妊婦さんの便秘・下痢対策と使える薬とは?

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妊娠中のお通じの悩み

女性は便秘の方が多いですが、妊娠中はさらに便秘になる方が多いです。それだけでなく、胃腸炎などにかかって下痢になってしまう方もいます。

妊娠中ではお薬を使うのがどうしても怖くなってしまうかと思います。かといって、つらいままに症状をほっておくのも母体に負担がかかってしまいます。お通じの悩みには、どのように対策していけばよいでしょうか?

ここでは、妊婦さんのできる便秘や下痢対策と、妊娠中にも使えるお薬について、お伝えしていきたいと思います。

妊婦さんはどうして便秘になりやすいの?

女性は元々便秘がちの方が多いかと思います。どうしても男性よりも筋肉量が劣ってしまうので、腸の動きが鈍くなってしまいます。また、女性ホルモンや骨盤の形なども影響しているといわれています。

妊娠をすると、プロゲステロン(黄体ホルモン)と呼ばれる妊娠ホルモンが分泌されます。このホルモンは、子宮の筋肉の収縮を抑える作用がありますが、同時に腸の筋肉の収縮運動も抑えてしまいます。

このため、腸の動きが悪くなってしまい、便秘になってお腹にガスがたまりやすくなってしまいます。また、このホルモンは水を身体に溜め込んでしまうので、便が硬くなってしまって便秘が助長されます。

妊娠がすすんでくるとホルモンは安定してきます。ですが、お腹が次第に大きくなるにつれて、子宮の後ろにある腸を圧迫するようになってきます。なかなか便が出にくくなってしまい、その間に便の水分が腸に吸収されてしまってカチコチになってしまいます。このため、ますます便秘がひどくなってしまいます。

また、子宮によって肛門周辺の血流が悪くなってしまい、滞ってしまいます。その結果として「いぼ痔」になりやすくなります。お通じが硬くなってしまって、「きれ痔」になってしまう方もいます。痛みがあると、ますます便秘がちになってしまいます。

まずは生活習慣から

薬を使う前に、まずは便秘をよくする生活習慣を意識していきます。正しい排泄習慣・食事習慣・運動習慣にしていくことが大切です。妊娠中は薬をできるだけ使いたくないこともありますが、生活習慣を意識すると少ないお薬で効果が出てきます。

正しい排便習慣

朝5分程度でいいので、トイレに座る習慣にしてみてください。便意がなくても、お通じが出なくてもよいのです。身体に排便のリズムをつくってあげるのが重要なのです。

朝の5分は貴重ですので、今日の献立を考える時間にするでも、何かしながらでも大丈夫です。余裕があれば、腸が動いているイメージをしたり、おなかのマッサージをしてあげてください。習慣にすることで腸のリズムが出てくるのです。

腸は習慣づけて訓練すれば動いてくれるのです。「朝になったらトイレ」というリズムを身体につけましょう。

そして、便意を感じたらすぐにトイレにいく習慣にしてください。トイレにいきたい→排便という反応をしっかりとつけることで、神経の働きがスムーズになります。

ガマンしてしまうことを続けていると、排便のスイッチが入りにくくなってしまいます。直腸に便がたまりやすくなってしまい、水分が腸に吸収されて便が硬くなってしまいます。するとますます便が出にくくなるという悪循環がおこってしまいます。

便秘によい食事習慣・飲水習慣

食べたものが便になっていきますので、食事や飲水習慣も影響があります。手っ取り早いのは「水」です。水をしっかりと飲みましょう。

水分が足りないと便が固くなってしまい、スムーズに腸の中を通れなくなってしまいます。朝起きたらコップ1杯の水、できれば牛乳を飲んでください。刺激になって腸の動きが活発になります。

朝ごはんもとても重要です。胃の中にある程度の食べ物が入ると、神経の反射で腸が動くようになります。ですから、食後に排便習慣を組み合わせるとより効果的です。「朝食後にトイレに5分」をぜひ実践してみてください。

また、食物繊維は便秘によいと言われていますね。実は、食物繊維には2種類あるのをご存知でしたか?

