【精神科を目指す研修医へ】精神科医としてのキャリアパス 働き方と年収について

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精神科医としてのキャリアプランについて、研修医にむけて開業精神科医が詳しくお伝えしていきます。

マイナー科と呼ばれる精神科ですが、その道に進む精神科医は年々増えてきています。

10年以上も前になりますが、私の学年は同期73名中15名が精神科にすすみ、指定医講習会でその数を知り、非常に驚きました。

精神科を選択する理由、それは当然、学問や臨床としての興味だけではなく、ワークライフバランスなども考えてのことかと思います。

そのうえでキャリアプランをたてていくべきですが、精神科医のキャリアパスの本当のところは、精神科医にしかわかりません

こちらのコラムでは、精神科開業医が自身の経験もふまえて、精神科医としてのキャリアパスについてお伝えしていきます。

精神科を目指している研修医の方をイメージして、これからの情勢も踏まえてお伝えしていきます。

初期研修を終えたら後期研修?

初期研修医としての2年間のローテーションを終えると、後期研修医として、大学医局や病院医局に入ることが一般的かと思います。

しかしながら最近は、単科病院に直接就職したり、まったく独自のキャリアをつまれている若い先生もチラホラみかけます。

なかにはフリーターのような働き方をされて、ご自身が好きな副業をされている方もいます。

どのような進路をとることがベストなのでしょうか。

スタンダードを学ぶことの大切さ

私自身は、初期研修医時代にお世話になった先生(今では某大学の教授)のすすめで、医局見学をしました。

まさに昔ながらの医局というイメージで、絶対的な教授のもとで、医局員が従属しているような印象をうけました。

その時点で医局に入ることに抵抗を覚えてしまい、民間の道で生きていくことを私はきめてしまいました。

高校の先輩が医局長を務めていた精神科単科病院を中心に、クリニックの外来、嘱託産業医などをおこなっていました。

いろいろと経験していく中で感じるのは、スタンダートを学ぶ大切さです。

幸いにも私は教えていただける環境ではありましたが、民間では教育という概念はなく、即戦力がもとめられます。

入院診療での対応も自分から質問して実地で学び、医局にあった蔵書を読みあさり、我流の治療にならないように努力しました。

自分自身の理解とまとめのためにホームページ運営をはじめ、それが現在の「こころみ医学」という情報発信サイトにつながっています。

後期研修先を悩んでいる方へ

今やネットでも勉強ができる時代とはなりましたが、精神科医としての一定の診療力をみにつけるためには、やはり「経験」が重要です。

外来診療も入院診療も、どちらも非常に大切であったと感じます。

そして研修先を選ぶ段階では研究は全く興味がなかったのですが、rTMS療法の院内治療成績の統計解析などを行うととても楽しくなってきて、何事も経験してみなければわからないと実感しています。

幸いにも精神科はオンオフが明確で、しっかり自分の時間を確保することもできます。

ですから後期研修先を悩まれている研修医の先生には、できれば王道に進んでいただくのが、充実した精神科医人生につながると心から思っています。

私は公言が憚れる経歴ではありますが、恩師の言葉で今でも大事にしていることがあります。

「患者さんは映画1本分のお金を払って診察にきているのだから、その価値を提供できるように誠実にとりくみなさい」という教えです。

目の前の患者さんに誠実に取り組むことは、どのような精神科医としてのキャリアパスを歩むにしても大事にしなければなりませんね。

指定医?専門医?どこまで資格をとるべき?

