うつ病に効果的な行動活性化療法とは?

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うつ病の行動療法

うつ病の治療というと、抗うつ剤などによる薬物療法が中心となっています。

もちろん病院では、お薬を出すだけでなく患者さんの心理的な面からアプローチもしていますが、時間の制約があります。しっかりとした心理療法を受けようとするとカウンセリングなどがありますが、保険もきかないのでお金がかかってしまってなかなかできません。

心理療法の中でも行動療法は、外来でも簡易的に行いやすいです。うつ病の行動療法として、近年は行動活性化療法が注目されています。物事のとらえ方である認知も含めて「行動」ととらえて、行動をかえていくことで内面の安定を探っていきます。

ここでは、行動活性化療法についてお伝えしていきたいと思います。

行動活性化療法とは?

心理療法にもいろいろなアプローチがありますが、現実的な日常へのアプローチとして認知行動療法があります。具体的な日常をテーマに扱うので、患者さんにもわかりやすくて効果を感じやすい方法です。

認知行動療法というと、一般的には認知療法よりに行われていることが多いです。本来は、認知療法と行動療法をひっくるめた治療法をさしています。

認知療法では、「脳による情報処理」に焦点を当てます。何かの出来事があると、その人の固定観念や信念によって情報処理されて、その結果として行動や感情が起こります。それでは情報処理=認知を変えていけばよいのだろうというわけです。このように認知を変えていくアプローチを、認知再構成法といいます。

それに対して行動療法では、「行動パターン」に焦点を当てます。何らかの状況になると、習慣化されている行動パターンをとります。その行動パターンを望ましいものに変えていくことで、物事のとらえ方を変えていきます。望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らしていく方法が行動活性化療法です。

このように行動活性化療法では、「行動」することから始まります。行動してみて、その結果をみていかないと始まらないという特徴があります。

イメージしやすいように具体例を上げてみます。天気のいい日に、うつ病で家に引きこもっている方を考えてみましょう。

うつ病の方は、「外に出かけなければ人に会うこともなく、自分が傷つくことを避けられる」というネガティブな結果を避けるために、家にいるという行動をとります。このように、結果に伴ってよくない行動パターンが作られていきます。(随伴性)

ここで、勇気を出して外に出かけてみます。「晴れた日に散歩すると気持ちがいいものだ」とか「知人と会って会話したら楽しかったなぁ」などといい結果になることがあります。このような経験ができると、「天気がいい日はまた外出してみようかなぁ」という気持ちになります。これが行動活性化療法です。

行動活性化療法のポイントと、よくある誤解

よく誤解されていますが、行動活性化療法はポジティブシンキングとは違います。「なんでも前向きに考えて行動してみよう」という治療ではありません。状況に応じて、適切な行動がとれるようにしていけるようにしていきます。もともと社交的でない方に、調子がよくない時から無理に人とコミュニケーションをとりましょうということではありません。

行動パターンを変えていくには、2つのアプローチがあります。

  • 望ましい行動を増やす
  • 望ましくない行動を減らす

うつ病の方では行動が不活発になっています。上でお話した外出の例でいえば、「外にいけば気持ちがいいのはわかるけど、疲れちゃうから家にいよう」というような感じです。このような時は行動をしてみないといけないので、活動を記録することから始めます。スケジュールをたててみると、思ったよりも自分が活動できることがわかるかもしれません。

望ましくない行動とは、回避行動のことです。まさに先ほどの外出の例です。回避行動を減らすためには、代替行動を意識的に行わなければいけません。勇気を出して外出しなくてはいけないのです。

行動活性化療法を行っていく時に注意をすることとして、2つのことがあります。

  • 自分の今の思いには動かされないこと
  • 過去のことを繰り返し考えないこと

まずは行動をしてみないとはじまらないのが行動活性化療法です。「もう少しやる気がでてくればできるんだけど・・・」といわれる患者さんが多いのですが、これでは治療がすすみません。今の自分の思いに動かされないで必要な行動をとっていくこと、これが重要になります。

また、過去のことを繰り返し考えることは、うつや不安を悪化させると考えられています。過去のことにとらわれてしまって、今の自分から回避するために行っているのです。ですから、このように「反すう」をしないようにしましょう。

例えば、掃除をしている途中に反すうしてしまったら、自分がいまやっていることに注意を向けます。心の中で、「そうじ・そうじ・そうじ・・・」と唱えてください。早く唱えると、自然と考えが消えていきます。

行動活性化療法の進め方

それでは行動活性化療法はどのようにすすめていけばよいのでしょうか?ここでは、外来での行動活性化療法をイメージしてお伝えしていきたいと思います。

まずは日々の活動を振り返ることから始めます。自分がどれくらい活動をしているかを見ていきます。今の自分にとって良い行動と悪い行動を把握します。

うつ病の患者さんでは、回避行動をとりがちです。望ましくない行動を変えていかなければいけません。勇気を出して本来あるべき行動を計画しなければいけません。

実際に行動をしてみて、その結果を振り返ります。それがよい結果ならば、ますますその行動が増えていきます。このようにして行動を活性化させていきます。

ある程度回復してくると、「日常生活の行動」から「社会生活での行動」に焦点がうつります。行動をしながら、自分の価値観を明確化していく必要があります。

それでは、具体的に行動活性化療法の流れをみていきましょう。

まずは活動記録表をつけてみる

まずは自分がいまどれくらい活動をしているのかを把握しましょう。活動記録表をつけていきます。

行動活性化のための活動記録(Excel)