便が固い人は、コンニャクやドライフルーツ、海藻やオクラなどネバネバ・ぬるぬるしたものを多めに取ってください。これらには水溶性食物繊維が多く含まれています。

水に溶けて粘度が高いので、水分を抱き込んでゼリー状になる性質があります。そのため便がやわらかくなり、腸の中をゆるやかに移動してくれます。

便の硬さが普通の方は、豆類や根菜類などのスジっぽいものを多めにとってください。これらには不溶性食物繊維が多く含まれています。

吸収されずにそのままの形で腸内までたどり着くと、少しずつ分解されていきます。その過程で腸内細菌をまきこみ、さらに水を吸って膨張します。これが腸の内側から刺激となるので、腸の蠕動運動が活発になります。

ただし過敏性症候群の便秘の方には、刺激が強くなってしまうことがあるので注意してください。

運動習慣

適度に運動をすることは、妊婦さんにとってよいといわれています。ウォーキングやスイミングなどを妊娠中に行うことは定着してきていますね。

太り過ぎるのを予防して安産にもつながりますし、リラックスできるようにもなります。眠りも深くなり、腰痛や手足のむくみなども改善します。

そして運動をすると腸にも刺激になって動くようになるので、便秘解消につながります。運動による早産は、恐れ過ぎなくてもよいともいわれています。

とはいっても、お腹にハリがでてきたら絶対に安静です。運動するにあたっては主治医の先生に確認していただいて、無理なく妊婦さんに適した運動をしましょう。

妊婦さんに適しているのは有酸素運動です。ウォーキングやサイクリング、エアロビクス、水泳などの運動です。酸素を十分にとりながら運動をすることで、エネルギーに変えていきます。

20分くらいすると効率が上がっていき、身体がポカポカしてくると思います。ですから、30分以上を目指して運動していきましょう。

週2~3回で30分~60分の運動が勧められています。「きつい」と感じたら頑張り過ぎです。「ちょっときついかも」程度にしておきましょう。

運動と身構えなくても、身の回りのちょっとしたことで身体を使うようにするだけでも変わります。例えば、普段エスカレーターを使っていたところを階段にするなどを行ってみていただければと思います。

妊婦さんが使える便秘・下痢の薬

便秘薬には大きく2種類あります。便を柔らかくする軟下剤と、腸を動かす緩下剤です。

妊婦さんには、軟下剤から使っていきます。マグミット・マグラックス・カマといったマグネシウムを成分としたお薬を使います。マグネシウムは腸からの吸収がされにくく、腸管に残って水を体内からひっぱってきます。このため、便に水分が多くなり柔らかくなるので、腸の中をスムーズに移動しやすくなります。

身体にも吸収はされますが、少量ですし安全性に問題ないと考えられています。腎臓が悪い方ですと、マグネシウムが身体にたまってしまう可能性はあります。マグネシウムは、筋肉の収縮を抑える作用があるので子宮の収縮が抑えられますが、飲み薬ではあまり影響はないと考えられています。

これでも効果がない場合は、緩下剤を使います。ですが、腸の動きをよくする薬は子宮の筋肉も刺激してしまうことが多いので、注意が必要です。これらの薬としては、ラキソベロン・シンラックといった液剤が妊婦さんには優しいと考えられています。効果がマイルドで、腸の動きをよくするだけでなくて便を柔らかくする効果もあります。

センノサイド・センノシド・プルゼニド・ビーマス・アローゼンなどの腸を動かす作用の強いものは、注意が必要です。赤ちゃんに影響は報告されていませんが、子宮収縮作用があって、流産や早産のリスクがあるのです。絶対に使えない薬というわけではないのですが、医師と相談しながら使っていきましょう。

下痢止めとしては、大きく問題はありません。症状によって考えますが、胃腸炎のような時は下痢を止めてはいけません。悪いものはしっかりと出さなければいけません。

水分をしっかりととって、下痢はつらいですが辛抱して出し切りましょう。薬を使う場合は、ロペミンでは奇形などの報告がなく、比較的安全だと考えられています。

妊娠中に坐薬や浣腸を使えるの?

