【開業を目指す精神科医へ】コンサルは不要!?精神科・心療内科ミニマム開業のすすめ!
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「精神科は机とPCしかいらない」
開業しやすい科目の代表格として、精神科があげられるかと思います。
開業を意識されて精神科医を選ばれた先生も少なくないでしょう。
私自身は産業医を志し、その手段のために開業したことが高じて、いまでは7院を運営する医療法人を経営しています。
精神科だけでなく内科クリニックや自由診療クリニックも運営していると、精神科開業の正解の形が自ずとわかります。
それはズバリ、「ミニマム開業」です。
コンサルなどは、業者からマージンを取るために、ミニマム開業(精神科・心療内科)をすすめてくることは非常に少ないです。
このコラムでは、自身の開業と経営経験をふまえ、精神科で開業を目指される先生をイメージして、精神科開業の本当の姿をお伝えしていきます。
まずは開業医のマインドをイメージ
開業を考えられている先生は、おそらくは行動力が高くて自信のある方が多いと思います。
開業して大きく収益を上げるイメージを持たれている方も、おそらくは少なくないでしょう。
まずは精神科開業では、今の時代はミニマム開業一択であることをお伝えしたいと思います。
ポジショントークに聞こえるかもしれませんが本心で、そのうえでご自身で開業されるのも良いかと思いますし、私たちの法人と協力する形も提案させていただけたらと考えています。
それを理解いただくためには、開業医としてのマインドを追体験いただく必要があります。
クリニック経営3つの苦しみ
クリニックを開業していると、経営での3つの大きな苦しみがあります。
- 集患の苦しみ
- 休めない苦しみ
- 人の苦しみ
まずはこの3つの苦しみを、開業医になったつもりで想像してみてください。
これは非常に重要で、どのような開業をするにしても覚悟をもって始めた方がよいです。
集患の苦しみ
今の時代は、待っていて患者さんはきてくれません。開業当初は患者さんがなかなか増えないことで苦しまれることが多いです。
当院も、初日は1人しか来院されず苦しい時期がありました。
「精神科はなかなか予約がとれない」という話を聞くかと思いますが、東京・神奈川においては少なくとも、そのような状態ではありません。
今やオンラインクリニックともしのぎを削らなければいけない状況で、とくに地縁がなければ、広告戦略を屈指して戦っていく状況です。
一方で田舎では患者さんは比較的集まりやすいですが、人材確保が困難になりがちです。そして患者さんの層が変わってきます。
休めない苦しみ
次の段階で悩みになるのが、休めない苦しさです。
精神科ですから予約がはいっていますし、休む場合は連絡をしなくてはなりません。
お休みをすると当然収入はゼロになりますが、経費は減ることはありません。
コロナ前であれば、ロキソニンを服用して診療するような状況でしたが、今では倫理的にも行うべきではありません。
当院では所属医師が増えることで、院内で代診調整ができるようになり、心理的にかなり負担が軽減しました。
人の苦しみ
そして永遠の課題としてつきまとうのが、人の問題です。
スタッフを雇用すると、何らかのトラブルが起きます。
そして必ず、「この人が急に辞めたら立ち行かなくなる」という状況が訪れ、ときには本当に突然退職され、どうしようもない状況になります。
それを何とかするのが経営者の仕事となり、勤務医としての職場関係と雇用関係は大きく異なります。
時には法的問題に発展することもあり、労働者の権利は非常に強いので、たいていの場合は理不尽な結果で終結することが多いです。
当院も多くの人の入れ替わりがありましたが、組織としての仕組みができるにつれて離職率は大きく低下して、前向きな姿勢で仕事に取り組む文化ができてきました。
うまくいかないときは人間不信に陥る時期もあり、こうなると悪循環してしまいます。
今では、「人を良くするのも悪くするのも組織次第」と思えていますが、多くの開業医が日常的に人の苦しみを感じています。
