非定型うつ病を克服するための治療法

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非定型うつ病の治療の考え方

非定型うつ病の治療には、これが正解だというものがありません。

そもそも非定型うつ病という疾患自体がはっきりとしたものではなく、おそらく様々な病気の集合体と考えられます。さらには様々な精神疾患を合併することもあるので、その治療は型どおりにはできません。

ですから実際の治療は、患者さんを総合的に見ながら勧められていきます。薬物療法によって症状を軽減してサポートしながら、患者さんごとの精神療法や日々の生活の中で少しずつ治療を積み上げていくのです。

非定型うつ病という病気の症状で考えた時に、その本質的な症状は「拒絶過敏性」にあると私は考えます。拒絶過敏性とは、相手に拒絶されることを極度に恐れ、周囲から自分がどう見られているのかを非常に気にすることです。ある種の対人不安(社会不安)ともいえるでしょう。

うつ状態がかりによくなったとしても、拒絶過敏性が残ってしまっていればすぐに再発してしまいます。この拒絶過敏性をいかに克服できるかが、非定型うつ病の治療の要点化と感じています。

この考え方に従って、非定型うつ病の治療を順序立ててお伝えしていきます。

生活習慣を整える

どのような病気でも言えることではあるのですが、非定型うつ病では特に生活習慣を整えることが大切です。

非定型うつ病では、過眠や過食といった症状があります。いくら寝ても眠気がとれず、そのせいで生活リズムが乱れてしまいます。食欲が増してしまい、むちゃ食いをしてしまうこともあります。

このような食事や睡眠といった生活リズムの乱れが、ただでさえ非定型うつ病に多い鉛管様麻痺とよばれる倦怠感をより強くします。身体がぐったりと重たくなってしまい、更に気分も沈み込んでしまうのです。

ですから非定型うつ病では、生活リズムを一定に保つことから始めていくことが大切です。そのためには、具体的な目標をつくっていくことが大切です。

  • 毎朝〇時に起きる(朝に楽しい予定をつくる)
  • 3食を規則正しく、決まった時間にたべる
  • 間食をしない
  • 毎日〇分散歩やジョギングをする
  • 夜は〇時までに就寝する

このように具体的な目標をたてて、できるだけそれにあわせるようにしましょう。生活リズムを整えるだけで、かなり症状が落ち着く方もいます。

鉛管様麻痺とよばれる非常に強い倦怠感は、ドパミンとの関連が考えられています。このため興味をもちながら活動していくことがとても大切で、そのためには日々に小さな目的を持つことが必要です。

このように、非定型うつ病では以下の2つのことが重要です。

  • 生活リズムをできるだけ一定にする
  • 小さな目的を積み重ねる

これを漠然と行うのはとても難しいため、簡単な生活の日記をつけていくこともおすすめです。

精神療法が中心

非定型うつ病の治療は、精神療法が中心になります。精神療法はすぐに効果がでてくるものではなく、時間をかけて重ねていきながら少しずつ良い方向に向かっていきます。

非定型うつ病の精神療法の方法と、どのような精神療法があるのか、みていきましょう。

どのような方法があるか

その方法は大きく2つあります。

  • 医師の診察をこまめに繰り返す
  • 医師の診察と臨床心理士によるカウンセリングを並行する

できるならば後者が理想的です。医師(administrator)が病状全体を管理しながら、カウンセラー(therapist)が心理療法を行っていく形です。ATスプリットという治療の形で、医師とカウンセラーで役割分担しながら治療にあたっていきます。しかしながらカウンセリングにはお金がかかるので、なかなか気軽にできるものではありません。

その場合は、医師の診察をこまめに繰り返しながら、少しずつ精神療法をすすめていきます。日常生活の出来事の中で、少しずつ精神療法をすすめていきます。

非定型うつ病で効果のある精神療法とは?

非定型うつ病の本質的な症状である「拒絶過敏性」を改善していく必要があります。

この拒絶過敏性は、対人不安が少しずつ発展した結果であることが多いです。他人からどう思われているかを非常に気にして、周囲にあわせて生きてきた方が多いのです。この不安になりやすさ自体を少しずつ改善していく必要があります。

このために有効アプローチとしては、以下の4つあげられます。

  • 認知療法(認知行動療法)
  • 行動療法
  • 対人関係療法
  • 社会リズム療法

認知療法とは、物事のとらえ方に焦点をあてて、それを適応的な思考パターンに修正していく方法です。それによって行動を変化させていくので、認知行動療法と呼ばれます。

行動療法とは、反対に行動からアプローチしていく方法です。「行動してみたら意外と何とかなった」ということから、「怖いと思っていたけど案外大丈夫かもしれない」というように認知が変わってきます。そういう意味では行動認知療法ともいえるのですが、このような呼び方はしません。