妊娠がすすんでくると、どんどんお腹が大きくなっていきます。直腸が子宮の真後ろにありますので、物理的に圧迫するようになります。このようにして起きる便秘ですと、いくら便を柔らかくしたり、腸の動きを良くしても効果がでてこないことがあります。

このような時は、直腸につまっている硬いお通じをスッキリさせなければいけません。浣腸もできなくはありませんが刺激が強すぎるので、坐薬を使っていきます。

坐薬の中でも、レシカルボン坐薬が安全といわれています。この坐薬は、腸内で炭酸ガスを発生させることで、直腸粘膜に刺激を与えます。とても自然に近い刺激ですので、安全性も高いです。

テレミンソフト・ビサコジルは、同じ坐薬でも直腸に働いて動きをよくする働きがあります。このため、緩下剤と同じように子宮収縮のリスクがでてきてしまうので避けた方がよいです。

痔の薬を使う場合は、軟膏や坐薬はその部分にだけ働くようにできています。このため、胎児への影響は少ないと考えられています。もちろん使わないに越したことはないですが、ほっておくと便秘も重なって悪循環になってしまうので、しっかりと治しましょう。

妊娠中に便秘の市販薬は使えるの?

便秘薬はいろいろなものが市販されているかと思います。便秘薬の成分をよく見るようにしてください。まずは、マグネシウムを主成分としたものを選ぶようにしましょう。

市販の便秘薬には、漢方の大黄やセンナを使ったものが多いです。漢方=安全というわけではありませんので注意が必要です。漢方薬でも大黄やセンナを使ったものは、子宮を収縮してしまう作用があるので流早産のリスクが高くなってしまいます。しっかりと成分をみて、市販薬を使ってください。これらの成分も適正に使えば問題ないですが、産婦人科の先生にしっかりと相談してからにしてください。

また、健康食品やデザートとして広まっているアロエにも注意が必要です。アロエは、その成分が胎盤を通過して胎児の腸管を刺激してしまい、羊水中への胎便の排出を促すことがあります。産まれた時に胎便を吸いこんでしまい、新生児が息をつまらせてしまう胎便吸引症候群がおこることがあります。

またアロエは、成分としてはセンナよりも強力に緩下作用をもつともいわれています。子宮収縮作用がありますので、流早産のリスクにもつながります。知らずにアロエをとってしまっても過度に心配する必要はありませんが、できるだけアロエはとらないようにしましょう。

妊娠中に漢方薬は使えるの?

便秘に効果がある漢方薬はたくさんあります。便秘の時によく使うのは、大黄甘草湯などの「大黄」を主成分とするような漢方薬ですが、子宮収縮作用があるので避けた方が無難です。奇形の報告などはありませんが、できるだけ妊娠初期は、漢方も使わないようにします。

妊娠中期以降は、桂枝加芍薬湯、小建中湯などを使う場合があります。当帰・芍薬・麻子仁・山梔子などの生薬成分は、便に水分をひっぱってきて柔らかくしてくれます。

便が硬くて頑固な便秘の時は、大黄が含まれていますが潤腸湯や麻子仁丸などを短期的に使うこともあります。防風通聖散も便秘に使われることも多く、市販もされているので手に取りやすい漢方薬です。ですが、大黄による子宮収縮作用や麻黄の胎児への交感神経刺激作用も多少あるので、避けた方がよいです。

まとめ

元々女性は便秘になりやすいことに加え、妊娠ホルモンや子宮による腸の圧迫、痔が原因で便秘になりやすいです。

まずは生活習慣から取り組みましょう。

  1. 正しい排便習慣
  2. 便秘によい食事習慣・飲水習慣
  3. 運動習慣

薬としては、マグネシウムをつかった軟下剤から使って、効果がなければラキソベロンなどの緩下剤を使います。

レシカルボン坐薬は使うことができます。市販薬は成分をみて、マグネシウムを主成分としたものを選びましょう。漢方薬は意外と妊娠中に適さないものがありますので注意が必要です。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:妊娠・授乳について  投稿日:2020年8月22日

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