【専門家が解説】就労移行支援事業所
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就労移行支援事業所とは?
就労移行支援事業所は、一般企業への就労を目指す障害者の方(またはそれに相当すると認められた方)をサポートする事業所です。
障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一環で、就職に向けた職業訓練、就職活動支援、定着支援などが受けられます。
現在は様々な民間事業者が参入しており、それぞれが特色のある就労移行支援事業を行っております。発達障害やうつ病などの病気ごとに特化していたり、在宅での訓練が可能な事業所もあります。各事業所でも、強みとしている訓練内容も違いがあります。
どのような支援を望んでいるのか、いくつか見学しながら明確にしていただくことをおすすめします。ここでは、就労移行支援事業所の活動内容や料金など、実際の流れをお伝えしていきます。
就労移行支援事業所を利用できる方
就労移行支援の利用には、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 障害手帳を持っている方、またはそれに相当すると医師と自治体が判断した方
- 18歳以上~65歳未満の障害や難病がある方
- 就労を希望し、可能な状態にある方
- 現在働いていない方
このサービスは就労を希望する障害・難病のある方が対象ですが、手帳がなくても、医師の診察や定期的な通院が認められれば、自治体の判断で利用可能な場合もあります。しかし、もし障害者枠雇用での就労を希望する場合は、障害者手帳が必要になります。
精神科や心療内科の疾患ですと、統合失調症、うつ病、双極性障害、適応障害、てんかん、発達障害、知的障害などを始めとした様々疾患で利用が可能です。
自治体によって細かな要件が違うこともありますので、詳しくはお住まいの市区町村役所の障害担当の窓口にお問い合わせください。
就労移行支援事業所の利用期限
サービスの利用期限は生涯で2年間までです。
2年の間に、訓練や実習、就職活動支援を受けて就職することが目標になります。就職後の定着支援は利用期間には含まれず、2年が過ぎても支援を受けることができます。就職が決まるまでの期間は個人差があり、数カ月で就職して利用を終了する方から、2年の期間を満了しても就職が決まらない方まで様々です。
2年で就職できなかった場合については、期間を延長すれば就職など成果が期待できそうと判断されたときは、自治体へ申請して認められれば、最長1年まで期間を延長することができます。しかし、本人が希望しても延長が認められない場合も、もちろんあります。
認められない場合や本人が延長を希望しない場合、就労継続支援施設や地域活動支援センターへの移行などを検討し、2年の期限終了後の方針を決めていきます。
途中で事業所へ通うのを止めてしまった場合、再度サービスを受けるときには2年の期間から以前利用した期間が差し引かれます。例えば、年利用して一旦辞めて再度挑戦したいときには、残り1年の利用しかできません。
このように就労移行支援事業は2年しか利用ができません。最近は「昼のお弁当」を提供する事業所が多くなってきていますが、安易に利用するのではなく、しっかりと就労目的をもって通所いただくことが大切です。
就労移行支援事業所の利用料
就労移行支援は障害福祉サービスの一環で、福祉サービスの利用料がかかります。原則は1割が利用者の方の自己負担です。
ただし、前年度の課税額によって免除や上限が設けられています。以下の方は自己負担がありません。
- 生活保護を受給している世帯の方
- 市町村民税が非課税の世帯の方
前年度に働いていて収入と課税があったときには、課税額に応じ月の上限が定められています。
- 市町村民税の所得割が16万円未満の方
→9,300円
※市町村民税の所得割が16万円未満の世帯とは、収入が約600万円以下の世帯です。 - 上記以外の方、20歳以上の入所施設利用者、グループホーム・ケアホーム利用者
→37,200円
※額に関わらず、市町村民税課税の世帯なら負担上限月額は37,200円となります。