対人関係療法は、より現実的な対人関係の問題に目を向けていく治療法です。多くの心理的な問題は、他者との意思疎通の問題であることが多いのです。その対処法を見つけていきます。対人関係の認知のゆがみを修正すると同時に、対人関係のソーシャルスキルトレーニング(SST)にもなります。

社会リズム療法とは、生活リズムと対人関係の2つを整えていく治療法です。対人関係を量と質でとらえて、生活リズムとあわせて適切に調整していくことを目指していきます。先ほど述べた生活習慣の修正を、より行動療法的に行っていく方法です。

対人関係療法と社会リズム療法を組み合わせて、対人関係社会リズム療法という形で行うこともあります。SRM(ソーシャルリズムメトリック)を使って記録をつけていくことから始めます。

社会生活で実践

これまで、非定型うつ病では以下の3点が重要であるとお伝えしてきました。

  • 生活リズムを整えること
  • 小さな目標を積み上げる
  • 拒絶過敏性を改善する

これらのことを行っていくためには、社会での実践の場があった方がよいのです。人と関わりながら社会生活していくことで、少しずつ改善を行っていく必要があります。

ですから、仕事をしている方は、できるだけ続けた方がいいです。つらいと感じるかもしれませんが、時間通りに出勤して仕事をこなしていくことで少しずつ変わっていけます。日々の仕事には小さな目標をたてて、それを積み上げていくことで自己肯定感をつくっていくことが大切です。

もちろん、本当に症状がつらい時は一時的に休むことも必要です。しかしながら何とかなるのでしたら、できる限り仕事は休まずに続けていくことが大切です。

仕事をしていない方は、デイケアや作業所などを上手く活用していきましょう。デイケアは、さまざまな患者さんが集まって共同作業をすることで交流をはかっていきます。作業所は、軽作業で多少の賃金も支払われます。どちらも日数は自分で決めて利用できますが、半日など時間は短くしてもいいので、できるだけ日数を多くした方がよいです。

そこまではまだ踏み出せない方は、自宅の家事の計画をたてましょう。掃除や片付けがやりやすいです。本が好きな方は図書館に通うことでもいいです。一日の計画をたてて、それを日課にして継続的に行うようにしましょう。

医療サイドの目線からお伝えすると、このような治療の進め方になります。

※職場や家庭でのサポートについて詳しく知りたい方は、『非定型うつ病の方への家族や職場の接し方とは?』をお読みください。

薬物療法はサポート

非定型うつ病の治療では、薬物療法だけでよくなるということはあまりありません。

もちろん薬物療法は重要です。精神症状を軽減させていくことができますし、症状が楽になれば気力が続きます。非定型うつ病では精神療法と社会生活での実践が大切なので、それを支えていくには薬は松葉杖になるのです。

非定型うつ病の治療で大切なことが3点あります。

  • 症状が多彩で薬が多くなりがちなこと
  • 拒絶過敏性が医師に向くこともあること
  • 双極性障害も混じっていること

非定型うつ病は合併症も含め、さまざまな症状で悩まされることが多いです。その症状に対して薬を処方していると、結果的に多剤を服用することになってしまいます。

薬の本質的な意味は、患者さんとの薬を通したコミュニケーションにあります。患者さんの訴えに対して解釈して処方をするのです。医師が事なかれ主義のような処方を繰り返していては、患者さんの社会生活での実践を促せなくなってしまいます。

もうひとつは、拒絶過敏性が薬や医師に向くこともあるということです。「薬はもう飲みたくない」と服薬を中断してしまったり、ときには過量服薬してしまうこともあります。このような意味でも、薬が自己中断してもできるだけ負担が少なく、また過量服薬の備えて安全性が高いものが望ましいです。

最後に、非定型うつ病には双極性障害も混在しているということです。双極性障害のうつ状態は非定型うつ病と似たような症状になることも多く、のちに診断が変更されることも少なくありません。そのことも意識して薬を選んでいく必要があります。

そのような観点で、非定型うつ病によくつかわれるお薬をご紹介していきます。

抗うつ剤

非定型うつ病の治療の中心になるのは、やはり抗うつ剤になることが多いです。うつ状態の改善はもちろんのこと、拒絶過敏性を和らげる効果も期待できます。また、非定型うつ病で多い不安障害の治療にもなります。

