の病名であっても、症状やお薬の影響で「運転に支障がある状態」と判断される場合は、免許取得・更新には医師の診断書が必要とされます。
具体的には、以下のような状態がみられる場合に申告・診断書の提出が必要になります。
申告・医師の診断書が必要になるケース
免許取得・更新のときは、以下の質問票に「はい・いいえ」で回答することが義務化されています。
- 過去5年以内において、病気や治療を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことがある。
- 過去5年以内において、病気を原因として、身体の全部又は一部が思い通りに動かせなくなったことがある。
- 過去5年以内において、十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中活動している最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上になったことがある。
- 過去1年以内において、「飲酒を繰り返し、絶えず体にアルコールが入っている状態が3日以上続いたことが3回以上ある」または、「病気の治療のため、医師から飲酒を止めるよう指導を受けているにもかかわらず、飲酒したことが3回以上ある」のいずれかに該当したことがある。
- 病気を理由に医師から、運転免許の取得又は運転を控えるように助言を受けている
この質問で「はい」が1つでもあれば、主治医に診断書を書いてもらうことになります。医師が「OK」と判断すれば、免許取得・更新をすることができます。
ただし、
- 認知症(日常生活に支障がある程度)
- アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒
の方に関しては、運転免許は認められません。
また、お薬の副作用で強い眠気やふらつきなどがある場合にも、医師から運転を禁止されることがあります。
質問票に該当したときの診断書は?
質問票の症状に当てはまった方は、主治医に診断書を書いてもらうことになります。医師は患者さんの状態によって、3つの診断から該当するものを判断します。
- 運転に必要な能力を欠くおそれのある症状なし
- 運転に必要な能力を欠くおそれのある症状あり
- 特殊な事情があるためで、今後6か月以内にOKになりそう(この場合はOKになったときに再度の診断書が必要)
実際のところ「運転に必要な能力を欠くおそれがある」という判断はなかなかしづらいです。明らかに病状がコントロールできていない場合を除けば、ほとんどのケースで「問題なし」という診断書になります。
ですから、「病気を申告したら運転免許が取れないのではないか」という過度な心配はしなくても大丈夫です。
てんかんや統合失調症など、一定の病気が原因での事故自体は事故全体の0.1%程度といわれていて、精神疾患があると事故を起こしてしまうのかという部分は疑問視されています。
重症の方の場合は医師が任意で公安委員会に届け出ることもありますが、よほどの危険がない限り行わないと考えられます。
申請は正直に行いましょう
質問票に応える際、「『はい』と答えると診断書とかが面倒だし、免許が取れなかったら困るし、今は安定しているのだから『いいえ』にしておこう。」と考える方もいると思います。
けれど現在の法律では、虚偽の申告がバレると、
- 1カ月以下の懲役または30万以下の罰金
が課せられます。
また、申告が必要な状態で事故をおこした場合、『自動車運転致死傷罪』の適応が厳格化され、申請を正しく行っていなかったとしたら裁判官を含めた心証は間違いなく悪いものになるかと思いますし、精神疾患の患者さんと運転への風当たりがますます強くなってしまいます。
申告をして診断書が必要になれば、患者さんにとっては、
- 免許申請が2度手間になってしまう
- 診断書代金がよけいにかかってしまう
という負担がありますが、申請は正しく行ってください。上でお伝えした通り、よっぽどのことがない限りは「運転免許の取得はOK」の診断書になるかと思いますので、正しく申請して診断書を提出していただければと思います。
※精神疾患・向精神薬を飲んでいる状態で事故をおこすと刑が厳しくなる?『自動車運転致死傷罪』についてくわしく知りたい方は、『精神科・心療内科のお薬を服用中でも運転はできる?』をお読みください。
認知症が疑われる高齢者の厳格化
高齢化社会が進んでいく中で、認知症の高齢ドライバーの運転による事故が問題となってきました。アクセルとブレーキを踏み間違えるなどによる事故をニュースで耳にすることも増えてきています。
高齢者ほど移動手段として車が必要になってくる反面、認知機能をはじめとした身体能力の衰えから、運転能力は落ちてしまいます。自主的な返納をすることで、タクシーの割引や公共交通機関の割引などのメリットを自治体ごとに行っていました。
そのような中で、改正道路交通法が2017年3月施行されました。この改正の焦点は、高齢ドライバーにあてられています。
71歳以上の方で無事故無違反の方の運転免許更新は3年に1回となりますが、75歳という年齢で区切りをつけて認知症検査を行うことになりました。
認知症検査は、以下の3つの簡易的な検査になります。
- 時間の見当識:年月日、曜日や時間などを答える
- 手がかり再生:16種類の絵を記憶して、何が描かれていたかを答える
- 時計描画:文字盤付きの時計をかいて、指定された時刻になる針を記入する
その結果によって、
- 第1分類(認知症の恐れがある):「記憶力・判断力が低くなっています」
- 第2分類(認知機能低下の恐れがある):「記憶力・判断力が少し低くなっています」
- 第3分類(低下の恐れなし):「判断力に心配ありません」
に判定されます。
のいずれかに判定されますが、今回の改正で第1分類と認定された人には医療機関の受診が義務付けられました。そこで認知症と診断された場合、都道府県の公安委員会によって免許停止・取り消しとなります。
認知症との診断がなされなかった場合は、高齢者講習を受けていただいて免許更新となります。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:運転について 投稿日:2019年10月4日
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