【専門家が解説】MMSE(認知症スクリーニング検査)

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MMSE-J(認知症スクリーニング検査)とは?

MMSE-Jとは、Mini Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)の略したものです。Jとは日本語版を意味する、JapaneseのJになります。日本語版ミニメンタルステート検査といえます。

MMSEは、米国のFolstein夫妻が1975年に認知症の疑いのある人のために開発した知能検査です。

世界で最も広く流布している認知症の検査でしたが、2006年に杉下守弘先生によって日本語版が作成されました。

長谷川式認知症スケールと並んで、現在日本でも広く活用されている認知症のスクリーニング検査です。

MMSEの目的

MMSE-Jは、認知症のスクリーニングを目的として作成された検査です。認知症の中でもアルツハイマー型認知症の疑いがある場合によく活用されますが、他の認知症のスクリーニングでも優れているので認知症が疑われるときに広く使われます。

人の顔がなかなか覚えられない、物忘れをしてしまうのは、年を重ねればだれでも起こりえます。しかし、一般的な高齢者の認知機能を大きく下回ってしまう場合に、認知症が疑われます。

MMSE-Jでは、認知症になると低下すると言われている記憶力、計算力、言語力、見当識(現在の日時や、自分がどこにいるかなどの状況把握力)の程度を、11問の質問形式で解いてもらいます。それらの能力を点数化することにより、認知機能を評価することができます。

MMSE-Jはあくまでスクリーニング検査であり、実際の認知症の診断はMRIやCTなどの脳検査、本人からの生活状況の聞き取り、家族や本人の現在の状況を良く知っている人から話を聞いたりなどをして診断します。

MMSEの料金

MMSEはこれまで、保険請求ができない検査のひとつでした。しかし2018年度の診療報酬の改定により、現在では保険診療できる検査の一つに認定されました。

これまでは診察の中に含まれているという判断でしたが、MMSEを行うには一定の時間がかかってしまいます。これからも増加が予想される認知症の診断をしっかりと行うために、しっかりと診療報酬として評価されるようになりました。このため医療機関としても、検査が行いやすくなりました。

認知機能検査などの心理検査では、検査の複雑さによって診療報酬が異なります。MMSEはそこまでは労力を必要としないため、簡易検査となります。このため、80点になります。

80点は800円になり、3割負担の場合窓口で支払うのは240円となります。高齢者の場合は1~2割の負担が多いので、80円か160円になると思われます。

MMSEの検査をする際の注意点

MMSE-Jは、認知症のスクリーニングを目的として実施します。ただし認知機能が低下しているからといって、必ず認知症とは限りません。

高齢者で認知機能が低下している場合、認知症を疑う必要がありますが、例えばうつ病を患っている場合も認知機能の低下が起きることがあります。

また認知症の疑いがあるといっても、本人は自覚していなかったり、本人も今までとは違うことを感じていて、恥ずかしいと思っている場合などがあります。

MMSE-Jを実施するには、検査を受ける本人の協力が必要になります。本人が認知症を疑われていることをどのように受け止めているかよく考え、本人が協力的な気持ちになれるような言葉かけや態度で接し、検査を受けるようにすることが大切です。

認知症の発見が早く行われれば治療の開始が早まったり、生活上での注意などを家族に行うことが出来るなどよい点がたくさんあります。

しかし認知症によっては、検査の点数はあまり問題がないにも関わらず、生活の上で問題が出ている場合もあります。あくまでもスクリーニングの一つととらえ、生活上困っていることが多い場合は医療機関などで脳検査や診察を受け診断を受ける必要があります。

MMSEの検査・採点方法

MMSEは、11の質問で構成された検査になります。質問形式の検査になりますが、2問だけ文章や図形を本人が記入する必要があります。

質問やカットオフの点数など、男女の差はなく検査できます。だいたい10分位で終わります。

MMSE-Jは、比較的に簡単に検査ができます。もし認知症の疑いがある場合は、家族やその人を良く知る人がMMSE-Jの検査をすることは出来ます。

簡便に実施できるMMSE-Jですが、行う場合は必ず守ってもらわなくてはいけない点があります。

  • 質問内容を勝手にアレンジしない
  • 相手の体調がいい時に行う
  • テストや検査という言葉を用いて、相手の不安を煽らない
  • 正答に辿り着いてしまうヒントは与えない
  • 10秒以上待っても答えが出なかった場合は0点とし、次の設問に進む