3つの経営環境でのリスク
クリニック経営自体での苦しみとは別に、外部環境の3つのリスクもあります。
- 突然の新規参入
- 売り手市場での採用難
- 精神科医の定着の難しさ
3つそれぞれについてみていきましょう。
突然の新規参入
精神科のクリニックは、投資もかからず場所も選ばないため、参入障壁が低いといえます。
そして今の時代は、視認性の良い場所よりもインターネットでの立地の方が重要といっても過言ではありません。
精神疾患は慢性疾患の要素が強く、患者さんでプラトーに達すれば大きな心配はないかと思います。
そこまでいかない間に、近くに新しい心療内科・精神科のクリニックが突然できることもあります。
新患獲得のための広告費も増やさなければいけなくなり、経営環境が大きく変わることもあります。
売り手市場での採用難
医療人材は、思った以上に売り手市場になっています。
看護師などの資格職はもちろんのこと、とくに近年大変なのが医療事務の確保になります。
「近さ」と「働き方」と「条件」をみて求職者は応募しますが、ほかのクリニックとの差別化は非常に難しいものがあります。
ですからいくら求人広告をだしても、なかなか個人クリニックには応募自体が来ないです。
その中から戦力となる方を見つけ出すのは大変ですが、選ぶ余裕ももてない医療機関の方が多いと思います。
精神科医の定着の難しさ
精神科医を雇用するとなると、数段のハードルがあがります。
医師は、いってみれば戦国武将のようなものです。
それを束ねていくためには、「関係性か条件か」になりますが、条件での繋がりではたいてい長続きしません。
そして精神科医を雇用すると患者さんが一定数増えますが、退職時に後任探しに苦労することも多いです。
残されたほかの先生に負担がよってしまったり、誰でもよいからと採用したら医療水準が大きく落ちてしまったり、悪循環が始まると止まらなくなります。
勢いがあった医療法人が悪いループの中で没落していくことは、私の周りでもいくつもありました。
その結果としての3つの個人開業のリスクと課題
ミニマム開業が正解となる理由
開業医の目線を少しでも想像いただくと、「悪いことばかりではないか」と思われたでしょうか。
もちろん開業医としての良いこともあります。
苦しみを突破して安定してくると、経済的な充足や社会的地位といった現実的なメリットがあります。
医療は守られた業界ですから、他事業に比べたら格段に成功ハードルは低いです。
一方で、よく開業志される先生がおっしゃられる「自分がやりたいことができる」というのは、幻想に終わることが少なくありません。
経営への意識が強まっていき、「やりたい医療」「本来やるべき医療」ができなくなっている開業医、やらなくなった開業医を多く目にします。
私は、内科・自由診療クリニックも経営していますが、精神科には特殊性があります。
それがゆえに精神科は、心療内科も標榜しての「ミニマム開業が正解」と断言できます。
むしろ中途半端に規模を目指すと、後悔するケースが大半かと思います。その理由をお伝えしていきます。
精神科は単価が一定
精神科では、再診1人5,000円を積み上げていく形になります。
内科では採血やレントゲン、エコーといった検査があり、それによって単価は一気にあがります。
しかしながら精神科では、時おりの採血や診断書くらいしか付加できるものはなく、シングルヒットを量産しているのが実情ですし、誠実な診療をしていれば、どこかで収益の上限にいきつきます。
ですから少しでも収益を確保しようと大手のチェーンクリニックでは、「診断書は1か月まで」「3か月に1回の採血は必須」など、経営本位な方針がたてられているのです。※当法人にはこういったものはないです。
基本的には患者数×単価が収益となりますが、単科アップ(アップセル)の方向には走るべきではないのは言うまでもありません。
ですから精神科では、収入の上限が患者数によって決定されてしまうと考えるべきです。