抗うつ剤としては、新しいタイプのSSRIやSNRI、NaSSAから使っていくことが主流です。

  • SSRI:ジェイゾロフト・レクサプロ・パキシル・デプロメール/ルボックス
  • SNRI:サインバルタ・イフェクサー・トレドミン
  • NaSSA:リフレックス/レメロン
  • トリンテリックス

このなかでも、長い目で考えればジェイゾロフトかレクサプロを使うことが多いです。どちらも安全性が比較的高く、離脱症状なども起こしにくい抗うつ剤です。

NaSSAも悪くはないのですが、体重増加と眠気の副作用がありますので、非定型うつ病の過眠や過食があると使いにくいです。SSRIが吐き気で使えない時は考慮していきます。

SNRIは、双極性障害だとしたときに躁転を引き起こしてしまうことが多く、やや使いにくいです。昔からある三環系抗うつ薬は、安全性と躁転の問題から使いにくいです。

気分安定薬

非定型うつ病で気分安定薬を使っていくのは、以下の2つです。

  • 気分の波(bipolarity)が大きい場合
  • 攻撃性や衝動性が目立つ場合

非定型うつ病では、気分反応性がみられます。その気分の波が大きい方もいらっしゃいます。このような双極性の要素をbipolarityといいますが、その要素が大きい場合に気分安定薬を使うことがあります。

また非定型うつ病では、拒絶過敏性が周囲や自分を傷つける方向に向かわせることがあります。興奮、暴力、過量服薬やリストカットなどの自傷、浪費などがみられることがあります。そのような時にも、気分安定薬を使っていきます。

  • 気分安定薬:デパケン・リーマス・テグレトール・ラミクタール

気分安定薬としては、デパケンを使うことが多いです。気分安定薬の中では安全性が高く、また複雑な病状にはデパケンは効果があることが多いのです。なお、このようなケースでは原則的に、抗うつ剤を中止していきます。

抗精神病薬

非定型うつ病で抗精神病薬を使っていくのは、以下の2つです。

  • 気分安定薬としての効果を期待する場合
  • 過度な倦怠感(鉛管様麻痺)や過眠を改善したい場合

抗精神病薬には、気分安定薬としての効果が期待できるものがあります。気分安定薬に比べると鎮静作用があるので、攻撃性や衝動性などを落ち着かせる効果は早いです。なるべく早く落ち着かせたいときや、程度がひどい場合は抗精神病薬を使います。

また抗精神病薬のなかには、少量で使うことでドパミンを増加する薬があります。これによって、鉛管様麻痺ともいわれる過度な倦怠感や過眠の症状を改善させられることがあります。

  • SDA:リスパダール・ラツーダ
  • MARTA:ジプレキサ・セロクエル
  • DSA:エビリファイ・レキサルティ

気分安定薬として使われるのは、上記の6剤が多いでしょう。抗うつ効果を期待するならばエビリファイやレキサルティ、セロクエルやラツーダ、鎮静作用を期待するならジプレキサやリスパダールです。

倦怠感や過眠の改善として使われるのは、少量のエビリファイが多いです。

これらの薬は食欲を増加させやすいことがネックになります。過食で苦しんでいる患者さんに使うと、治療関係を損なってしまうこともあるので注意が必要です。

抗不安薬・睡眠薬

非定型うつ病では、不安症状や不眠症状を訴える患者さんもいらっしゃいます。これらの患者さんに対しては、必要最小限で抗不安薬や睡眠薬を使っていくことがあります。

多くの抗不安薬や睡眠薬は、即効性があるという点が何よりの強みです。しかしながら漫然と使っていると、次第に効かなくなってしまってやめられなくなっていきます。ですから必要最低限にとどめておくことが必要です。

なるべくならば頓服にした方がよいでしょう。そして仮に過量服薬をしても、安全性の高い種類を選ぶべきです。

まとめ

非定型うつ病では、薬物療法は治療のサポートです。生活習慣の改善や精神療法、社会生活を通して少しずつ治療を積み上げていきます。

  • 生活習慣をできるだけ一定にして、日々に小さな目標をたてるようにしましょう。
  • 精神療法としては、認知療法・行動療法・対人関係療法・社会リズム療法などがあります。
  • 仕事はできる限り続けた方がいいです。仕事をしていない方は、デイケアや作業所を活用したり、家事や図書館などで治療を実践していきましょう。
  • 薬物療法としては、抗うつ剤・気分安定薬・抗精神病薬を中心に使っていきます。

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カテゴリー:うつ病  投稿日:2023年3月23日

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