非定型うつ病の5大症状と合併症とは?

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非定型うつ病とは?

非定型うつ病の症状診断治療について、精神科医が詳しく解説していきます。

非定型うつ病は、世間のみなさんがイメージしているうつ病とは異なる症状の「うつ病」です。

従来のうつ病というと、常に調子が悪いのが続き、周囲からも落ち込みがわかりました。

しかしながら非定型うつ病では、嫌なことがあれば落ち込むけれど、良いことがあれば元気になるという気分反応性がみられます。

周囲も本人でさえも自分の性格と考えてしまうことも多い病気ですが、その落ち込みはうつ病の規準を満たすほどに深く、本人の苦痛も大きな病気なのです。

非定型うつ病の症状としては、

  • 気分反応性
  • 社会生活に支障をきたす拒絶過敏性
  • 過眠
  • 過食
  • 鉛管様麻痺

この5つの症状が大きな特徴となっています。ここでは、非定型うつ病の症状と、よくある合併症について詳しくお伝えしていきたいと思います。

非定型うつ病の特徴

非定型うつ病とは、うつ病の診断基準は満たすけれども、従来のうつ病とは異なる特徴をもつ「うつ病」のことです。まずは従来のうつ病(定型うつ病)との違いをみてみましょう。

非定型うつ病の症状を表にしました。

従来のうつ病は、真面目で几帳面な方がかかると考えられていて、周囲から見ても病気と分かるうつ病でした。症状としても、食欲が落ちて不眠になります。意欲も思考力も低下してしまい、何をするにも憂うつとなります。人との接触を避けようとします。

これに対して非定型うつ病では、憂うつな気分は確かにあるのですが、自分が楽しいことをするような時には、急に元気がでてくるのです。「うつ病で休んでいるのに、海外旅行は楽しめる・・・」といったことすらあります。症状としても過眠や過食が目立ち、周囲から自分を否定されることを極度に敏感になり、周囲に攻撃的になることもあります。

このように、従来のうつ病とは様相が異なる非定型うつ病ですが、調子が悪いときにはうつ病の診断基準を満たすほどの症状があり、本人にも大きな苦痛がある病気なのです。

従来のうつ病は、十分な休養をとったうえで抗うつ剤を服用し、比較的抗うつ剤も効果が期待できました。これに対して非定型うつ病は、単純に休めば治るという病気でもなく、抗うつ剤も効きにくいのです。カウンセリングなどによる精神療法的な関わりが必要となる病気なのです。

症状としては軽症~中等症であることが多いのですが、しばしば慢性化してしまいます。不安障害や摂食障害が合併しやすく、性格として固定してしまうとパーソナリティ障害となってしまいます。そういう意味では、早くから「非定型うつ病という病気」と捉えて治療をしていくことが大切です。

非定型うつ病の症状

非定型うつ病の診断基準をみていただくと、

  • 気分反応性
  • 社会生活に支障をきたす拒絶過敏性
  • 過眠
  • 過食
  • 鉛管様麻痺

この5つの症状が大きな特徴とされています。うつ状態のときは、うつ病の診断基準を満たすレベルの病的なエネルギーの低下が認められます。そのような状態のなかで、

  • 気分反応性は必須
  • 合計3つの症状

が認められた場合に、非定型うつ病と診断されます。

非定型うつ病は、周囲も本人でさえも性格と考えてしまうことが多いです。深い落ち込みがある方は、非定型うつ病である可能性があります。

気分反応性

非定型うつ病の診断基準では、気分反応性は必須の症状とされています。

気分反応性は、基本的には気持ちが落ちこんでいる「抑うつ気分」が続いているのですが、何か良い出来事があると気持ちが持ち上がることをいいます。もちろん嫌なことがあれば、それに敏感に反応して気持ちは沈み込んでしまいます。

例えば非定型うつ病の患者さんでは、うつ状態で気持ちが落ちこんでいても、親しい友人から遊びに誘われると、気分が持ち上がります。その持ち上がり方は様々ですが、さっきまで落ち込んでいた人が別人のように気持ちが軽くなり、身体も動くようになることもあります。しかしながら仕事にいくと、とたんにうつ状態に逆戻りしてしまいます。