一方で、患者数を増やすために診療時間が短くなり、3分診療で薬だけ処方して1日100人というクリニックがでてきてしまうのも問題となります。※当法人では1時間6~8人を上限目安としています。
そのかわりに慢性疾患として継続的に通院してくれるので、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が高いといえます。
精神科は経費がかからない
よく言われている通りで、精神科は「机」と「いす」と「PC」があればできます。
設備投資は少なくてすみますし、内装もこらなければ抑えることができます。
とはいっても着手すると実際にはこまごま費用がかかりますが、経験のある私たちは最短コースがわかるので抑えられます。
精神科は「先生」につく要素が大きいので、ホスピタリティ面で劣っていてもなんとかなります。
その一方で内科などでは競合も多く、利便性や快適さなども新患数中心に影響があるため、力を入れる必要があります。
特措法での税制優遇
そして最も大きな理由として、医療機関の経営では「特措法」という税制での優遇措置があります。
これは個人事業主として運営している医療機関での特例で、ざっくりお話しするならば、
- 保険診療報酬年間5,000万以下であれば、概算経費が使える
というものです。
概算経費とは、「〇〇%は経費とみなしてよいですよ」という取り決めで、これがミニマム開業をおすすめする最大の理由です。
実際の経費をできる限り抑えれば、その差額分が節税になるのです。
その結果として、手取りでみた時の収入が大きくなり、中途半端に頑張るより有利になるのです。
恥ずかしながら私は、開業後にこの制度を知り、愕然としました。
ミニマム開業のデメリット
もちろんデメリットもあります。
- いつ特措法が廃止になるかわからない
- 小規模ゆえ属人的になりがち
- 経費が使いにくい
特措法は昭和32年から続いている制度ですが、いつ終わるとも限りません。
そして小規模経営ゆえに、一人のスタッフに頼るところが大きくなってしまいます。
そして経費をできるだけ抑えるスキームになりますので、経費を十分に使うことができません。
後述しますが、当法人の協業スキームでは専門性の高い部分を当法人がカバーし、自由診療部分をうまく活用して経費面でもメリットを最大化します。
私たちの法人が、内科クリニックや自由診療クリニックを運営しているがゆえに可能になります。
昔に比べてスケールが精神科開業で難しい理由
精神科でスケールが難しい最大の理由は、これまでご説明してきた「人の問題」になります。
それ以外でも昔に比べて、精神科でのスケールはハードルが高くなっています。
私自身、内科がなければ分院展開は困難であったと思っています。
その理由をみていきましょう。
精神科関連の診療報酬が低下している
保険診療制度は限界を迎えており、いくらインフレになろうとも、年々減少傾向となっています。
今後は通院精神療法の診療報酬が増えることはないでしょうし、デイケア関係も算定が厳しくなっています。
リワークや就労移行支援事業に株式会社が参入できるようになったことで、医療リワークやデイケアは採算厳しく、閉じているところが増えてきています。
訪問診療に関しては診療報酬上はまだ守られていますが、大きな法人が効率化をはかりシェアを拡大しており、ベースの内科がないと厳しい現状です。
法人化の節税メリットがなくなってきている
これまではMS法人(メディカルサービス法人)を利用した節税や、保険を利用した損金化などのスキームがあり、キャッシュフロー(資金繰り)をよくする方法がありました。
これらの抜け道もどんどんつぶされてしまい、医療法人化するメリットは薄れています。
法人の内部留保には法人税がかかり、さらに個人所得にすれば所得税がかかります。
また個人での医療経営では、基本的には銀行からの借り入れになりますので、事業投資しにくい経営環境となります。
現在の医療法人(持分なし)にするメリットは、退職金の節税効果と、相続の心配少なく子供に継承できることくらいになります。
開業コンサルも使いよう
それでは開業コンサルにお願いすべきでしょうか?
