夢遊病(睡眠時遊行症)の症状・診断・治療

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夢遊病(睡眠時遊行症)とは?

夢遊病の症状診断治療について、精神科医が詳しく解説していきます。

夜中、睡眠状態のままで動きまわってしまう。そんな状態を「夢遊病」「睡眠時遊行症」といいます。

「夢遊病」の名前だけは、多くの方が知っているのではないでしょうか。

夢遊病は、覚醒の機能が上手く働かない睡眠障害の1種です。

患者さんの多くは3歳~9歳ごろに始まり、通常は睡眠機能の発達にともない落ち着いていきますが、まれに成人でも発症します。

成人で夢遊病のような症状がみられた場合、他の病気や飲んでいる薬が原因の可能性もあります。夢遊病にはどんな特徴があるのでしょうか?

夢遊病の症状

症状の出方は人によって様々ですが、

  • 深い睡眠中、意識がないまま動き回ってしまう

ことが特徴です。

動きはしっかりとしていますが、表情はうつろで、声をかけてもほとんど反応せず、目覚めさせるのは困難です。

具体的な行動には、

  • ベッド上で起き上がり、あたりを見回す
  • ドアを開け閉めする
  • クローゼットに入る
  • 着替えて外に出ていこうとする
  • 物置で用を足す
  • 台所で何かを食べる

などがあります。

遊行中に意識はありませんが、感覚器官は働いているため、扉をあけたり、階段を降りたりということができます。けれど、周囲の状況や人を認識できているわけではないため、クローゼットや物置をトイレと思い込んで用を足してしまったり、上階の窓から外へ出ようとしたり、裸足で外に出て足が傷だらけになったりと、危険がともなうことがあります。

夜間の睡眠時に限定し、食行動や性行動に意識が働かなくなることもあります。食行動では無意識に台所へ行って冷蔵庫の中のものなどを食べます。性行動では、無意識のうちに性的な行動へおよびます。大人で認められる夢遊病(睡眠時遊行症)のタイプとして、睡眠関連食行動障害や睡眠関連性行動障害として呼ばれています。

遊行は、脳が眠り体は動くノンレム睡眠中におこります。ノンレム睡眠は、脳が休むいわゆる「深い眠り」です。ノンレム睡眠は睡眠の前半に多くみられるため、遊行症状は睡眠時間帯の前半1/3を中心におこります。遊行時間は通常1~10分と一時的なものです。まれに1時間ほどに及ぶこともあります。

覚醒させるのは難しく、そのまま促すと睡眠に入っていくことが多いです。そして起床後は、遊行の記憶はありません。まれに覚醒して一時的な混乱が収まって意識がはっきりしてきても、遊行のことを思い出すことができません。

症状は毎日おこるとは限らず、週1、月に数回程度、など人によって様々です。

夢遊病のチェック

患者さんの多くは子どもさんのため、ご家族の発見によって症状がわかります。けれど、成人で一人暮らしをしていると判断がつきません。そのときは以下のようなことをチェックしてみましょう。

  • 夜中目覚めたらなぜか着替えていた
  • 知らない間に足が汚れていた
  • 寝る前には無かったはずの傷がついていた
  • 寝る場所が大きく移動していた
  • 何かを食べた跡があるが記憶がない

などのことがある場合は、睡眠薬を服用していたり、酔っぱらっていたなどの原因がないときは夢遊病の可能性があります。

夢遊病の診断・検査

一般的な外来の診察では、ご家族からの症状の聞き取りから夢遊病を診断します。診断の基準は、

  • 睡眠中にベッドから起き上がり、動き回る状態がしばしばある
  • 遊行中に声をかけてもほとんど反応せず、表情はうつろで覚醒しない
  • 遊行は睡眠の前半1/3に多くみられる
  • 夢の内容を聞いてもほとんどおぼえていない
  • 覚醒後、本人は遊行のことをおぼえていない
  • 遊行は他の病気や薬物の影響によるものでない

の点をみます。

この内容は国際的な診断基準にもとづくもので、夢遊病の診断では主にアメリカ精神医学会が発刊しているDSM-5という基準を使います。WHO(世界保健機関)のICO-10という診断基準にも同様の基準があります。

聞き取りからの判断が難しいときや、他の病気が疑われるときは、大きな病院での検査が勧められることもあります。

主な検査は、ビデオ撮影をしながらの終夜ポリソムノグラフィ検査です。1泊入院で、夜間に睡眠中の脳波や筋肉の状態をはかる機械を取り付けて眠り、ビデオ撮影もして睡眠中の様子を確認します。

夢遊病の原因

夢遊病は

  • 深いノンレム睡眠から中途半端に覚醒すること

によっておこります。

ノンレム睡眠は、脳が深く眠り体は動くことのできる睡眠です。夢遊病の症状は、このノンレム睡眠時におこり、脳が眠ったままで体が覚醒してしまいます。その発症のメカニズムははっきりと解明されておらず、現在も研究が進められている途中ですが、以下のようなことが可能性としてあげられています。

  • 脳の睡眠覚醒の機能が未熟
  • 遺伝
  • 心身のストレス
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 認知症
  • 薬・物質の影響

