認知症の方と接する時の心がまえ・話し方・NG行為について

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認知症になるとコミュニケーションがとりにくくなります。
相手をする介護者は困ってしまい、ついつい頭ごなしに責めたり、否定したりしてしまいがちです。
そしてなおさらコミュニケーションがとれなくなるかもしれません。
それではどのように対応するのが正しいのでしょうか?
本記事では、認知症の方と接する時の心がまえやコツを解説します。
認知症の方を介護する際に役立ててみてください。

1.認知症の方と接するときの心がまえ

認知症の方と接する時には、話し方やコツを学ぶ前に、接する時の心がまえを知ることが必要です。

1-1.「認知症の本人には自覚がない」は大きな間違い

認知症になると自分のことは分からないから、本人は苦しむことはないというとらえ方がありますが、これは大きな間違いです。
認知症の症状に最初に気づくのは本人です。
言われても思い出せないといった記憶障害が生じると、本人は何かが起こっていると不安にかられます。
本人が一番不安で苦しむのは間違いありません。

1-2.「私は忘れていない!」には悲しみが隠されている

認知症の方は「自分は認知症ではない」と否定します。
病院に行こうと進められても拒否することが多いようです。
家族は対応に困り果て、ケンカすることがあるかもしれません。
しかし認知症の方の否定は、自分の心を守るために自衛反応です。
否定の裏には深い悲しみが隠されていることを知ってください。

1-3.周囲の人の援助が必要

足の不自由な人はつえを使います。
しかし認知症の方は自分を補う道具がありません
メモを作ったとしても、メモの存在を忘れてしまいます。
ですから周囲の人が、認知症を理解し、援助することが必要です。

1-4.介護者だけに任せない

認知症の方の介護者を決めたら、その人任せにするケースがみられます。
しかし介護者の苦労は並大抵のことではありません
一人だけに任せるのではなく、複数の人で協力して対応しましょう。
また公の場では、周囲の人も援助の手を差し伸べてください。

2.認知症の人と接する際の話し方

心がまえの次には正しい話し方を知りましょう。

2-1.ゆっくりと大きな声で話す

多くの高齢者の方は難聴がみられます。
聞こえづらくなって、なおさら理解ができず、コミュニケーションが困難になります。
聞こえやすいように、ゆっくりと大きな声で語りかけてください。
多くは聴力の左右差がみられますので、聞こえやすいほうから話しかけましょう。

2-2.短く・分かりやすい言葉で話す

認知症の方は聞こえにくいばかりでなく、言葉を理解しにくくなります。
長文は理解しにくいため、短文で分かりやすい言葉を使って話しましょう。
返答が難しい場合は、「はい」「いいえ」などで答えられる質問をしてください。

2-3.目を見て話す

認知症の方は自分が話しかけられていることを認識しづらいかもしれません。
意識を集中させるために、名前を呼び、相手の目を見ながら話してください。
視線の高さを合わせることも重要です。

2-4.相手の表情を見ながら話す

認知症の方は感情を言葉でうまく表現できないことがあります。
それでイライラして大声を出したり、興奮したりするのです。
認知症の方と話す場合は、表情をみながら感情を読み取るようにしてください。

3.認知症の方と接する際のNG行為

間違ったコミュニケーションの取り方、対応の仕方を解説します。

3-1.相手を無視する

認知症の方は同じ会話を何度も繰り返すことがあります。
その際に、対応が面倒になって無視してしまいがちです。
無視されると孤独感にさいなまれ、ストレスがたまります。

3-2.細かい指示や命令をする

認知症になると当たり前のことができなくなります。
うまくできないからといって、細かい指示を出したり、命令したりするのはよくありません
指示の内容が理解できず、混乱してしまいます。

3-3.もの忘れを指摘する

食事を済ませているのに「まだ食事をしていない」と言うようなケースで、「もう食事はすみましたよ」と対応してはいけません。
本人は食事をしていないと思っているため、相手がうそをついていると考えてしまいます
孤独感や相手に対する怒りを覚えるかもしれません。
もの忘れを指摘せずに「おなかが空いたのですね。」などと話を合わせてください

3-4.相手を責めて否定する

理解しがたい行動がみられたとしても、頭ごなしに責めたり、否定したりしてはいけません
本人は理由があってしていることなどで、強く否定されると混乱したり、ストレスを感じたりします。
なるべく冷静な態度で対応してください。

3-5.行動を制限する

危ないからといって、過度に行動を制限するのはよくありません
本人が自信を喪失してしまい、できることもできなくなってしまいます。
また家に閉じ込めると、外部とのコミュニケーションが減り、認知症の悪化を招きます。

まとめ

認知症の方と接する際には、相手の不安や悲しみを理解してください。
相手の表情を見ながら、ゆっくりと分かりやすい言葉で語りかけましょう。
責めたり、否定したり、無視したりしてはいけません。
コミュニケーションが難しいからといって、感情的にならず、認知症の方を援助してください。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:認知症  投稿日:2024年2月2日

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