以上の点を踏まえて実施してください。

検査の前に用意するもの

MMSEを行っていくにあたっては、以下の4つをご用意ください。

  • MMSEの評価用紙
  • 筆記用具(鉛筆と消しゴム)
  • 時計または鍵
  • 白紙のプリント(質問紙の裏でもOKです)

MMSE

検査内容については著作権の問題もあるため、開示はできません。

医療機関などで実施していただく必要があります。

各設問の補足

  • チェック設問1【日時等に関する見当識】

年については、西暦・年号どちらでも正答とします。また、季節に関しては春夏秋冬のほか、季節の変わり目にあたる「梅雨」「初夏(冬)」等も正答にします。

  • チェック設問2【場所に関する見当識】

自発的に答えることができたら正解。病院(診療所)の正確な名前の代わりに、通称や略称で答えた場合も正解にします。正解した際は各問いに一点ずつになります。

  • チェック設問3【3つの言葉の記銘】

「これから言う3つの言葉を言ってみて下さい」と伝え、「桜・猫・電車」の3つの単語を1秒間隔で1つずつ言った後、相手に繰り返して言ってもらいます(正答1つにつき1点/合計3点満点)。

最後に、「また後で聞きますのでよく覚えておいて下さい」と念を押し、3つの単語が答えられるようになるまで繰り返してください(ただし、6回繰り返しても覚えられない場合はそこで打ち切ります)。

  • チェック設問4【計算問題】

「100から7を引いた数を言ってください」と聞きます、「93」と答えられたら「それからまた7を引くといくつですか?」と問います(5回繰り返す【93→86→79→72→65】)。

正答に対して各1点(5点満点)ずつ点数がつきます。計算に失敗したり答えが全くでてこないような場合は打ち切り、次の設問に進めてください。

なお、最初の引き算を終え引き続いて質問をする際、「93から7を引くといくつですか?」というように、〝93〟というヒントになるような数字は言わないように気を付けてください。

  • チェック設問5【3つの言葉の遅延再生】

「先ほど(設問3)覚えてもらった3つの言葉をもう一度言ってみて下さい」と問います(正答1つにつき1点/3点満点)。

なお、答える順番は問いません。この設問に関して答えが出てこない場合は、被験者に対しそれぞれ別々にヒント(例:ひとつは(植物 or 動物 or 乗り物)でしたね)を出してみてください。

しかしすべてを出したり単語を言ってしまわないように気を付けましょう。

  • チェック設問6【物品呼称】

被験者に時計を見せながら「これは何ですか?」と聞き、正しい答えならば1点。次に鉛筆についても同じように質問をし、正しく答えられたら1点になります。

  • チェック設問7【復唱】

「今から私が言う文章を繰り返して下さい」と指示します。検査者は口頭でゆっくりと、「みんなで力を合わせて綱を引きます」と言ってください。1回のみで正答したら1点になります。

  • チェック設問8【口頭による3段階命令】

「今から私の言うとおりにしてください。ただし、私が言い終わってから始めて下さい」と指示を出します。

口頭でゆっくりと「右手(右手が麻痺している場合は左手と言い換えて構いません)にこの紙を持って下さい。次に、それを半分に折りたたんで下さい、そして私に下さい」と伝えてください。

検査を受けている際に混乱したり、紙を折ることができなければ、そこで打ち切ります。各段階ごとに正しい作業が行えた場合に1点、すべて出来れば3点になります。

  • チェック設問9【書字理解・指示】

「この文を読んで、その指示どおりに従ってください」と伝えてください。右手が麻痺している場合は、左手と言い換えて構いません。指示通りの手を挙げることができたら、1点がつきます。

  • チェック設問10【自発書字】

「ここに何か文章を書いてください」と教示し、鉛筆と紙を渡します。その際、ヒントとなるような例文を伝えたりはしてはいけません。文章はどんなものでも構いませんが、意味(主語がなくても全体的に文章として意味が通れば正答)のない文章(単なる単語(名前)の羅列)は誤答になります。

