睡眠薬は認知症を悪化させる?ガイドラインに沿った睡眠薬の使い方

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本記事では、睡眠薬は認知症を悪化させるのかどうか、BPSDに対する睡眠薬使用ガイドライン、睡眠薬を使用すべき認知症の周辺症状、睡眠薬の種類と注意点について解説します。
これを読めば、認知症の方に睡眠薬を用いる方法が分かります。
認知症の方を介護する際に役立ててみてください。

睡眠薬は認知症を悪化させる?

「睡眠薬を飲むと認知症になる」といわれることがありますが、これは本当でしょうか?
結論から先にいえば、いろいろな説があり、はっきりしません。
逆に認知症を予防するという睡眠薬があるくらいです。
また睡眠不足は認知症のリスクを高めるという説もあります。

認知症を悪化させるという説

フランスで行われたある調査では、平均78歳で1,063人を対象として、最長15年にわたり追跡した結果、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を服用していた高齢者では4.8%、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を服用していなかった高齢者では3.2%が認知症を発症しています。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬を服用することで認知症を発症するリスクが1.5倍になるという結果です。

認知症を悪化させないという説

ワシントン州では、認知症のない65歳以上の参加者3,434名を対象として、平均7.3年間の追跡調査が行われました。結果、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は認知症のリスクをわずかに高めるが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と認知症との因果関係を裏付けるものではないとのことです。

認知症の予防効果をもつ睡眠薬があるという説

米ワシントン大学セントルイス睡眠医学センター所長のBrendan P. Lucey氏らが実施した研究によるものです。
45~65歳の38人を対象にして、スボレキサント10mg投与群13名、スボレキサント20mg投与群12名、プラセボ投与群(スボレキサント未投与)13名に分けて調査しています。
認知症発症の原因と考えられるアミロイドβタンパク質とタウタンパク質の変化について検討しました。
その結果、スボレキサント20mg投与群では、アミロイドβタンパク質が10~20%、タウタンパク質が10~15%低下しています。
スボレキサント20mg投与の服用によって、アミロイドβタンパク質とタウタンパク質を減少させ、アルツハイマー型認知症の発症あるいは悪化を抑える可能性があるいわれています。

睡眠不足は認知症のリスクを高めるという説

獨協医科大学の宮本雅之によると、睡眠不足は前頭葉の前頭前野が関わる遂行機能に悪影響を及ぼし、不眠は、認知症のリスクを高め、アルツハイマー型認知症の発生に関係するアミロイドβに影響を与えるとのことです。

認知症の方は睡眠薬でせん妄を起こすことがある

認知症の方は睡眠薬によって、せん妄とよばれる意識障害を背景とした混乱・興奮を起こすことがあります。
これは一時的な症状であり、認知症の進行とは違います
しかし見た目には、「睡眠薬で認知症が進行した」と考えられがちです。

認知症によるBPSDに対する睡眠薬使用ガイドライン

厚生労働省から、かかりつけ医のために「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」が出されています。
この中で睡眠薬使用は以下のように示されました。

  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬は高齢者に対して安易に用いるべきではない
  • 超短時間作用型の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるゾルピデム・ゾピクロン・エスゾピクロンは使用してもよい
  • メラトニン受容体作動薬・オレキシン受容体作動薬も使用してよい
  • 少量の投与にとどめ、漫然と長期に使用せず、減量・中止を検討すること

睡眠薬を使用すべき認知症の周辺症状

認知症の方に以下のような周辺症状が見られた場合、睡眠薬の使用を検討すべきとされています。

  • レム睡眠行動障害:夢の中の行動が現実世界に反映されて異常行動をおこす
  • 深夜徘徊(しんやはいかい):夜に目覚めてトイレなどに行こうとして、居場所が分からなくなり、深夜に外に出て徘徊する。
  • 不眠障害:夜間に十分な睡眠がとれず、昼夜逆転がみられる。

認知症による睡眠障害に効果的な睡眠薬の種類と副作用

ガイドラインに示されている睡眠薬を示します。
※こちらには記載ないですが、ベルソムラと同じ作用メカニズムのデエビゴも安全性は高いと考えられます。

作用機序 薬物名 販売名 特徴・注意点
GABA受容体作動薬 ゾルピデム マイスリー 超短時間作用型・半減期2.5時間
ゾピクロン アモバン 超短時間作用型・半減期3.5~6.5時間
エスゾピクロン ルネスタ 超短時間作用型・半減期5.1時間
メラトニン受容体作動薬 ラメルテオン ロゼレム フルボキサミンとの併用禁忌
オレキシン受容体作動薬 スボレキサント ベルソムラ 半減期10時間

副作用として、眠気・ふらつき・過鎮静・歩行障害などがあり、転倒に注意が必要です。

認知症の方に睡眠薬を使用する際の注意点

下記の3点について注意が必要です。

  • 医師に相談しながら服用する:副作用を抑えるため、薬の種類・用量を決めてもらうこと
  • 決められた量を服用する:勝手に用量を増やすと副作用が出たり、睡眠薬依存を起こしたりします
  • 服薬を急に中止しない:急に中止すると不眠症状の再発や深夜徘徊を起こすことがあります

まとめ

睡眠薬は認知症を悪化させるのかどうかは、いろいろな説があり、はっきりしません。
レム睡眠行動障害・深夜徘徊・不眠障害がみられる場合、適切な睡眠薬の服用を検討すべきと考えられています。
ただし副作用として、眠気・ふらつき・過鎮静・歩行障害などがあり、転倒に注意が必要です。
医師と相談しながら、決められた量を服用してください。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:認知症  投稿日:2024年3月19日

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