私も開業の際には、知人の紹介で開業コンサルを依頼しました。
150万円で依頼し、業者紹介や交渉窓口になっていただき、行政手続きなどを行っていただきました。
誠実に取り組んではいただいたと思いますが、今思い返すと、思うことはいろいろとあります。
精神科開業においては、ミニマム開業の基本方針を守れば、コンサルは基本的には依頼しなくても大丈夫だと思います。
それよりもむしろ、クリニック見学をして開業の先輩の話を聞くべきです。私もお越しいただける方には、できる限り対応しています。
その一方で、ステークホルダー(利害関係者)を考えれば、うまく活用できる開業コンサルもあります。
開業コンサルはどのように収益をあげているか
それにはまず、開業コンサルタントがどのように収益を上げているかをみていきましょう。
そのキャッシュポイントによって、以下に分けられます。
- 調剤医療モール系:テナント入居と処方箋の応需
- 独立系:各業者からのバックマージン
- 医薬品卸系:今後の医薬品のお取引
- 医療機器系:医療機器の購入
- ハウスメーカー系:内装工事
などです。
開業コンサルタントの基本スタンス
当然ビジネスですから、開業コンサルタントとしては、自分たちにメリットがあることをアドバイスします。
その結果として、「医者にお金を使わせる」という方向に行きがちです。
ですからお金を使わなくなる特措法のことなどは、知っていても口にしないのです。
医者も自信のある方が多いので、口車に乗せられてしまいます。
かくゆう私もその感はあり、もともと精神科のスモール開業の予定が、内科も合わせた中装開業となりました。
ミニマム開業でも利害が一致する開業コンサルタント
精神科ミニマム開業で考えた場合は、医療モールでの開業は考えにくいかと思います。
またミニマム軽装開業ですので内装工事も少なく、医療機器も購入しません。
そうなると唯一、医薬品卸系の開業コンサルタントは利害関係が一致します。
精神科はお薬の処方が多い診療科目ですから、門前の調剤薬局に卸先として組み込ませることを協力すれば、喜んで対応してくださると思います。
開業コンサルタントのメリットは、ペースメーカーになることです。
最近は自身で情報収集して開業する先生も増えていますので、行政系の面倒な手続きなどを代行してもらう感覚で依頼するのもよいと思います。
誠実な精神科外来の場を増やすために
ここまで精神科の開業について、私見をお伝えしてきました。
精神科開業で考えた時に、ここまでの話はポジショントーク一切抜きに、お伝えしてきたつもりです。
私もそうでしたが、開業することを安易に考えていて、開業後には多くの苦労がありました。
それが今では経営力につながっていると思いますが、恥ずかしながら、うつ状態に陥り、判断力がなくなっていた時期もありました。
ですからこれから開業する先生には、医者から利益を得ている方の意見に惑わされず、精神科開業の正しいイメージをもって決断し、同じ状況に直面しても冷静に対応いただける一助になれば幸いです。
精神科開業においては、ミニマム開業の鉄則だけ守れば、失敗しても大けがはしないと思います。
当法人の取り組みについて
この記事を読んでいただいた首都圏で開業を考えられている先生を中心に、私たちの取り組みをご紹介させてください。
私たちはクリニック経営を行っていく中で、様々な知見を得てきました。
そのような中で、開業に関するアドバイスを無償(趣味)で行わせていただいています。
精神科領域での記載をしましたが、内科の先生からもご相談いただくこともあります。
まずは見学いただき、一緒にご飯食べながら話しましょう。
それこそ設計にあたって、「音」の問題や、こまかな「運用の工夫」など、経験者でしかわからない部分があります。
精神科に関しましては、当院ではアントレプレナー制度という形で、協力開業の形があります。
個人開業を超えたメリットと、それでいて高い質の医療を提供できる形をめざしています。
ご興味いただけた先生は、よろしければ以下のエントリーフォームよりご連絡ください。
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「こころみ医学の内容」や「病状のご相談」等に関しましては、クリニックへのお電話によるお問合せは承っておりません。
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【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
(医)こころみ採用HP取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2023年1月3日
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