レクサプロ(エスシタロプラム)とは?

レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に分類される抗うつ剤になります。

セロトニンの働きを高める作用のあるお薬で、

  • セロトニン:不安や落ち込み

といった精神症状の改善に効果が期待できます。

ですからうつ状態だけでなく、不安の病気にも幅広く使われています。抗うつ剤の中でもジェイゾロフトと並んで、効果と副作用のバランスがよいことで定評があるお薬になります。

現在の日本では4剤のSSRIが発売されています。

  • ルボックス/デプロメール(一般名:フルボキサミン):1999年発売
  • パキシル(一般名:パロキセチン):2000年発売
  • ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン):2006年発売
  • レクサプロ(一般名:エスシタロプラム):2011年発売

日本では4つ目のSSRIとなります。

シタロプラム(日本未発売)というお薬の有効成分だけを取り出したお薬として、レクサプロは2001年から、海外では広く使われていました。

日本では新しいお薬なので、レクサプロではジェネリックは発売されていません。現在は先発品のみとなりますが、ジェネリックとしてエスシタロプラム錠の発売が想定されます。

2019年1月より錠剤の形状が変わり、分割しやすくなりました。また20mg錠剤が発売となり、最高用量まで使っても1剤の服薬ですむようになっています。

レクサプロの効果が期待できる病気

レクサプロはどのような効果が期待できるのでしょうか。

レクサプロは、セロトニンだけに絞って増加させるお薬になります。それ以外の作用を抑えることで、副作用を軽減させています。

セロトニンは落ち込みや不安に効果を発揮するため、

  • うつ病・うつ状態
  • 様々な不安障害
  • 強迫性障害
  • 外傷後ストレス障害(PTSD)
  • 月経前不快気分障害(PMDD)

に効果が期待できます。

うつ状態の方では、気分の落ち込みや不安が目立つ方に使われることが多いです。副作用がマイルドで中止もしやすいことから、使いやすい抗うつ剤になります。

レクサプロは、パニック障害や社交不安障害といった様々な不安障害にも使われます。強迫性障害や外傷後ストレス障害(PTSD)にも使われます。

そして生理前に不安定になり、イライラして衝動的な気持ちを抑えられなくなってしまう月経前気分不快障害(PMDD)にも、気分の安定に効果が期待できます。

その軽度のものは月経前緊張症(PMS)になりますが、悩まれている方は少なくないです。ですからレクサプロは、女性に相性がよい抗うつ剤ともいえます。

レクサプロの適応が正式に認められている病気

日本でレクサプロの適応が正式に認められている病気は、以下のようになります。

  • うつ病・うつ状態(2011年)
  • 社交不安障害(2015年)

社交不安障害の正式な適応が認められたことから、不安の病気にも使いやすくなりました。

海外での適応からみるレクサプロの効果

海外では、日本よりも幅広くレクサプロの適応が認められています。

はじめにレクサプロが承認されたスウェーデンが含まれるEUでは、

  • 大うつ病性障害
  • パニック障害
  • 社会不安障害
  • 全般性不安障害
  • 強迫性障害
  • 月経前気分不快症

となっています。

アメリカでは、

  • 大うつ病性障害
  • 全般性不安障害

となっています。アメリカでは12歳~17歳の青少年でも適応が認められているのが特徴です。

このためレクサプロは、

  • うつ
  • 不安
  • 強迫
  • 生理の不安定さ

に効果を期待して使われるお薬であることがお分かりいただけると思います。

お薬としての適応はありませんが、外傷後ストレス障害(PTSD)にも効果は期待できます。

ストレスによって下痢や便秘、腹痛が起きてしまう過敏性腸症候群(IBS)の治療に使われることもあります。日本のIBSガイドラインでは、三環系抗うつ薬とSSRIが有効であるとされており、レクサプロは使いやすいお薬のひとつです。

レクサプロの特徴

<メリット>
  • 効果と副作用のバランスが良い
  • 1日1回の服用で効果が期待できる
  • 有効用量まで増量しやすい
  • 離脱症状が比較的少ない
<デメリット>
  • 胃腸障害が多い
  • 心電図異常(QT延長症候群)の注意喚起がなされている

それではレクサプロの特徴を、

  1. 効果
  2. 副作用
  3. 剤形と薬価

に分けてみていきましょう。レクサプロ以外の抗うつ剤との比較も行っていきます。

レクサプロの効果

レクサプロは、セロトニンを増加させる作用にしぼったお薬になります。

このため、

  • 落ち込み
  • 不安

に対する効果が期待できます。不安に対しては、とくに発作的な不安(急性不安)には効果が期待しやすいです。

レクサプロの特徴としては、効果と副作用のバランスが良いことがあげられます。MANGA studyと呼ばれる抗うつ剤を比較した有名な研究では、ジェイゾロフトと並んでバランスの良いお薬と評価されています。