  • チェック設問11【図形描写】

「ここに書かれている図形と同じものを書いてください」と指示し、鉛筆と紙を渡します。

交差する2つの5角形の図形が模写(手指のふるえは無視)できれば正答とします。2つの図形が交差していなかったり、5角形の図形が描けない場合は誤答になります。

MMSEの評価とカットオフ

検査の結果からみた点数は、

  • 27~30点:正常
  • 22~26点:軽度認知症の疑いもある
  • 21点以下:どちらかというと認知症の疑いが強い

になります。

健常者で21点以下をとることはあまりありません。

検査のあとのフォローを忘れずに

検査を行った後のアフターケアはとても重要です。

周りからするとそんなに気にしてないようにみえても、実際には最近物忘れが激しいことや以前と違っているのではないかと、本人自身がとても気にしている場合もあります。

検査が終わった後は、「疲れていませんか?」などの声掛けや、検査の感想から話題を広げたり、「年を取れば、誰でも物忘れはしてしまいますよ」など、本人が安心できる状況作りを心がけることも大切です。

MMSEの設問の意味

認知症を患っていると、見当識や記憶力、理解力などの認知機能が衰えてきます。

MMSEでは、認知症の症状として衰えが顕著になる分野を11問に分けて評価していきます。

  • チェック設問1【日時等に関する見当識】

見当識の中で、日時を問う質問です。

  • チェック設問2【場所に関する見当識】

見当識の中の場所を問う設問です。自分のいる病院(診療所)の名前が言え、所在地についてある程度言えるならば、場所に対する見当識の認知は正常と言えます。

  • チェック設問3【3つの言葉の記銘】

記憶には、記銘ー保持ー想起の3つの段階がありますが、短時間での記銘力について評価する設問になります。

  • チェック設問4【計算問題】

記憶力と脳内に記憶された情報に対する作動力を問う設問です。

同時に入ってきた情報を脳が正確に取り込み、どのように処理するのかを判断するのに重要です。「さらに7を引くと・・・」という形で質問することで、ワーキングメモリー(作動記憶)の評価につながります。

  • チェック設問5【3つの言葉の遅延再生】

記銘したことをしばらく保持し、それを即時に記憶を呼び起こせるか、想起できるかを評価する設問です。認知症では、遅延再生から苦手となっていくことが多いです。

  • チェック設問6【物品呼称】

目にしたものを記憶し正しい名称で言えるかを確かめることで、即時記憶と記憶の想起の程度を問う設問です。

  • チェック設問7【復唱】

相手の言っていることを間違えずに記憶できるかをみます。ある程度の長文を記憶する即時記憶について問う設問です。

  • チェック設問8【口頭による3段階命令】

一度に3つの指示を理解できるかを問う設問です。認知機能が低下していると、大変難しい設問になります。

  • チェック設問9【書字理解・指示】

文章を理解し、指示されていることを実行するという理解力と行動力を確認する設問です。

  • チェック設問10【自発書字】

文章の構成能力を解く設問です。認知症が進むと、読み手が理解できる文章を書くのが困難になるケースが多いです。

  • チェック設問11【図形描写】

空間認知能力を問う設問です。この設問により、構成失行の有無がわかります。高度のアルツハイマーやレビー小脳体型の認知症に罹患すると、この設問を解くのが難しくなります。

MMSEでわかること

MMSE-Jは、認知症のスクリーニングを目的とした検査になります。

11問の設問で認知機能の低下が表れているとき顕著になる

  • 時間の見当識
  • 場所の見当識
  • 即時想起
  • 注意と計算能力
  • 遅延再生(短期記憶)
  • 言語的能力
  • 図形的能力(空間認知)

の検査ができるため、あまり負担がなく認知症の程度を知ることが出来ます。

しかしMMSE-Jは、あくまでもスクリーニングテストです。点数が低い理由が精神症状である場合もありますし、点数が正常範囲だとしても日常生活においてかなり問題がある場合もあります。

不安な場合は専門家に相談し、MRIやCTの検査、そのほかの認知機能心理検査、生活歴や現在の状況などから診断してもらう必要があります。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:心理検査  投稿日:2019年5月14日

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