対人関係社会リズム療法とは?
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はじめに
すべての心の病気に言えることなのですが、生活リズムをととのえるのはとても大切なことです。
生活リズムが整うだけで症状が多くの患者さんで症状がよくなっていきます。心と身体は密接に関係していて、身体の調子を整えることが心の調子を整えることに繋がるのです。
生活リズムを整えましょうというのはとても簡単なのですが、実際に整えていくのはとても難しいのです。具体的にはどのようにしていけばよいのでしょうか。
行動療法的なアプローチとして、対人関係社会リズム療法(IPSRT)というものがあります。ここでは、対人関係社会リズム療法による生活リズムの整え方をご紹介していきます。
社会リズム療法(Social Rhythm Therapy)
社会リズム療法では、大きく2つのコントロールを行っていきます。
- 生活リズム(概日リズム)
- 社会的刺激(対人関係)の量と質
人は睡眠と覚醒を繰り返していますが、その体内時計のリズムに従って、自律神経がバランスをとっています。食欲、体温、代謝、免疫、心肺機能、性欲など、さまざまな身体の機能をととのえています。
生活リズムがずれてしまうと、当然ながら身体の自律神経ともリズムともうまくあわずに調子が悪くなってしまいます。この生活リズムを整えていく必要があります。
生活リズムは、対人関係をはじめとした社会的刺激も大きな影響を受けます。人は社会で生きているので、人との関わりをなくすことはできませんし、なくすべきではありません。ですがこれが過度になりすぎると、調子をくずしてしまいます。
社会リズム療法では、生活リズムを整えていくとともに、このような「社会刺激の変化」に焦点をあてていきます。記録紙を用いて目に見える形にして、「社会リズム」を整えていきます。
記録をつけていくと、社会リズムと気分がどのような関わりあいを持っているのか、傾向がみえてきます。これらを意識的に整えていくことで、病状の改善を目指します。
社会リズム療法をしっかりと行うには、17項目について見ていきます。大変ですので、重要な5項目からやっていきましょう。
- 起床した時刻
- 人と初めて接触した時刻
- 仕事・学校・家事・ボランティアなどを始めた時刻
- 夕食をとった時刻
- 就寝した時刻
の5つの時間を記録していきます。SRMというシートがありますが、後述する対人関係社会リズム療法のところでご紹介します。
17項目ではさらに以下の12項目追加されます。
朝飲み物を飲んだ時刻・朝食をとった時刻・初めて外出した時刻・昼食をとった時刻・昼寝をした時刻・運動をした時刻・夜食や飲み物をとった時刻・夜のテレビのニュース番組を見た時刻・別のテレビ番組を見た時刻・活動Aをした時間・活動Bをした時間・活動Cをした時間(A~Cは任意)
対人関係療法(Interpersonal PsycoTherapy)
社会生活の中でのストレスとして一番大きなものは、やはり人間関係のストレスです。特に患者さんにとっての「重要な他者」との間の対人関係を見直していき、再構築をはかっていくのが対人関係療法です。
対人関係療法では、心理的問題は意思疎通の問題ととらえていきます。うまくコミュニケーションが取れれば、心理的なわだかまりも解消でき、自尊心も高めていくことができます。対人関係に絞った認知行動療法に近いものがあります。
認知行動療法はそれぞれの人に変化の方向性が委ねられていて、ゴールというものがありません。ですが、対人関係療法には明確なゴールがあります。誤解を恐れずに簡単にいってしまうと、「重要な他人とはお互いに良い感じになっておいて、その他の人たちはほどほどで付き合えればよい」というゴールです。
どのような心の病気でも、何らかの対人関係が関係していることが多いです。病気によって人間関係が壊れてしまっていることもあります。対人関係療法では、具体的な人間関係の解決にも目を向けて、少しずつ関係性の改善をはかっていきます。
※対人関係療法について詳しく知りたい方は、『対人関係療法とはどういう治療法なのか』をお読みください。
対人関係社会リズム療法(IP-SRT)
上記の2つを組み合わせたものが、対人関係社会リズム療法です。
社会リズム療法では直接の人間関係に目を向けるというよりは、人間関係のストレスを量にして記録していきます。対人関係療法では、具体的な人間関係の問題の解決を目指していきます。この2つを組み合わせていくのです。
対人関係社会リズム療法で行っていく社会リズム療法についてご紹介していきます。社会リズムを量的にみていくと、どの部分での人間関係のストレスが気分に影響するのか把握できるようになってきます。それを踏まえて、ストレスの量を適切にコントロールしていくことを目指していきます。
社会リズム療法の具体的な記録は、SRM(social rhythm metric)という記録用紙を用います。
- 起床時刻
- 最初に人と合った時刻
- 仕事・家事開始時刻
- 夕食時刻
- 就寝時刻
以上の5つを記載します。その上で、対人接触の程度を0~3の4段階で記入します。最後に一日の気分を点数づけします。1週間記載がおわりましたら、SRM得点を計算します。計算方法は添付の記録用紙をご参照ください。
記録を継続することで、生活リズム、対人接触、気分の関係性がだんだんとわかってきます。自分自身でどのように管理していくことが大事か、意識していくことができるようになっていきます。
その上で少しずつ、直接の人間関係にも目を向けていきます。このようにして、社会リズム療法として対人関係を量的にとらえながら、具体的な人間関係の問題も合わせて取り組んでいくのが、対人関係社会リズム療法です。
まとめ
社会リズム療法によって生活リズムと対人関係の量をコントロールしながら、対人関係療法によって直接の対人関係にも目を向けていきます。
対人関係社会リズム療法では、このように行動療法的なアプローチをしながら現実的な改善を図っていきます。ですから、SRMなどの記録紙をつかって実際に行動するということがとても大切です。まずは第一歩を踏み出してみましょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:心理療法 投稿日:2020年9月12日
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