上のエクセルを使って、活動の記録をとってみましょう。横向きで印刷をすると、ちょうどA4サイズになるように調整しています。

  • あなたは何をしていましたか?
  • あなたは誰といましたか?
  • あなたはどのように感じましたか?(怒り・悲しみ・不安・喜びなど)

日記にしてつけてみましょう。感情の強度を10点満点でつけていきましょう。

「もう少しやる気が出てくれば・・・」といっている方も、思ったよりも活動できていることもあります。治療者と振り返りながら、望ましい行動と望ましくない行動に分けましょう。

望ましい行動があれば、できるだけそれを行うようにしましょう。望ましくない行動があれば、少しずつ変えていかなければいけません。

勇気を出して行動を計画する

自分自身の行動が分かってきたら、それをもとに「行動」を計画していきます。うつ病の患者さんは、どうしてもネガティブに考えてしまって回避行動をとりがちです。以前は普通にしていた「行動」が、今はとれなくなっています。

そのような望ましくない行動を減らしていかなければいけません。このために、行動を計画していきます。「晴れた日は外出をする」といったように課題をつくって、嫌な気持ちがでてきてもとりあえず行動してみます。

その時の感情を活動記録表に記入していきましょう。

行動の結果を振り返る

本来あるべき行動をとってみて、その結果を振り返っていきます。「思ったよりも外出したら楽しかった、怖くなかった」などと思えたら、行動活性化が進んでいきます。

良いと思えた行動は、ますます積極的に行っていくようにしましょう。いままでの生活に近づいていくことで、自信がついていきます。

このようにして、「行動」という外側から、「認知」という内側に働きかけるようにして、行動活性化療法は治療をすすめていきます。

自分の価値観を明確化していく

うつ病の症状がひどいときは、日常生活の行動が目標になります。ある程度よくなってくると、「日常生活での行動」から「社会生活での行動」に焦点がうつっていきます。

社会復帰をはたし、本当の意味でうつ病の再発を防いでいくには、このプロセスが非常に重要です。等身大の自分を理解して、価値観を明確にしていかなければいけません。そのためには、「行動」がかかせません。

頭で考えていても、実際に行動してみたら違うということはよくあります。

例えば、「自分はボランティアをやりがいにしたい」と考えたとします。そのように考えたら、実際にボランティアをやってみましょう。「思ったより感動しない、楽しくない、やりがいがない」と感じたら、それは自分の価値観ではありません。

このようにして、社会にも認められて自分にもしっくりくる価値観を見つけます。それが見つかれば、日々の生活の中に行動を取り入れていくのです。

うつ病で休職した方だと、これまでの価値観が大きく崩れてしまうことがあります。「会社の中で出世して、ゆくゆくはこんな生活がしたい」と思っていたものが崩れてしまったりします。

現実を等身大にとらえつつも、新しい価値観をみつけていく必要があります。

行動活性療法の効果とは?

行動活性化療法の特徴は、「行動」に目を向けるので、具体的でわかりやすい点です。このため、認知療法と比べると時間がかかりにくいです。回避行動が目立つ方は、行動活性療法のアプローチを取り入れてみたほうがよいでしょう。

しかしながら、「この人は行動活性療法が有効そうだ」と思っても、なかなかよくならないこともあります。そのようなときに認知からのアプローチを意識すると、急によくなることもあります。「行動」からではなく「認知」からの方が効果的な方もいます。柔軟に行っていく必要がありますし、同時にアプローチしていくことも多いです。

行動活性療法の効果が報告された論文があるのでご紹介します。2006年に発表されたランダム化比較試験では、中等度~重症うつ病の方では、薬物療法と行動活性化療法は同等に効果があったと報告されています。認知療法はやや劣るという結果になりました。

もちろん症状の程度が重たい人には慎重に行うことが必要ですが、少しずつ状態が回復してエネルギーがでてきたら、行動活性化療法を意識していくのも、ひとつの治療方法となります。

まとめ

行動活性化療法とは、思い切って「行動」をしてみることで、その結果からあるべき行動パターンや認知を促していく方法です。

ポジティブシンキングとは異なります。思い切って行動してみることが大切で、過去のことを繰り返し考えることは避ける必要があります。

行動活性化療法には4つのステップがあります。

  1. 活動記録表をつける
  2. 勇気を出して行動を計画する
  3. 行動の結果を振り返る
  4. 自分の価値観を明確化していく

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:心理療法  投稿日:2020年8月13日

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