認知症における記憶障害とは?種類・予防策・対応方法を解説

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認知症においては、初期から記憶障害がみられ、認知症の進行とともに記憶障害も強くなります。
認知症の人を介護する人は、記憶障害を予防したり、対応したりする方法を知りたいはずです。
本記事では、認知症における記憶障害のメカニズム、記憶障害の種類、記憶障害ともの忘れの違い、記憶障害の予防策・対応方法について解説します。認知症の人を介護する際に役立ててみてください。

認知症における記憶障害とは

記憶障害とは何か、記憶障害が起こるメカニズムについて解説します。

記憶障害とは

自分が体験した過去の出来事についての記憶が抜け落ちてしまう障害です。
新しい出来事が覚えられない、覚えてもすぐに忘れてしまう、今まで覚えていたことが思い出せないなどの症状がみられます。

認知症における記憶障害のメカニズム

アルツハイマー型認知症では記銘(記憶すること)をつかさどる側頭葉内側の海馬が萎縮することで記憶障害が起こります。
レビー小体型認知症では「手続き記憶」をつかさどる大脳基底核が変性することで記憶障害が起こります。

認知症における記憶障害の種類

記憶障害には、即時記憶障害・短期記憶障害・長期記憶障害・エピソード記憶の障害・意味記憶の障害・手続き記憶の障害があります。

即時記憶障害

数秒~数十秒前といったごく短い時間に関する記憶の障害です。
たった今体験したことを忘れるため、新しいことが覚えられません。
物を置いた場所、今日の日付などが覚えられず、分からなくなります。

短期記憶障害

数分~数時間前といった短い時間に関する記憶の障害です。
大半のアルツハイマー型認知症は、短期記憶障害で発症し、進行につれて他の記憶障害も現れます。
ですから昔のことは覚えているのに、最近のことは忘れてしまいます。
また軽度認知障害(MCI)でも短記憶障害がみられるのが特徴です。

長期記憶障害

数日~数十年間といった長い期間に関する記憶の障害です。
長期記憶障害には、エピソード記憶・意味記憶・手続き記憶の障害が含まれます。

エピソード記憶の障害

体験した出来事に関する記憶の障害です。
たとえば食事をとったという体験そのものの記憶が抜け落ちるため、周囲と話が合わなくなります。
アルツハイマー型認知症では、長期記憶障害のうちで最初にみられる症状です。

意味記憶の障害

物事の意味に関する一般的な知識の記憶障害です。
たとえば知っているはずの花や道具の名前を忘れてしまいます。
そのため「あれ」「それ」といった表現が増えるのが特徴です。
アルツハイマー型認知症の初期にみられますが、レビー小体型認知症の初期ではみられません。

手続き記憶の障害

体で覚える記憶の障害です。
学習によって身につけた知識・技術が失われます
たとえば自転車に乗る、車の運転をするなどができなくなります。
アルツハイマー型認知症の初期にはみられず、後期に出現しますが、レビー小体型認知症の初期にみられるのが特徴です。

認知症における記憶障害ともの忘れの違い

認知症における記憶障害と老化に伴う「もの忘れ」は別物です。
認知症における記憶障害の鑑別点を解説します。

出来事そのものを忘れる

「もの忘れ」は朝ごはんで何を食べたかを忘れますが、「認知症」は朝ごはんを食べたことを忘れます。
認知症では朝ごはんを食べたという体験そのものが抜け落ちるのです。

健忘感がない

もの忘れの場合は、何かを忘れたという健忘感があります。
それに対して認知症の人には物を忘れた時の違和感がありません
また日にちを度忘れした時には、カレンダーをみて思い出そうとします。
認知症の人には、その行為がありません。

妄想につながることがある

認知症の記憶障害では、財布が見つからない場合、自分でしまったことを覚えておらず、誰かに隠された、盗られたという妄想(盗られ妄想)をいだくことがあります。
本人と長い時間一緒にいて世話をやいている人が攻撃されやすいのが特徴です。

日常生活・社会生活に影響する

もの忘れでは日常生活・社会生活に影響することはまずありません。
それに対して認知症では不自由・不都合が生じます。
周囲と話が合わなくなり、トラブルになりかねません。

記憶障害の予防策

記憶障害の予防のためには、運動・人との交流・食事・脳ドッグが役立ちます。

運動

歩行などの有酸素運動をすることで、脳神経のネットワークに変化を起こし、「海馬」の血流増加や脳の「灰白質」の体積が増加すると報告されています。
この効果により記憶障害も予防できるでしょう。

人との交流

できるだけ毎日外に出て人と話すことは、記憶障害の予防に役立ちます。

食事

果物・野菜・魚を中心とした食事が、認知症の発症を予防し、進行を遅らせるといわれています。
反対にマーガリン・加工肉に含まれる飽和脂肪酸・トランス脂肪酸は認知症の発症リスクを高めます。

脳ドッグ

定期的な脳の画像検査を行い、脳の状態を把握することが大切です。
また症状からMCIを疑った場合、早めに認知症の専門医を受診することをお勧めします。
初期のアルツハイマー型認知症の治療薬としてレカネマブが発売されました。
詳しくは下記リンクページをご覧ください。

関連記事:エーザイの認知症薬「レカネマブ」が厚生労働省から正式承認を取得

認知症で記憶障害がある方の対応方法

認知症で記憶障害がある方に接する際には、否定せず傾聴する、視覚・聴覚に訴える、環境を整える、ストレスを管理することが大切です。

否定せず傾聴する

まず本人の言動を否定しないように気をつけてください。
頭ごなしに否定したり、責めたりするとストレスがたまり、うつ状態になりかねません。
同じことを質問されても繰り返し説明することが大切です。

視覚・聴覚に訴える

言葉で訴えるだけなく、メモを活用してコミュニケーションをとると効果的です。
新しいことを記憶する際には、分かりやすいように絵を用いるのも一法です。
また探すことが多い手持ち物には鈴をつけるなどして、気づきやすいように工夫しましょう。

環境を整える

本人の記憶に頼らなくて済む環境にすると、記憶障害の影響を抑えられます。
たとえば、物の位置を変えないようにする、毎日のスケジュールをパターン化するなどです。

ストレスを管理する

ストレスは認知症を進行させますが、本人はストレス管理が困難です。周囲によるストレス管理を心がけてください。
また周囲の人から安心する声がけをすることも重要です。
本人が安心して過ごせれば、認知症の進行をゆるやかにできます。

まとめ

認知症における記憶障害は、脳の海馬の萎縮や基底核の変性で起こります。
短期記憶障害と長期記憶障害があり、認知症の病因によって症状が異なります。
記憶障害ともの忘れの違いは、出来事そのものを忘れる、健忘感がないなどです。
記憶障害の予防には、運動や人との交流などが大切です。
さらに定期的に脳ドッグを受けて、軽度認知障害(MCI)が疑われたら、早めに認知症の専門医を受診してください。
最近、初期のアルツハイマー型認知症の治療薬としてレカネマブが発売されています。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:認知症  投稿日:2024年3月19日

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