抗うつ剤の効果をまとめ、比較できるようにしました。

同じSSRIの中でレクサプロは、

  • 他のお薬との相互作用が少ない
  • もっとも純粋にセロトニンだけを増加させる

という特徴があります。

※レクサプロの効果について詳しく知りたい方は、『レクサプロ(エスシタロプラム)の効果と作用メカニズム』をお読みください。

レクサプロの副作用

レクサプロの副作用は、他の抗うつ剤と比べるとマイルドになります。

効果のわりに副作用が少ないため、十分量しっかりと使いやすいお薬になります。

レクサプロの副作用として中心になるのは、セロトニンを刺激してしまうことでの副作用です。

  • 嘔吐や下痢といった胃腸障害
  • 性機能障害

といった症状が目立ちます。

お薬承認時のレクサプロの副作用頻度は、

  • 傾眠(22.6%)
  • 悪心(20.7%)
  • 浮動性めまい(8.5%)
  • 頭痛(8.2%)
  • 口渇(6.3%)

このようになっています。不眠になる方もいらっしゃいますが、眠気を感じる方が少なくありません。

またレクサプロは、QT延長症候群という心電図異常のリスクが指摘されています。QT延長症候群は危険な心室性不整脈に発展する可能性があるため、注意喚起がされています。

またレクサプロは、離脱症状は比較的少ないです。とはいえ、長い間服用していた方は少しずつ減量していく必要があります。

抗うつ剤の副作用の出やすさを比較しました

※レクサプロの副作用について詳しく知りたい方は、『レクサプロによくある副作用と対策とは?』をお読みください。

レクサプロの剤形と薬価

レクサプロのお薬としての特徴についてみていきましょう。

レクサプロにはジェネリックは発売されておらず、先発品のみとなります。現在レクサプロは、

  • 10mg錠
  • 20mg錠

となります。

薬価は、

  • 10mg錠:193.5円
  • 20mg錠:293.9円

※2020年8月現在になります。

これに自己負担割合(1~3割)をかけた金額が、患者さんの自己負担になります。薬局では、これにお薬の管理料などが加えられて請求されています。

レクサプロは副作用が少ないため、治療に必要な量まで早く増量できるという特徴があります。そして少ない錠数でも効果がしっかりと出やすいお薬です。

また、半錠の5mgで使われることも多いため、2019年1月より錠剤が分割しやすくなりました。

レクサプロの用法

レクサプロは、以下のようなお薬になります。

  • 開始用量:10mg(5mg~のことも多い)
  • 用法:1日1回(夕食後が多い)
  • 最高用量:20mg
  • 剤形:錠(10mg・20mg)

レクサプロは1日1回服用を続けることで、少しずつ効果が期待できるお薬です。効果が実感できるようになるまでには、およそ2週間~1か月ほどかかることが多いです。

食事による吸収の違いは少ないお薬になりますが、食後に服用することが多いです。1日1回の服用を継続することが重要ですので、就寝前など飲み忘れの少ない時間帯に変更していただいても問題がないことが多いです。

服用時期でみたレクサプロの注意点

レクサプロの服用時期ごとに、注意点を見ていきましょう。

抗うつ剤の服用時期と副作用をまとめました。

レクサプロの飲み始めに注意すべきこととして、賦活症候群(アクチベーション シンドローム)があげられます。

中枢神経系を刺激してしまうことで、気分が高揚して躁転してしまったり、不安や焦りが高まって衝動的に、自殺企図をしてしまうことがあります。こういった異様な精神状態が認められた場合は、すぐに中止してください。

そして飲み始めには、セロトニンを刺激してしまうことによる副作用が認められることが多いです。レクサプロの副作用として最も多いのは、下痢や吐き気といった胃腸障害です。その他にも眠気をはじめとして様々な副作用が生じることがありますが、多少であれば服用を続けるうちになれることが多いです。

そしてレクサプロは、お薬を減量していく際には離脱症状が認められることがあります。レクサプロは他の抗うつ剤に比べるとマシですが、身体にお薬が慣れてしまい、急激に減量すると心身の不調が生じてしまうことがあります。少しずつ減量していくことが必要です。

抗うつ剤の副作用の症状を簡潔にまとめました。

レクサプロの離脱症状と減薬方法

からだにお薬があることが当たり前になっていくと、急激にお薬を減らしてしまうと、心身に不調が生じてしまうことがあります。このような離脱症状は、レクサプロでは多くはありませんが、長期間服用しているときには注意が必要です。

  • 身体症状:しびれ・耳鳴り・めまい・頭痛・吐き気・だるさ
  • 精神症状:イライラ・ソワソワ感・不安・不眠
  • 特徴的な症状:シャンピリ感・ビリビリする

これらの離脱症状は、薬が減って1~3日ほどして認められます。2週間ほどで収まっていくことが多いですが、月単位で続いてしまう方もいらっしゃいます。

こういった離脱症状を防ぐために、レクサプロの減量は少しずつ行っていく必要があります。まずは少しずつ量をへらしていきます。レクサプロは、

  • 20mg→10mg→5mg

といった具合に、5mgずつ少しずつ減量していくことが多いです。離脱症状は、抗不安薬(精神安定剤)を使うと症状が緩和することがあるため、必要に応じて頓服や併用を行っていきます。5mgまで減量できれば、以下の方法で断薬を試みていきます。