などがあげられます。

脳の睡眠-覚醒の機能が未熟

夢遊病は、脳が発達途中の子どもに多くみとめられ、年齢が高くなるにつれ減っていきます。

このことから、脳の睡眠覚醒の機能が発達途中の時期におこるのではないかと考えられています。この場合は一過性で、発達とともに落ち着いていきます。

幼少期は女児に多く認められますが、大人では男性に多いです。

遺伝

発達途中の小児すべてに夢遊病の症状がみられるわけではありません。脳の性質や発達過程には個人差があり、そこには遺伝的な要素も影響すると推定されています。

夢遊病の患者さんのご家族には、夢遊病や夜驚病といったノンレム睡眠の異常による病気が認められることが多いです。

心身のストレス

精神的なストレスが強かったり、疲労していたり、心身のストレスがかかっていると睡眠のコントロール機能に乱れが生じやすくなります。

とくに成人の夢遊病では、ストレスや生活リズムの乱れが引き金になることも多いようです。

寝不足、睡眠のタイミングがバラバラなど生活リズムに乱れがあったり、引っ越しなどで環境が変化したときにもおこりやすいと言われています。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠中、のどや気道がふさがり一時的に呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群は、昼間の眠気や体調不良の原因になりますが、夢遊病を引き起こすケースもあります。

認知症

成人で夢遊病が発症し、その状態が続くときは認知症の初期症状の可能性も指摘されています。

認知症では昼間の認知機能にも何らかの変化がみられるのに対し、夢遊病は睡眠時のみの症状です。

薬・物質の影響

様々な病気の治療で使われるお薬のなかには、夢遊病を引き起こす可能性が報告されているものがあります。

使用中だけでなく、お薬を中止したときの離脱作用でおきることもあります。また、タバコのニコチンなどの離脱作用が影響する場合もあります。

夢遊病の自宅での対応

小児の夢遊病は、ほとんどの場合一過性で、成長とともに遊行はみられなくなっていきます。本人やご家族に特別な支障がなければ無理に治療をする必要はありませんが、

  • 対応が難しく困っている
  • 本人やご家族が苦しんでいる
  • 他の病気ではないかと不安になっている

などのときは、病院へ相談してみましょう。

夢遊病の治療は精神科・心療内科・睡眠外来が基本ですが、小児科で対応している所もあります。他の病気が疑われるときは、そこから大きな病院へ紹介されるのが一般的です。

また、自宅で見守るときには以下のことに注意しましょう。

  • 遊行でケガをしないよう配慮する
  • ご家族は落ち着いて対応する
  • 心身や生活リズムの安定をはかる

夢遊病の症状は、多くの場合、睡眠の前半でおこります。遊行があったときに危険がないように、ベッド周囲をかたづける、床に物を置かない、窓にはしっかりカギを締めるなど、ケガはしないようにしておきましょう。

遊行中に無理やりおこすと意識が混乱し、パニックをおこすことがあります。ご家族の方は落ち着き、ソッと手をそえるようにしてベッドまで誘導してあげると、患者さんもスムーズに戻りやすくなるようです。また、お子さんの夢遊病はほとんどの場合、病的なものではありません。過度な反応をせず、見守ってあげましょう。

症状は、心身に強いストレスがかかったり、睡眠時間がバラバラだったりすると、おこりやすくなります。日常から心身や生活リズムの安定を心がけてあげましょう。

夢遊病の治療

病院での治療も、基本は自宅での環境調整が中心になります。それに加え、精神的な問題が強いと感じられるときは心理療法や、症状がひどいときは一時的に抗不安薬の使用を検討します。

夢遊病は、成長とともに自然と良くなっていきます。ですが精神的な不安やストレスが強いと考えられるときは、カウンセリングや家族療法が有効なことがあります。お子さんでは、自分の内面を言葉にすることは苦手なことが多く、箱庭療法などが行われることがあります。

症状がひどい場合や大人の場合は、お薬を使うことがあります。夢遊病を治すお薬はありませんが、症状の重いときには

  • クロナゼパム(リボトリール・ランドセン)

という抗不安薬などを補助的に使うことがあります。このお薬は抗不安薬・抗てんかん薬として使われるもので、脳の興奮をしずめ、リラックスした状態にします。睡眠前に飲むと深いノンレム睡眠を減らし浅いレム睡眠を増やす特徴もあり、ノンレム睡眠からの覚醒障害の治療に応用されています。

症状が落ち着いてきたら減量し、最後は中止して様子をみるのが基本です。お薬の使用のときも、環境調整や心理的なケアを同時に行っていくことが大切です。

夢遊病と似た病気

  • 夜驚症(睡眠時驚愕症)

夢遊病と同様に、ノンレム睡眠からの覚醒障害でおこります。夜間、急におびえたような悲鳴や叫び声をあげ、ベッド上に起き上がり、ときに逃げ出そうとすることがあります。表情は恐れが見え、心拍の増大、多量の汗などもともないます。夢遊病と夜驚症は合併することもあります。

  • レム睡眠行動障害

夜間、見ている夢に合わせて体が連動してしまう障害です。夢遊病と異なり夢を見るレム睡眠(浅い眠り)のときにおこり、声をかければすぐに目覚め、意識ははっきりとしています。見ていた夢の内容もよく覚えているのが特徴です。患者さんの多くは40~50代以降の男性ですが、まれに小児でも発症します。

  • てんかん

脳に電気信号の乱れが生じ、けいれんや無自覚の動きが発作的にあらわれます。睡眠時にもてんかん発作がおこることがありますが、同じ動きがくり返されるのが特徴で、夜間何度も発作がおきたり、昼寝のときも生じたりします。

  • 認知症

成人で夢遊病のような症状がみられた場合、認知症の疑いもあります。夢遊病の場合は、夜間の遊行以外に認知の異常はありません。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:不眠症(睡眠障害)  投稿日:2023年3月23日

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