森田療法とは?「あるがまま」の本当の意味
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はじめに
森田療法は、1919年に日本人の森田正馬によってはじめられた精神療法です。
当初は入院による「森田神経質」とよばれる不安障害の治療法でしたが、現在は外来でも行われていて、「とらわれ」のある不安障害や気分障害などの幅広い病気での治療に使われています。
精神療法にも様々なアプローチがありますが、その多くが認知や感情、行動をコントロールしようとする治療法です。それに対して森田療法では、「あるがまま」を受け入れることを目指していきます。
この「あるがまま」という言葉は森田療法を象徴する言葉としてよく使われますが、これだけ聞くと受け身なイメージを持たれるかと思います。森田療法でいわんとする「あるがまま」は決して受け身な意味ではなく、「生きること欲望」も含めてあるがままを受け入れるのです。
ここでは、森田療法についてご紹介したいと思います。外来での治療に、どのように森田療法が活用できるのかを整理していきます。
森田療法での3つの人間理解と病気の関係
森田療法では、3つの基本的な考え方があります。この考え方で人間を理解し、病気とを理解していきます。まず最初に、この3つのポイントをご紹介しましょう。
- 自然論:感情は自然なもので、関わり方が問題
- 両極性:対立する恐怖と欲望を、それぞれ「あるがまま」に感じて調和を図る
- 関係性:すべての問題は、感情・認識・行動・注意の関係性の中で生じる
自然論
我々は日々の生活の中で様々な出来事を経験し、様々な感情がみられます。そのなかのひとつである不安や恐怖といった感情は、それ自体は自然なものと考えます。その感情を「あってはならないもの」と決めつけてしまって、それを何とか消し去ろうとすることが不自然と考えます。
我々が感じる感情は自然なもので、誰にも責任があるものではありません。その自然な感情をいかに受け止めて受け入れていくのかが、森田療法での治療のポイントになります。
一方で、感情に基いての行動は、その人にもある程度の責任があります。このようにして、「感情」と「行動」を分けて考えます。
このように、感情の原因は自然なものであるので、森田療法ではそれを突き詰めても意味がないと考えます。自分に起こっていることは、すべてを知ることはできないのです。
森田療法で問題とするのは、感情に対する認識や行動、注意の向け方といった関わり方になります。
両極性
森田療法では日常生活での様々な経験を、極端な2つの対になる概念から理解していきます。このことを両極性といいます。
たとえば感情と思考を考えてみると、本来はバランスを取り合っています。これがどちらかに偏ってしまうと、感情的になり過ぎたり、理性的になりすぎたりします。
両極性なものを考えて、その調和を目指していくのです。森田療法ではその中でも、「恐怖と欲望」から根源的な人間の存在を理解します。
生きることの欲望と不安や恐怖が関係していることは、様々な宗教でもテーマとなっています。森田療法では、人が恐怖を抱くのは、生きる欲望を全うするためと考えます。よりよく生きたいと欲望をもてば、生きる悩み(恐怖)は深くなるのです。
恐怖と欲望がバランスを取り合っている状態が本来あるべき状態です。欲望のままにいきては、失うこともたくさんあります。恐怖にとらわれてしまうと、生きる欲望が感じられなくなってしまいます。
森田療法では、恐怖は恐怖、欲望は欲望として「あるがまま」に感じられるようにして、調和をとって生きていけることを目指します。
関係性
森田療法では、すべての問題は感情・認識・行動・注意の関係性から生じると考えます。
問題はそれぞれの原因を考えることではなく、お互いの関係のあり方と考えます。これらが上手くいかなくて悪循環してしまうと、病気に発展してしまうのです。
どのようにして「とらわれ」の悪循環が発展するのかは、以下でご説明していきます。
どのようにして「とらわれ」てしまうのか
森田療法では、感情・認識・行動・注意の関係性に悪循環がみられると、とらわれてしまうと考えます。どのようにして人はとらわれてしまうのでしょうか。
「とらわれ」はなにも、心の中で起こるだけではありません。母と子、上司と部下などの人間関係でも起こりえることです。その点も意識してみていきましょう。
精神交互作用
具体的に、人前に出たら赤くなってしまう社交不安障害の患者さんを考えてみましょう。人前に出た時に、不安や緊張するのは自然なことです。それによって顔が赤くなったこと自体は問題ではありません。
このときに「顔が赤くなってしまうのではないか」ということにのみ注意が向いてしまって、不安や恐怖が余計に強まってしまいます。それが顔を赤らめ、そのせいでより注意が向く・・・という悪循環が始まってしまいます。
このように、身体の感覚(症状)と注意の悪循環のことを「精神交互作用」と呼びます。そして視野狭窄状態に陥ってしまい、自分で自分の症状を作り出してしまうのです。この悪循環が「とらわれ」なのです。
「べき」思考
先ほどの例に戻りましょう。顔が赤くなってしまうことに対して、「あってはならないもの」と決めつけてしまって、それを何とか無くさなければと考えてしまいます。無くさなければと考えると、さらに「顔が赤くなってしまった」という身体の感覚(症状)が強く感じられてしまいます。このようにして、とらわれてしまいます。
このように、「とらわれ」てしまうことには、「かくあるべし」という自分の中で作り上げている縛りがあるのです。顔が赤くなってしまうことは、自分が生きていく上でデメリットだという決めつけによって作りあげられた、「べき」思考があるのです。
これは裏を返せば、よりよく生きたいという生への欲望なのです。それが自分自身を縛って生きづらくしてしまっているのです。
現実社会での「とらわれ」