精神科医としてのキャリアパスを考えるにあたっては、精神科医としての資格をどこまで取得するかが重要です。

大きな2つの資格として、「精神保健指定医」「精神科専門医」があります。

結論から申し上げると、

  • 精神保健指定医:診療報酬に差あり≒年収もかわる→取得すべき
  • 精神科専門医:現時点では大きな差なし→できれば取得したほうがよい

指定医は、病院での隔離拘束の判断、医療保護や措置入院の判断など、いわゆる指定医業務ができるかが変わってきますので、病院では待遇に差が付きます。

クリニックでも、診療報酬にわずかではありますが差がついていて、将来的には大きくなるかもしれません。

精神科専門医については、取得していない年配の精神科医も多く、直接的な診療報酬での差はありません。

「多剤処方で減算されない」など、かなり限定したメリット?しかありません。

ですから、少なくとも精神保健指定医の資格は取得しておいた方が無難です。

私自身は指定医を取得したものの、専門医は旧研修手帳の申請を失念していて、過去症例が使えずにやる気をなくして諦めてしまいました。

精神科専門医は、セルフブランディングが重要な仕事(産業医・メディア・学会活動・講演活動など)を行っていきたい場合は、確実に取得した方がよいです。

有難いことにrTMS療法を中心に登壇させていただく機会が増えましたが、精神科専門医がないと非常に恥ずかしいです。

精神科医としての働き方の実情

現代はストレス社会、ですから精神科医としての活躍のフィールドは広がりをみせています。

大きく働く場をわけると、

  • 外来(クリニック)
  • 入院管理(病院)
  • 往診(訪問診療)
  • 産業医(企業)

があるかと思います。

私は一通りすべてを経験しています。

それぞれについてみていきましょう。

外来

おそらく、精神科医の仕事としてハイパーなのがクリニック外来かと思います。

現在の診療報酬体系では、1時間に6人の診察を行えないと利益が厳しい構造となっています。

ですから1人10分程度の診察時間ですが、実は6人をしっかり診療できる精神科医は多くはないことに、経営者として気づかされます。

1人で個室にこもり、黙々と診療を繰り返していくので、勤務医として続けていくには「外来が好きである必要」があるかと思います。

シュライバー(秘書)がついている大手クリニックもありますが、診療は表面的になりがちで、本当の臨床能力はつきにくいと感じます。

最近では、オンライン診療特化したクリニックもでてきています。

オンラインでは、薬や診断書目的の方が多いため、ビジネス感が強くなります。

向精神薬は規制が厳しいため、一部の決められた薬を自費で処方するのみになりがちで、診断書も求めに応じて記載するだけになりがちです。

通院精神療法での時間の枠組みもないので、短時間で単調にこなすことが求められがちです。

入院管理

精神科単科病院や大学病院では、入院患者さんの治療管理となります。

急性期よりか慢性期よりかで仕事内容はかわりますが、慢性期の病院は仕事も限られ、多くの時間を医局で過ごすということになりがちです。

急性期の病院では、忙しいところは本当に忙しいですし、指定医や専門医の資格を取るためには、症例取得のために避けては通れません

ですが当直は寝当直のことが多く、不穏対応よりも転倒の裂傷をナートする、なんてことの方が多かったりします。

精神科だから創傷処置は関係ないということはありません。

往診

訪問診療は診療報酬が優遇されているために、少なくとも現在は余裕をもって診療できます。

施設入所では単価が1/3くらいになっているため、数多くの方をラウンドしてみていきます。

患者さんのほとんどが認知症で、BPSDのコントロールが主な役割ですので、やりがいを感じにくいのが実際のところです。

当院は精神科単科の訪問診療を開始しましたが、その場合はひきこもり対応もしていきます。

産業医

精神科産業医は、いまでも重宝されます。

オフィスでは安全衛生や健康問題が生じることは少なく、最も企業が困るのがメンタル疾患の社員対応です。

ときに労務トラブルと重なってくるので、労務とメンタルの両方の実践的知識をもっていると、非常に役に立つことができます。

ストレスチェック制度の導入時にはニーズが一気に高まりましたが、近年は少しずつ落ち着いてきました。

仕事を見つけていく必要がありますが、個人ブランディングで案件獲得するのは非常にハードルが高く、一方で紹介会社などでは1つの求人に複数人の応募者がエントリーするので、書類選考段階で厳しいことも多いです。

需給関係で報酬も低下傾向となっており、通常の紹介案件では2時間訪問で4~5万円程度になっています。

顧問契約ですので、訪問時以外も随時相談対応が必要となります。

精神科での開業医と勤務医でのQOLと年収

精神科医を選択された時から、開業を意識されている方も少なくないかと思います。

私がこの話をするとポジショントークが混じっているように感じてしまうかもしれませんが、偽りないところをお伝えしていきます。

精神科勤務医の年収はどれくらい?