このように気分の反応性があります。嫌なことがあれば落ち込むのは当然なので、非定型うつ病の気分反応性は、「何か良い出来事があった時に気分が持ち上がるかどうか」をみていきます。

最近3か月の(抑うつ状態の)気分を0として、まったく気分の落ち込みがない時を100としたとき、50以上の気分の持ち上がりがあれば「気分反応性あり」と考えます。

このようにみると、抑うつ気分が優勢ではありますが、興味や喜びは多少認められています。しかしながら本来の興味や喜びと比べれば、非定型うつ病でも減退していることが多いです。患者さんの自覚症状としては、「興味がわかない」「楽しみが感じられなくなった」といったアンヘドニアとよばれる症状が非常に多いです。

周囲から見れば仮病じゃないかと思われたりしますが、抑うつ状態は病気とみなすほどに深く、患者さん本人は苦しんでいるのです。

一方で定型うつ病では、抑うつ気分だけでなく、興味や喜びの喪失も認められることがほとんどです。以前は楽しめていたようなことがあっても楽しく感じず、常に気持ちが落ちこんでいます。何をしても楽しいと感じない、むしろ苦痛に感じるという方が多いです。

拒絶過敏性

拒絶過敏性も、非定型うつ病の中核症状の一つと考えられています。拒絶過敏性が、この病気の本質に近いことが多いように思います。

非定型うつ病の患者さんは、他人から自分を否定されることに対して、過度に敏感になっています。ささいな一言に悪意を感じてしまったり、ちょっと叱られただけで自分の全てを否定されたかのように感じてしまいます。

この拒絶過敏性は、対人不安が少しずつ発展した結果であることが多いです。他人からどう思われているかを非常に気にして、周囲にあわせて生きてきた方が多いのです。常に他人に対して緊張感を抱いていく中で、やがて破たんして落ち込みが強くなり、非定型うつ病に発展していきます。

例えば、上司に些細な仕事上のミスを指摘をされただけなのに、「自分の能力を否定された」として非常に落ち込んでしまったり、反対に逆切れして攻撃的になったりします。恋人が忙しくて時間が作れなかっただけだとしても、「自分は嫌われているかもしれない」と落ち込むこともあれば、怒り狂って暴言や暴力を相手に浴びせることもあります。

このように、相手から「拒絶」されることに対して非常に「過敏」なのです。過度な思い込みによって、周囲の人間関係も上手くいくはずがありません。周囲からは、自己中心的、身勝手、わがままといったように思われてしまいます。

一方で定型うつ病では、几帳面で真面目な方が多いです。良心的で義務を意識し、決まり事をきっちりと守ろうとする方が多いです。できるだけ周りに合わせようとして生活しています。他人から指摘されても自責的に捉える傾向が強いです。

過眠

非定型うつ病では、睡眠に関しては不眠よりも過眠になることが多いです。うつ病では不眠がほとんどですので、過眠が認められると非定型うつ病を疑うきっかけになります。

過眠とはどの程度かというと、1日10時間以上の睡眠をとる日が週に3日以上あると過眠と考えます。普段の睡眠時間が8時間の方をイメージしているので、本来の睡眠時間よりも2時間以上眠っている日が3日以上あれば過眠と考えます。

このような長時間の睡眠をとっていても、起床時から眠気が残りやすく、お昼寝を1時間以上してしまうこともあります。長時間眠っていても熟眠感が得られないのです。このため生活リズムも乱れてしまいます。

さらには気分反応性と関連していて、嫌なことがあると眠気が増していきます。後述する麻痺症状により身体が鉛のように重たくなり、起きていられずに臥せってしまいます。

過食

定型うつ病では食欲がなくなり、体重も減少してしまう方が多いです。しかしながら非定型うつ病では、過食によって体重増加が認められることが多いのです。

これは落ち込みや不安を紛らわす行動とも考えられています。何かを食べていないと落ち着かないというだけではありません。食べることは本能に通じる行動ですので、脳の中では好ましい行動と感じます。糖分を脳が欲するので、炭水化物を過剰摂取したり、甘いものをたくさん食べます。チョコレートは、セロトニンの材料にもなるトリプトファンを豊富に含んでいて、脳内でのセロトニンを高めて自己治療しているともいわれています。

