抗うつ剤の副作用と安全性の比較
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一口に『抗うつ剤』と言っても副作用は様々
2000年をすぎてから、新しい抗うつ剤が次々と日本でも発売されてきました。
従来の三環系・四環系抗うつ薬と比べると、明らかに副作用は軽減されています。
しかし一方で、新しい抗うつ剤特有の副作用というのもあるのです。
抗うつ剤の種類によって、副作用の出方にはどんな違いがあるのでしょうか?
日本で発売されている抗うつ剤の副作用を比較していきたいと思います。
※抗うつ剤について概要を知りたい方は、『抗うつ剤(抗うつ薬)とは?』をお読みください。
抗うつ剤の副作用の比較
それでは、それぞれの抗うつ剤でどのような副作用が認められるのかまとめてみましょう。
古くからある三環系抗うつ薬は様々な物質に影響するため、副作用が全体的に多いです。
便秘・口渇・ふらつき・眠気・体重増加などの副作用が目立ちます。
それに対して新しい抗うつ剤は、作用がしぼられているので副作用は少ない傾向にあります。
セロトニンを刺激しすぎることでの副作用が目立ち、性機能障害・吐き気・下痢・不眠が目立ちます。
離脱症状としては、新しい抗うつ剤の方が多いです。
新しい抗うつ剤は慣れると副作用が少ないのですが、やめるときには慎重に減量していく必要があります。
三環系・四環系抗うつ剤
環系抗うつ剤(トリプタノール、トフラニール、アナフラニール、アモキサン)はもっとも歴史があって効果は高いですが、色々な受容体に作用するため、副作用も出やすいのが難点です。
- 便秘
- 口渇
- ふらつき
- 眠気
- 体重増加
などの副作用は、新しい抗うつ剤と比較すると多い傾向にあります。
四環系抗うつ剤(テトラミド、ルジオミール)は、三環系抗うつ剤の副作用をマイルドにしたものですが、その分効果が不十分で、抗うつ剤としてはあまり使われていません。
眠気の副作用が強いものが多いため、睡眠薬代わりに使われたりすることがあります。
SSRI・SNRI
SSRI(パキシル、ルボックス/デプロメール、レクサプロ、ジェイゾロフト)やSNRI(サインバルタ、イフェクサー、トレドミン)などの新しい抗うつ剤は、作用がしぼられているので全体的に副作用は少ないです。
ただ、特定の物質だけを増やすために、特有の副作用やデメリットもみられます。
SSRIはセロトニンを、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンを増やすお薬ですが、どちらもセロトニンが過剰に増加してしまい、その影響による副作用がおこりやすくなってしまいます。
多い副作用としては、
- 性機能障害
- 吐き気
- 下痢
- 不眠
がよくみられます。
また、デメリットとしては、
- 離脱症状(お薬を抜くときに出てくる一時的な体のふるえや不眠など)が出やすい
ことがあります。これは、昔の抗うつ剤よりも明らかに多くみられます。
NaSSA
新しい抗うつ剤のなかでも、NaSSA(リフレックス/レメロン)は独特なお薬です。四環系抗うつ剤のテトラミドを改良したものですが、副作用として
- 眠気
- 食欲上昇
が強くみられます。
しかし合えば効果は強く、新しい抗うつ剤で比較すると、一番しっかりと効果が期待できるお薬です。
トリンテリックス
トリンテリックスは、SSRIのような再取り込み阻害作用だけでなく、様々なセロトニン受容体の調節作用があるお薬です。
このお薬の最大の特徴は副作用の少なさで、
- 吐き気
が目立ちますが、その他の副作用は抑えられているお薬になります。
抗うつ剤のよくある副作用ごとの比較
抗うつ剤の代表的な副作用について、お薬ごとに比較しながら見ていきたいと思います。
便秘や口渇
便秘や口渇は、抗コリン系の副作用です。
抗コリン作用が働くと消化活動が抑えられ、唾液の分泌は低下し、腸の動きも悪くなってしまいます。
この副作用が強くみられるのは、
- 昔からある三環系抗うつ剤
です。その中でアモキサンは、比較的起こしにくいお薬になります。
新しい抗うつ剤では、抗コリン作用がみられる
- パキシル
でやや多いでしょうか。
- ルボックス/デプロメール
でもみられることがあります。
SSRIやSNRIでは、むしろ下痢気味になることが多いです。