ここでは病院ではなく、クリニックや訪問診療などで働く精神科勤務医を想定していきます。

一見すると非常に高額の求人が散見されますが、実態が伴っていないことも少なくありません。

医師では、時給1万円が相場となっており、高くてもインセンティブをあわせて1.5万円が上限かと思います。

その理由は現在の診療報酬にあります。1人診察で5000円程度の医療機関収入となりますが、6人診察して1時間3万円になります。

家賃やスタッフ人件費など経費は少なくなく、医師のお給料をお支払いしてようやく1万円の利益が残る形になります。

ですから1時間4人ではちょっと赤字、6人は診察してほしいという医療機関が多いのです。

秘書つき、診断書は1か月まで、採血を3か月に1回、初診は不要な心理検査必須など、ルールを作ってグレーに収益を上げているクリニックがあるのも、そういった事情です。

当院では働き方によりますが、週40時間でインセンティブにより1800万円~2400万円程度となっています。

入職時や求人広告と実際の待遇が異なる医療機関もありますので、あまりに高額な求人には理由があると思った方がよいです。

精神科開業医の年収はどれくらい?

私自身、精神科のクリニックを3つ経営しており、常勤医師10名以上を雇用しています。

そのうえで思うことは、良い先生は珍しく、さらには勤務医として長く続けてくださるのは非常にレアで開業されます。

ですから雇用して大きくしていくことは非常に大変で、医師を雇用すると経営レベルが数段あがります

これから競争も激化し、診療報酬も上がりようがない現状を考えると、「開業するならミニマム開業」です。

その場合は税制上の優遇措置を使えば、表面上の年収は2000万~3000万円くらいですが、手取りでは実質年収4000~5000万と同等になる方法があります。

これはあくまで患者数がプラトーに達した場合で、それまでは経費は容赦なくかかり、初期投資もありますのでマイナススタートになります。

ですが賢く開業した場合、収入面でのメリットは間違いなくあります。

精神科開業医はQOLが高い?

開業医のQOLは、想像している以上に個人差があります。開業精神科医が詳しくお伝えします。

年収だけを比べれば、精神科開業医の方が恵まれているように感じるかと思います。

ですが幸福度が本当に高いかは本当に分かれ、なかにはうつ病になる開業医もいます。

開業医の最大の悩みは、人の問題です。

スタッフの問題で苦しまれている精神科開業医は非常に多く、「先生お話が…」の言葉におびえながら過ごす開業医は多いです。

また競合が参入して経営環境が大きく変わることもあり、オンオフをつけるのが苦手な方には、QOLが大きく下がります

開業を目指す精神科医へ

精神科医を目指されている先生へ

「精神科医のキャリアパスは精神科医にしかわからない」

それにつきるのですが、医者のまわりには様々な人が関わっていて、開業コンサルや人材紹介会社など、医者から利益を得ている方のポジショントークに惑わされてしまいます。

ですから私の経験を踏まえて、精神科医としてのキャリアパスについてお伝えしていきました。

当法人の目指していること

私が経営を続けているのは、

  • ついてきてくれているスタッフに生活の安心と豊かさを与えたい
  • 誠実な心の診療を受けられる社会インフラを広げたい

この2つにあります。

正直に申し上げると、医者はどこでも生きていけますが、スタッフは職場によって生活が大きくかわってきます

ですからライフステージに合わせて当法人で安心して働けるように、事業を拡げていく必要があります。

そして患者さんにとって精神科診療は、「受診したクリニックによって運命がかわる」といっても過言ではありません。

私たちのクリニックは非常に高いレベルで診療している自負があります。

コメディカル体制も充実しており、心理療法やTMS治療、入院調整や診断書作成補助などの体制が整っています。

精神科外来の実践を学べる場として

そして当院では、院長クラスの医師を中心に、若い先生が外来実践力をつけられるように研修体制を作ろうと計画しており、私が研修後に探していた体制整備を目指しています。

開業を意識されている先生には、開業サポートも行っていますし、ご希望であればリスクを最大限抑えた当院独自のスキームもあります。

ご興味ある先生がいらしたら、研修医の先生でも気軽にご連絡いただければ幸いです。

おこがましいですが、これからを担う先生方を「クリニックで育てていくこと」が、私たちの次なる目標なのです。

お問い合わせは、以下の受付フォームより、「キャリア相談希望」と記載してエントリーをお願いします。

当法人求人サイト

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医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2022年12月29日

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