※詳しくは、『抗うつ剤の離脱症状と4つの対策』『抗うつ剤の減薬・断薬の方法』をお読みください。

レクサプロの運転への影響

海外の研究で、レクサプロはお薬を服用していても自動車運転能力や精神運動能力、認知機能のいずれにも影響がなかったとする報告もされています。

ですがレクサプロには、眠気やふらつきなどの副作用が生じる可能性はあります。ですからレクサプロでは、

眠気、めまい等があらわれることがあるので、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には十分注意させること。

という表現とされました。

「注意は必要だが、禁止ではない」ということになります。このためレクサプロは、運転することもできるということになります。

心のお薬は副作用が避けられず、「運転禁止」となっているお薬が非常に多いです。その中でレクサプロをはじめとしたSSRIは、「運転注意」でとまっている数少ないお薬になります。

ただし、

  • はじめて使ったとき
  • 他のお薬からの切り替えをしたとき
  • 量を増減させているとき
  • 体調不良を自覚したとき

は無理をせず、運転は控えていただいたほうがよいです。

※お薬と運転について詳しく知りたい方は、『精神科・心療内科のお薬を服用中でも運転はできる?』をお読みください。

レクサプロの妊娠・授乳への影響

レクサプロのお薬の添付文章には、

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与すること。

授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせること。

このように記載されています。

※詳しくは、『抗うつ剤の妊娠への影響とは?』『抗うつ剤の授乳への影響とは?』をお読みください。

妊娠への影響

レクサプロの妊娠への影響から見ていきましょう。

もちろん妊娠中は、お薬を避けるに越したことはありません。しかしながらレクサプロを中止したら病状が不安定になってしまう場合は、お薬を最小限にしながら続けていくことが多いです。

レクサプロは、心臓の奇形(心室中隔欠損症)のリスクがわずかに上がるという報告がありましたが、否定的な意見もあります。このため、レクサプロが明らかに奇形を引き起こすという報告はありません。

レクサプロが影響するのは、むしろ産まれた後の赤ちゃんになります。胎盤を通してお薬が赤ちゃんにも伝わっていたものが、急に身体からなくなります。これによって、新生児離脱症状が生じることがあります。

早めに見つけて症状を和らげる治療をおこなっていけば、問題ないことがほとんどです。後遺症が残るたぐいのものではないので、産科の先生にお伝えしておけば、過度に心配しなくても大丈夫です。

授乳への影響

授乳についても、明らかなネガティブな報告はありません。

母乳で育てることは、赤ちゃんにも非常に良い影響があるといわれています。ご自身での判断にはなりますが、レクサプロを服用していても授乳を続ける方がメリットが大きいようにも思います。

母乳を通して赤ちゃんにレクサプロの成分が伝わってしまうことは、動物実験だけでなく人間でも確認されています。乳児検診で体重が増えていかないといったことがあれば、医師と相談したほうが良いでしょう。

海外の妊娠と授乳に関する基準

海外の妊娠と授乳に関する基準をご紹介します。

レクサプロは、FDA基準で「C」、Hale分類で「L2」となっています。

  • 妊娠への影響:FDA(アメリカ食品医薬品
    C:危険性を否定することができない
  • 授乳への影響:Hale授乳危険度分類
    L2:比較的安全

抗うつ剤の妊娠・授乳への影響について、お薬ごとに一覧にしてまとめました。

レクサプロ錠のジェネリック医薬品

レクサプロは、2011年に発売されたお薬になります。

お薬の開発には莫大なお金が必要となるため、発売から10年ほどは成分特許が製薬会社に認められて、独占的に販売できるようになります。(先発品)

レクサプロのジェネリックは、この特許が切れた後に発売されます。(後発品)

ジェネリック医薬品の名称は、近年は薬の一般名がつけられます。レクサプロ錠であれば、エスシタロプラム錠になるかと思います。

ジェネリック医薬品になると、様々な製薬会社が製造を行います。これらのお薬は有効成分は同じですが、それぞれが微妙に異なります。というのも、お薬の製造方法や製剤工夫が会社によって異なるためです。

ですがジェネリック医薬品は、先発品と同じように効果を示すための試験をクリアしていて、血中濃度の変化がほぼ同等になるように作られています。

レクサプロは即効性を期待するお薬ではないため、ジェネリック医薬品が発売されれば、変更しても効果に大きな差はないと推定されます。理屈ではそうですが、心配になってしまう方もいらっしゃいます。その場合はもちろん、先発品のまま使っていくことも可能です。

※ジェネリック医薬品について詳しく知りたい方は、『ジェネリック医薬品とは?先発品との効果・副作用の違い』をお読みください。

カテゴリー:レクサプロ  投稿日:2023年3月23日

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