ふらつき
- 三環系・四環系抗うつ剤
- NaSSAでは眠気からふらつき
抗うつ剤はアドレナリンの作用を一部抑える働きがあり、その影響で立ちくらみやふらつきがよくみられます。
これには血管の調整が関係しています。
アドレナリンがα1受容体に作用すると、血管が収縮します。その結果として血圧を上げ、血のめぐりをよくします。
抗うつ剤にはこの作用をブロックする抗α1作用があります。
結果として血圧が十分にあがらず、頭に血がまわらなくなり、立ちくらみやふらつきの副作用が現れてきます。
眠気
眠気に関しては、複数の要素が関係するので複雑です。大きくは、
- 抗ヒスタミン作用
- 抗α1作用
- セロトニン5HT2受容体阻害作用
この3つの働きが関係しています。これらのバランスで眠気が決まります。
眠気が強い抗うつ剤は『鎮静系抗うつ剤』と呼ばれます。
- NaSSA(リフレックス/レメロン)
- 四環系抗うつ薬
- デジレル/レスリン
などが分類されます。この次に位置づけられるのが三環系抗うつ薬です。
SSRIは三環系抗うつ剤より眠気が少ないですが、パキシル・ルボックス/デプロメールがやや多い印象です。
SNRIは覚醒作用のあるノルアドレナリンを増やすため、比較的に眠気が少ないです。
しかし、本来はあまり眠気が強くならないはずのお薬なのに、眠気の副作用がみられるときもあります。
この場合、夜の睡眠が浅くなっていることが原因の可能性があります。
そんなときには、睡眠を深くするような抗うつ剤を追加すると、かえって眠気が改善することもあります。
※抗うつ剤と眠気について詳しくは、『抗うつ剤の眠気と7つの対策』をお読みください。
体重増加
- 三環系・四環系抗うつ剤・NaSSA
でよくみられます。体重増加には、
- 抗ヒスタミン作用による食欲増加
- セロトニンによる代謝抑制作用
の2つが関係しています。
ヒスタミンは脳の視床下部という部分にある満腹中枢を刺激する物質で、ヒスタミンには食欲を抑える働きがあります。
これをブロックする作用が強いお薬は食欲を増加させます。
また、ヒスタミンがブロックされると、グレリンというホルモン増加をひきおこします。
これが摂食中枢を刺激し、食欲を増進させるとも言われています。
セロトニンは精神を安定させ、リラックス状態をつくる物質です。すると、身体はエネルギー消費が抑えられるようになります。
- 三環系抗うつ剤
は、抗ヒスタミン作用もセロトニン作用も強いものが多く、太りやすい薬が多いです。
- NaSSAのリフレックス/レメロン
も抗ヒスタミン作用が強いので太りやすいです。
- SSRIでは、パキシルが太りやすい傾向
にあります。パキシルは発作的に過食になる方がみられます。
反対にSNRIは、ノルアドレナリンが増えて活動的にする効果もあるので太りにくいお薬です。
※詳しくは、『抗うつ剤は太るの?体重増加と5つの対策』をお読みください。
吐き気・下痢
- SSRI(とくにルボックス/デプロメール)やSNRI
でよくみられます。抗うつ剤、とくにSSRIやSNRIは脳内のセロトニンに絞って作用します。
吐き気や下痢の副作用にはセロトニンが大きく関係しています。
セロトニンの受容体は脳には10%もありません。
90%以上は胃腸に存在し、胃腸の働きの調節をしています。
セロトニンが分泌されるのは、胃腸が中身を出したいときです。
ですから、吐き気や下痢といった形で、中身を外に出そうとする働きがおこるのです。
胃腸にはセロトニン5HT₃受容体が分布しています。これが刺激されると迷走神経という神経も刺激されます。
迷走神経への刺激は、脳の延髄にある嘔吐中枢を刺激してしまいます。
同時に、このセロトニン5HT₃受容体は腸の動きを活性化する働きがあります。
このため、セロトニンが増えると腸の動きが活発となり下痢が生じやすくなるのです。
しかしながら、徐々に体が慣れてくると治まってくる方がほとんどで、副作用が辛い時期には一時的に胃腸薬を処方することもあります。
抗うつ剤のなかでもNaSSAのリフレックス/レメロンには、吐き気や下痢はほとんど認められません。
これはセロトニン5HT2・3受容体をブロックする作用があるためです。
三環系抗うつ剤も、SSRIやSNRIに比較すると少ないです。
※詳しくは、『抗うつ剤の吐き気・下痢と5つの対策』をお読みください。