交通費は自己負担が原則になりますが、一部の自治体では要件を満たせば支給されることもあります。通所による工賃などは支給されません。最近ではお昼のお弁当を事業所側が用意しているところが増えています。
具体的な利用料や細かな要件は、自治体によって異なります。詳しくは、お住まいの市区町村役所の障害担当の課にお問い合わせください。
就労移行支援事業所のサービス内容
事業所で行うサービスは大きく分けて以下の5つです。
- 個別支援計画
- 職業訓練
- 企業実習
- 就職活動支援
- 就職後の定着支援(アフターフォロー)
それぞれご紹介していきます。
個別支援計画
就労に向けたステップの第一段階は、障害の特性、現在の体調、就労経験、能力、希望進路、どのような生活を送っていきたいかなどを支援者が面談で聞き取り、それぞれの状態に合わせた支援計画を利用者と支援者で作成することから始まります。それに合わせて後のプログラムが組まれていきます。
職業訓練
職業訓練では、利用者の方に合わせた多種多様なプログラムが行われます。
プログラムは事業所によって異なり、内容も方向性も多岐にわたります。パソコン系のプログラムが充実している所、特定の資格取得のための講座を開いている所、工賃が発生する軽作業を訓練としている所など、それぞれに強みや特色があります。
【プログラムの例】
- ビジネスマナーなどの学習
- グループディスカッションやSSTなどのコミュニケーション能力を磨くプログラム
- Officeソフトや基本的な入力練習、データ入力や資料作成などのパソコン能力を磨くプログラム
- 料理や軽い運動などの生活や健康の管理能力を高めるプログラム
- 仕分け作業や計算作業、部品の組み立て作業などの集中力や作業能力を高めるプログラム(会社から請け負っている作業だと工賃が発生する場合もあります)
企業実習
すべての就労移行支援事業所で行っているわけではありませんが、作業訓練の後に企業や福祉施設で実習ができる所が多くなっています。実際に通勤し、現場での仕事を経験します。訓練で学んだことを実践することができます。
実習例としては、清掃、データ入力、検品、調理助手…など様々なものがあります。
移行支援の事業所がどれくらい実習協力企業を確保しているかで、体験できる実習の種類も変わってきます。
就職活動支援
職業訓練や企業実習で働ける状態が整った後、就職活動が始まります。就労移行支援事業所は直接就職先を紹介することはできませんが、ハローワークや一般企業が出している求人情報に基づき、利用者の方の特性や希望に合ったものを共に検討していきます。
同時に面接練習や履歴書、職務経歴書の書き方、自己分析指導や職場研究などで利用者の方の就職活動を支援します。
また、面接に支援スタッフが同行し、利用者の方の強みや障害の特性について企業に説明してくれることもあります。
職場定着支援(アフターフォロー)
就職活動支援を受けて無事就職ができても、働き出してみると様々な悩みや問題が出てくることが多いものです。訓練ではできたことが実際の仕事では上手くいかなかったり、環境の変化についていけず体調が不安定になってしまったりすることもありえます。
就労移行支援事業所では、そのような事態を対処し、長く安定して職場で働くことができるように就職後の職場定着支援を行っています。
利用者の方との面談や必要時には、会社と連携をとり環境調整等も行います。就職が決まればそれで終わりというわけではなく、安定して働き続けるための環境を整えていくのです。
定着支援の期間は基本的に6カ月ですが、終了後も電話サポートや相談のできるシステムを整えている事業所もあります。反対に、定着支援の制度があまり充実していない所もあり、事業所によって差があるようです。
就労移行支援事業所を選ぶ際にどの程度アフターフォローに力を入れているかは、判断基準の一つになりえます。
就労移行支援事業所の利用方法
就労移行支援のサービスを希望するときに必要なステップは、以下のような流れになっています。
- 主治医と相談する
- 主治医の許可が出たら希望の事業所を探す
- 事業所との相談で利用が決定したら、役所に利用申請をする
- 『障害福祉サービス利用受給者証』の発行後、事業所で正式な手続きをして利用開始
主治医と相談する
精神科・心療内科に通院中の方は、まず主治医と相談をしましょう。このサービスを受けるには定期的に通院し治療を受けていることが前提です。