甘いものを食べて気分が良くなるのは一時的で、すぐに食べてしまうことに嫌悪感を覚えます。多くの場合が女性ですから、太ることに対してさらに落ち込んでしまいます。過食症の患者さんのように、自分で嘔吐したり下剤を乱用する方は少ないです。

鉛管様麻痺

非定型うつ病に特徴的な症状として、鉛管様と呼ばれる麻痺症状が認められます。

定型うつ病でも、易疲労感や倦怠感といった症状は認められます。しかしながら非定型うつ病では、「身体に鉛がのかっているように身体が動かない」というほどに身体がどーんと重くなり、起き上がることもできないほどに全身がだるくなります。このため、鉛管様麻痺と呼ばれるほどに重たい症状となります。

この鉛管様麻痺は一般的に夕方に強くなることが多いですが、これは通常の疲労感とは異なります。嫌なことがあって気分が落ちこむと、それに応じて身体も重たくなるのです。ですから、学校や仕事に行かなければいけない朝に認められることも多いです。夕方になるとストレスの蓄積によって、鉛管様麻痺が強くなることが多いです。

この重度の倦怠感は、本人ではコントロールができません。急に襲ってくるので、周囲からは怠けものに見えてしまいます。ドパミンを増加させる薬が効果を発揮することがあるので、前頭葉のドパミン機能が関係していると考えられています。

不安抑うつ発作と怒り発作

非定型うつ病では、

  • 不安抑うつ発作
  • 怒り発作

の2つの発作が認められます。

不安・抑うつ発作とは、急に不安が強まり、極度に落ち込んでしまいます。「誰も自分のことを理解してくれない」「どうして私は病気になってしまったのだ」という悲観的な気持ちが強まります。そのまま涙に明け暮れることもあれば、他人への嫉妬に変わることもあります。

この不安感をなくすために、衝動的に自己破壊的な行動に出てしまうこともあります。飲酒やむちゃ食い、異性に走ったり、リストカットや過量服薬などの自傷行為などに及んでしまいます。

怒り発作とは、拒絶過敏性によって自分が否定されたと感じた時に生じる発作的な怒りです。相手に対して激高して罵声を浴びせたり、暴力をふるったり、周囲のものを破壊したりします。落ち着くと後悔が強まり、自己嫌悪におちいってしまうことが多く、あくまで発作的な怒りになります。

非定型うつ病は合併症が多い

非定型うつ病は、不安が根底に強い病気です。社会不安障害をはじめ、パニック障害や全般性不安障害などの不安障害を合併する患者さんが多いです。非定型うつ病の拒絶過敏性は、対人不安が少しずつ発展した結果であることが多いのです。ですから、不安障害と病的とまではいかなくても、不安になりやすい気質であることは多いです。

また非定型うつ病は、原因不明の慢性疼痛疾患である線維筋痛症や、片頭痛といった痛みの合併が多いです。過敏性腸症候群や耳管開放症などの自律神経症状による身体の機能異常を合併することも多いです。

非定型うつ病の方の病前性格は、むしろ周囲からは良い人に思われていることが多いです。しかしながら病気の経過のなかで、症状や周囲との人間関係の破綻などから性格も変化してしまいます。病気が長引くとその性格が固定化してしまい、パーソナリティ障害となってしまいます。境界性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害などが合併してしまいます。

まとめ

非定型うつ病は、従来のうつ病とは全く違う症状がみられ、必ずしも休養して抗うつ剤を飲めばよくなるという「うつ病」ではありません。以下の5つの症状が、非定型うつ病の特徴的症状です。

  • 気分反応性
  • 社会生活に支障をきたす拒絶過敏性
  • 過眠
  • 過食
  • 鉛管様麻痺

不安発作や怒り発作が認められます。不安障害や疼痛性障害、パーソナリティ障害などの合併症も多いです。

最近増えてきた新しいタイプの「新型うつ病」と混同されることが多いですが、あくまで非定型うつ病は症状から判断され、「非定型な」うつ病のことをいいます。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:うつ病  投稿日:2023年3月23日

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