性機能障害
- SSRIでよくみられる副作用です。他の抗うつ剤でも全般的に認められます。
性機能障害は、抗うつ薬全般でよくみられます。性欲自体が低下する形になることが多いです。
なかでも、
- SSRIのパキシルとジェイゾロフト
はおよそ70~80%の方に副作用としてあらわれると言われています。
SSRIの中ではルボックス/デプロメールが少ないとされていますが、30%程度の方に認められます。
新しい抗うつ薬のうちリフレックス/レメロンは、性機能障害が少ないといわれていますが、20%程度で認められます。
- SNRIのサインバルタ
はその中間で40%程度の方に認められます。
- 三環系抗うつ剤や四環系抗うつ剤
にも比較的よくみられる副作用です。
抗うつ剤による性機能障害にはセロトニンが関係しています。セロトニンは、気分を落ち着かせリラックスさせる薬になります。
このため、性欲も必然的におちてしまいます。
さらに、抗α1(アドレナリン)作用は性機能にも影響があります。勃起には血管の調整をになうα1作用が必要になります。
これがブロックされますので、勃起不全や射精障害になることがあります。
※抗うつ剤と性機能障害について詳しくは、『抗うつ剤の性欲低下・性機能障害と5つの対策』をお読みください。
不眠
- SSRIやSNRIでよく認められる副作用です。
不眠になる原因としては、セロトニンとノルアドレナリンが関係しています。
セロトニン5HT₂受容体が刺激されると深い睡眠が妨げられ、睡眠が浅くなります。
また、ノルアドレナリンは交感神経に働く物質ですので、覚醒作用があります。
SSRIやSNRIといった新しいお薬は、セロトニンやノルアドレナリンだけに作用するようにできています。
ですから、不眠の副作用が出やすいのです。
古い三環系抗うつ剤はいろいろな受容体に作用するために、抗ヒスタミン作用や抗α1作用などによって眠気が強くなり、SSRIやSNRIと比べると不眠の副作用は少なくなります。
また、鎮静系抗うつ剤と呼ばれる
- テトラミド
- リフレックス/レメロン
- デジレン/レスリン
では、セロトニン5HT₂受容体をブロックする作用があります。
このため、睡眠が深くなり不眠となることは基本的にありません。
抗うつ剤の安全性の比較
「安全性」という表現も基準が難しいのですが、論文などでの安全性の評価は、
- 「副作用が原因で薬をやめないで済むこと」
とされています。
新しい12種類の抗うつ剤で効果と副作用を比較した『MANGA study』という論文がありますので、参考までにご紹介します。2009年にランセットという超有名専門誌に発表されたものです。
安全性
- レクサプロ
- ジェイゾロフト
- ブプロピオン
- シタロプラム
- フルオキセチン
有効性:
- リフレックス/レメロン
- サインバルタ
- ベンラファキシン
- ジェイゾロフト
- シタロプラム
有効性の評価は、薬の「反応」でみています。
「寛解=元の状態に改善」での評価ではないので注意が必要です。
金額なども含めて総合的に考えると、この研究では
- 総合1位:ジェイゾロフト
- 総合2位:レクサプロ
となっています。この結果を鵜呑みにしてはいけませんが、ジェイゾロフトやレクサプロが有効性と安全性のバランスがよいことは間違いがありません。
まとめ
抗うつ剤の副作用としてよくあるのは、
- 便秘
- 口渇
- ふらつき
- 眠気
- 体重増加
- 吐気
- 下痢
- 性機能障害
- 不眠
などです。
多くの副作用は身体が慣れると軽減するため、可能な範囲なら、まずは様子をみてください。
生活上での支障や苦痛が大きくなるときには対策や変更を考えますので、主治医と相談をしましょう。
※抗うつ剤のメカニズムや対策を知りたい方は、『抗うつ剤によくある副作用と対策とは?』をお読みください。
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診察をご希望の方は、受診される前のお願いをお読みください。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:抗うつ剤(抗うつ薬) 投稿日:2023年3月24日
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