「とらわれ」はなにも、心の中で起こるだけのものではありません。人間関係においても、「とらわれ」の悪循環はみとめられます。
職場であれば上司と部下の関係でもみられます。メンタル不調で休職の過去がある部下を抱えた上司で例えてみましょう。
上司としては、いつまた不調になるかもしれないと心配しながら一緒に日々の仕事をしています。そんな中で急な体調不良でお休みをとったとしましょう。「またメンタルの問題じゃないか」と上司は気が気でなくなります。注意がひきつけられ、部下の細かなところに目がいくようになります。
ちょっとした仕事のミスなど通常なら気にならないことも、上司には不安や失望などにつながってしまいます。その結果、ますます注意が向いてしまうという悪循環になります。
過度に気を遣ってしまって、それが部下にも伝わって問題になるようなこともあります。このような「とらわれ」に対しても、森田療法的なアプローチによって解消できることもあります。
森田療法の治療の進め方
森田療法では、大きく以下のように順をおって治療をすすめていきます。
- 悪循環を明確化
- 感覚(症状)の受容を促す
- 生の欲望を強める
それぞれについて、みていきましょう。
悪循環を明確化
悪循環にとらわれてしまい生きづらさを感じている患者さんに対して共感をしながらも、その悪循環になっている部分をはっきりと理解することから森田療法は始まります。
まずは悪循環となっている部分を明らかにして、患者さんと共有していきます。悪循環にとらわれている患者さんは「どうにもならない」無力感に包まれています。森田療法では、何とかしなければという気持ちをもたなくてよいのです。このことに患者さんが気づくと、無力感もなくなっていきます。
「何とかなるかもしれない」という治療への希望を持てるようになっていきます。このようにして、治療に前向きに取り組んでいくことがスタートになります。恐怖にとらわれているのは、生きるという欲望の空回りであることを理解していただきます。
感覚(症状)の受容を促す
森田療法では、感情と行動を分けることが大切です。森田療法では、感情とどのように関わるかが問題と考えていきます。
まずは行動を、「できること」と「できないこと」を分けることから始めます。
先ほどの顔が赤くなってしまう患者さんの例では、顔を赤くしないことは「できないこと」です。これを無くそうと格闘することはあきらめて、仕方がないと受け入れるのです。現実的に「顔が赤くなりながらも笑顔を絶やさない」などといった「できること」があります。
まずは「できないこと」に対して戦わないことです。それが出来るようになってきたら、待つことです。待つことで感情は少しずつ変化していくことを理解していくのです。決して永遠に続くものではなく、いつかは無くなっていくものだと理解するのです。イメージと現実を分けていけるようにしていきます。
そして「できること」をすることで、症状は自分のものとして受け入れながら、注意を自分の内面から現実的に出来ることに向けていくのです。このようにして「とらわれ」がうすれ、自分ですべてをコントロールしなければいけないという考えが薄れていくのです。
生の欲望を強める
このようにして少しずつ「とらわれ」が薄れてきても、その根底にある「べき」思考は抜けきりません。自分の理想像から抜け出せずに、「とらわれ」が続いてしまいます。
生きづらさはありつつも、「いかに生きるか」という問題へと変わっていきます。「できること」という現実世界に注意を向けながら、行動することで気分や感情がかわることを理解していきます。とりあえず行動すること(恐怖突入)を大事にして、自分の生きる欲望と結び付けていきます。
先ほどの例では、顔が赤くなりながらもとりあえず人前に出ていくことで、思ったより「楽しい」という感情がうまれます。もっと交友を広げていって社交的に生きていきたい、そんな自分の生の欲望を理解していくのです。
次第に世界が広がっていくのを感じ、「人と接していきたい」という素直な自分の気持ちを受け止められるようになり、生の欲望が健全に発揮されるようになるのです。
このように、生きることでの恐怖の感情をありのままに受け止められると、生きる欲望がみえて「あるがまま」に生きられるようになるのです。これが森田療法でいう、「あるがまま」の意味になります。
森田療法の治療適応とは?
もともとは森田神経質の定義を満たす患者さんが治療の対象でした。とらわれが非常に強く、入院環境を利用しての直接的な体験によって「あるがまま」を目指していきます。
現在は外来での森田療法が中心となると、対話によって患者さんにアプローチしていくことになります。感情と行動との関わりを言語的に扱っていくことで、治療の対象も広くなっていきました。
もちろん、基本的には「とらわれ」があるような精神疾患が対象です。さまざまな不安障害、気分障害(とくに気分変調症)、ストレス性障害、身体表現性障害などが適応になります。
まとめ
森田療法では、以下の3つの考え方で人間と病気を理解していきます。
- 自然論:感情は自然なもので、関わり方が問題
- 両極性:対立する恐怖と欲望を、それぞれ「あるがまま」に感じて調和を図る
- 関係性:すべての問題は、感情・認識・行動・注意の関係性の中で生じる
精神交互作用と「べき」思考によって、「とらわれ=悪循環」が形成されていきます。
森田療法では、以下の3つのステップで治療をすすめていきます。
- 悪循環を明確化する
- 感覚(症状)を受容できるようにする
- 生への欲望を強める
生きることでの恐怖の感情をありのままに受け止められると、生きる欲望がみえて「ありのまま」に生きられるようになっていきます。これが森田療法でいう、「ありのまま」の意味になります。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:心理療法 投稿日:2020年9月12日
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