また、サービスの利用の必要性があり、事業所の利用が可能な状態と医師が診断することが条件になります。
希望の事業所を探す
主治医への相談後は、自分が通いたいと思う事業所を探しましょう。どんな事業所があるかは市区町村役所の障害福祉課などで紹介が受けられます。インターネットで検索をすることもできます。通院先の医療機関にソーシャルワーカーがいる場合は、そちらへ相談してみるとスムーズです。
事業所により特色や得意が違うので、自分が学びたいと思うことや希望の業種などを考え、合いそうな所を探してみましょう。気になる所を見つけたら、実際に問い合わせて見学や相談に訪れます。体験ができる所も多いです。相談や体験を通し、よく検討することをお勧めします。
市区町村の障害福祉担当窓口に利用を申請する
事業所との相談の上で通所が決定したら、市区町村の障害福祉担当の窓口にサービスの利用を申請します。
その後に役所の担当者からサービス利用についての聞き取り調査があり、サービス支給認定のための会議があって正式に就労移行支援事業所の利用が決定します。
また、サービスの利用にあたって『サービス等利用計画書』という書類の作成が必要になります。自分で作成することも可能ですが、難しいときは指定の特定計画相談事業所に作成を依頼します。
『サービス等利用計画書』の作成方法や特定計画相談事業所の紹介は、役所の窓口で説明してもらえます。まずは窓口に通所する就労移行支援事業所が決まったことを伝えましょう。
ちなみに指定特定相談事業者とは、福祉サービスの利用にあたって、どんなサービスを受けたらいいかに迷ったときや、計画書の作成に困ったときに相談にのってくれる専門の事業所です。介護サービスのケアマネージャーのような存在で、福祉サービス利用の際に必要な『サービス等利用計画案』を作成してくれます。
受給者証の発行・事業所での手続き・通所開始
認定が下りると『障害福祉サービス利用受給者証』が発行されます。受給証を受け取ったらそれを持って事業所で契約手続きを行い、通所が開始できます。
受給者証には期限があり、1年で更新が必要です。
就労移行支援と就労継続支援施設A型・B型の違い
障害者の方が就労支援を受けられる就労系福祉サービスには、就労移行支援以外に就労継続支援施設A型・B型があります。
<就労継続支援施設A型・B型・就労移行支援の比較>
就労移行支援と就労継続支援施設との大きな違いは、
- 賃金(工賃)が発生するかしないか
- 利用期間の有無
です。
就労移行支援事業所は、一般企業へ就職するための訓練のような感覚で、軽作業を行ったときに工賃が出ることもありますが、基本的に賃金はもらえません。
一方、就労継続支援施設のうち、A型の方は、雇用契約を結びます。中で行う仕事は就労能力を向上させる訓練の意味合いもありますが、労働力として雇われるので賃金が発生します。B型の方は、雇用契約は結びませんが、安いながら行った作業への対価として工賃がもらえます。
就労へのサポートという面では就労移行支援が一番充実しています。基本的には、現段階で一般就労が可能な方は就労移行支援、それが難しい方は状態に応じA型・B型を利用し、仕事をする習慣づくりをしながら就労に必要な力を培っていくことになっています。
これらのサービスは同時に受けることはできません。就労移行支援を受け、その時点でA型・B型の利用の方が適切と判断されればそちらに移行したり、A型やB型を利用していた方の状態が向上し、一般就労を目指して就労移行支援に移行したりと様々なパターンがあります。
様々な就労移行支援事業所
就労移行支援事業所と一口に言っても、事業所ごとに様々な売りや特徴があります。
発達障害などの特定の疾患を持つ方の支援に特化している所や、在宅での訓練が可能な所、コミュニケーションの訓練に力を入れている所、パソコンの訓練に力をいれている所など様々な事業所があります。
自身がどのような訓練をしたいのか、どのような支援を望んでいるのか等を考慮して自身にあった事業所を選んでいくことをお勧めいたします。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:制度・サービス 投稿日:2019年5月11日
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